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人材サービス企業によるSDGs経営とは!世界を変える”ビジョンマッチング”の実現に向けて