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「天日干し」で切り拓く未来 ー 透明性と挑戦が導く理想の組織

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「天日干し」で切り拓く未来 ー 透明性と挑戦が導く理想の組織

仕事がうまくいっているときほど、週末も充実している。逆に仕事で悩みを抱えていると、頭のどこかでそれを考えてしまい、プライベートの時間も楽しめない……このような方は、少なくないでしょう。

仕事は人生に大きな影響を与えるもの。だからこそ、充実した仕事時間とするために、職場の雰囲気や組織全体の姿勢、評価方法などはクリアで納得のいくものであってほしいと願う方が大半です。そのためには、コミュニケーションが活性化されるための心理的安全性の担保や意思決定プロセスの透明化し、健全に成長し続けるしなやかで強い組織となる必要があります。

しかし、言うは易く行うは難し。理想の組織にしていくために、具体的にはどのようなことをすればいいのでしょうか。この1つの解となるのが『天日干し経営』の考え方です。

「天日干し経営こそ、透明性のある強い組織を創る」というのは日本最大の人材紹介会社であるリクルートエージェントの元代表取締役の村井満氏。村井氏は2014年に、公益社団法人日本プロサッカーリーグ(以下、Jリーグ)第5代チェアマンに就任し、4期8年の長期にわたる任期を勤め、現在は公益財団法人日本バドミントン協会(以下、バドミントン協会)の会長です。

「個人も組織も“天日干し”で成長する」という村井氏のインタビュー企画。連載2回目となる今回は、「『天日干し』で切り拓く未来 ー 透明性と挑戦が導く理想の組織」と題してお届けします。

予測できない時代を、天日干しの姿勢で切り開く

ーー村井さんは、天日干しの姿勢を経営手法に生かしたり、豊かな人生を送るためのヒントにしたりすることを提唱されていらっしゃいますね。

洗濯物や布団を天日に干すことで、雑菌の繁殖を抑え、害虫対策になる。魚の干物などは、たんぱく質が分解されて、旨味成分が生成されるうえに、保存食にもなります。「太陽のあたる、風通しの良い外気」に触れられるようにしておくことでより良くなることを、人間は古来から気付いてきました。これを経営や人生にも当てはめたらどうかと思ったのです。

経営にとっての天日干しとは、関係者の視線が届くようにしておく姿勢のことです。これは私がリクルートエージェントやJリーグ、そして現在のバドミントン協会でも実践している1つの経営スタイルです。これまで、天日干しの姿勢で、さまざまな困難を乗り越えてきました。

ーー天日干しの姿勢は、例えばどのような時に生きてくるとお考えですか。

例えば、事業開発などの側面から考えても、天日干しの姿勢が生きてくると思います。エネルギー問題や、環境問題に対する危機感が募る現代において、企業がそれぞれ、同じ経営資源を持つ必要があるでしょうか。欠けている部分をさらすことは、経営的にビハインドになるのではないかと考えるかもしれませんが、これからの時代は変わるはずです。つまり、今持っている経営資源を開示し合い、何が足りていないのかをオープンにすることで、お互いに埋め合うことができるのではないでしょうか。重複投資をやめることで、消耗戦になることを防げます。これぞ究極のシェアリングエコノミーですよね。

新型コロナウイルス感染症や、ロシア・ウクライナ問題など、予測しなかったことが起こりえる時代となっています。そんな時代だからこそ、過去の成功体験をなぞっても、ブレイクスルーできない問題がたくさんあります。だからこそ新しい考え方や、解決方法が必要です。そのために天日干しの姿勢は役に立つと考えています。自分の今の状態を隠さずに伝えることで、必要な支援や機会も訪れるのです。

組織の透明性を深める360度評価の正しい活用法

ーー組織を天日干ししようと思っても、その組織が複雑で分断されていたり、階層が多かったりすると、なかなか全体像を関係者の視線にさらすことが難しかったりしますね。何から始めればいいのでしょうか。

必ずここから始めなさい、という意味ではありませんが、人事評価に360度評価を取り入れることはおすすめです。360度評価は、フィードバックの極みと言えます。うまく活用することで、組織の透明性に大きく寄与してくれることでしょう。リクルートやリクルートエージェント、Jリーグのときも360度評価を実施していました。360度評価に役職は関係ありません。トップも含めて皆、関係社員からの評価をもらうのです。

360度評価は、お互いを天日にさらし、率直に伝えあう文化を醸成します。ただ、360度評価をしようとなった場合、どこかの会社が提供するツールを導入すれば大丈夫だと思いがちですが、それだけではうまくいかないかもしれません。360度評価は、社員全員へ評価の意味を浸透させ、目的をしっかりと伝達したうえで、考え抜かれた仕組みができて初めて機能します。360度評価は正しくインストールしなければ、天日干しとは反対の姿になることもあり得てしまいます。

ーーたしかに360度評価を実施してみたものの、うまく活用できないなど、難しさを感じる意見も耳にします。

360度評価を組織のパワーにするためには、心理的安全性の確保はマスト条件です。自分の回答がトップや人事部に見られてしまうと思うと、本音を書きづらくなり、忖度した内容を回答してしまうでしょう。そのあたりの情報セキュリティはしっかり担保すべきです。場合によっては、完全に委託するというのも手だと思います。

また、最近だとAIを使うことも有効です。誰が回答したのかが判別できそうな固有名詞や特定の日時、セクション名などが出てきたときは、完全に削除させることもできるでしょう。特定の個人に対する誹謗中傷がある場合は自動削除するようなプログラムを入れておくことは心理的安全性を担保するうえで、非常に重要です。

それから、最も大切なことは、360度評価の解釈や解析の捉え方です。360度評価は、その人を「仕事ができる」「できない」などと単純な評価をする調査ではありません。人のパーソナリティや能力の発揮度合いは、環境や人間関係、取り組んでいる仕事によって変化します。固定的ではありません。ですから、結果やデータもそのように捉える必要があります。継続してみていく中で、その人が一番能力を発揮しやすい環境や仕事を把握するために利用するようにしたほうがいいのです。「自分を知り、成長する機会」と捉えることができる組織が導入すべきだと思います。

ーーそのような企業になるために、まず明日からできることはありますか。

難しいことではありません。一般的な企業では、360度評価に近いことをすでにやっていると思います。例えばイベントをやったらアンケートを取り、その内容についてみんなで感想や意見を持ち寄って話し合ったりしていますよね。なにかインシデントがあった場合も、背景や過程、対処方法などについてフィードバックを受けることは普通でしょう。その声をお互いに謙虚に聞く姿勢を積み重ねていく。その延長線上に360度評価はあると思います。

個々の能力よりも「拍手と握手」のある組織文化こそが重要

ーー人は環境によって変わるので、固定的ではないとのことでしたが、その意味でいうと「できない社員」は究極的にはいないのでしょうか。

そうですね、すごく優秀な社員であったとしても、パートナーと喧嘩をしたとか、前日に飲みすぎたなどのコンディションによって、ダメな時もあるでしょう。入社直後は希望に満ち溢れているだろうし、退職を考えているときなどは仕事に身が入らないものです。

マネジメント方法や負荷のかかり具合などだけでなく、プライベートで起こったことでも人のパフォーマンスは変わるのです。だからこそ、従業員の一時期の評価よりも、組織がどのような環境を用意できるかという観点のほうが、はるかに重要だと考えています。

ーー詳しく教えてください。

2007年に、リクルートエージェントは「働きがいのある会社ランキング」で1位を獲得しました。「いい会社」をはかる指標は、人気や給与、福利厚生の手厚さなど、さまざまだと思います。私はその中で「働きがい」こそが重要だと考えました。働きがいのある職場では、従業員が商品開発やサービス開発に力を尽くし、結果として顧客の満足度は向上し、最終的には財務面にも良い影響を与えるという調査がアメリカで発表されており、そこに注目したのです。

「働きがいのある会社」を調査しているのはサンフランシスコに本部のあるGreat Place To Work®です。その存在を知って、エントリーしてみた結果、1位を獲得したのです。結果発表は『日経ビジネス』に掲載される形でした。1位を取ったので特集が組まれていたのですが、その時のタイトルが「拍手と握手の会社」でした。嬉しくて、今でも誇りに思っています。

ーー「拍手と握手」。確かに働きがいがありそうです。

拍手と握手が起きるということはつまり、再現性が保証されていないことに、多くの人が挑戦しているということです。生身の人間が、必ず成功するとは限らないことに挑戦するとき、人は固唾をのんで見守ります。CDで聞く音楽に拍手はしないけれど、オーケストラの演奏は大喝采が起きますよね。

生身の人間が、その時々におこることに臨機応変に対応したりして、果敢に挑戦しているから、拍手が起きるし、うまくいったら握手するのです。優秀な人が、毎度同じ手法で売上を上げても、拍手は起きなくなっていきます。手順が決まっていることを作法に従ってやっていては、成果が出ていても将来的には成長も止まってしまうでしょう。

ですから、拍手と握手がおこる舞台を用意できる組織でいるかどうかが非常に重要なのです。

ーー挑戦には、失敗がつきものですが、それでもいいのでしょうか。

もちろんです。私はJリーグ時代、職員に「PD“M”CA」をしようと話していました。Plan(計画)、Do(実行)の次にMiss(失敗)をおいたのです。予測不能な時代だからこそ、何をすれば成功になるのかなど、わからないものです。失敗を恐れて躊躇し、スピード感を失ってしまうよりも、失敗しても、それをCheck(振り返り)し、次のAction(対策・改善行動)につなげればいいのです。だからどんどん失敗すればいい。その健闘を称賛できる組織がいいですよね。

間違えてほしくないのですが、失敗とはやるべきことをやらなかったとか、寝坊したとか、そのようなことではありません。それは失敗ともいえない。失敗とは、新しい挑戦をしてみた結果、目標としていたところに到達しなかったことを言うのです。たとえ同じ「目標未達成」という結果であったとしても、その原因が単なる準備不足なのか、新たな分野や手法に挑戦したけれど失敗したのかによって、そのあとの組織への影響はまったく違います。挑戦した結果の失敗は、成長やイノベーションに繋がっていきますから。

ーー人は環境によってパフォーマンスが左右されるもの。だからこそ、組織は寛大で、正当でありたいという村井さんの言葉に感銘を受けました。ありがとうございました!

最終話となる第3回では、日本最大の人材紹介会社であるリクルートエージェントを引っ張ってきた村井さんに、「理想的な人材紹介会社のあり方」を伺います。AIが台頭してきた昨今、人がキャリア相談に乗る意味とは。人材紹介会社の皆さんだけでなく、採用や、評価に関わる方にとって示唆に富む内容となっています。併せてお楽しみください。

プロフィール

村井 満(むらい みつる)

第5代Jリーグチェアマン/日本バドミントン協会会長

1959年埼玉県川越市生まれ。1983年早稲田大学法学部を卒業後、日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社。営業部門を経て、同社人事部長、人事担当役員。2004年から2011年まで日本最大の人材紹介会社リクルートエージェント(現リクルート)代表取締役社長、2011年に香港法人(RGF)社長、2013年に同社会長に就任。2014年にサッカー界以外から初の起用となる公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)第5代チェアマンに就任。DAZNと10年間2100億円の配信契約を締結するなど財政基盤の立て直しをはかる。2019年には年間入場者数が過去最多を更新し、クラブとリーグの合計収益も過去最高を記録。2020年からの新型コロナウイルス対策ではNPB(一般社団法人日本野球機構)と連携し、迅速な対応で日本のスポーツ界をリードした。4期8年にわたる任期を終え、現在はJリーグ名誉会員、公益財団法人日本サッカー協会顧問、2023年より公益財団法人日本バドミントン協会会長。JOC理事。

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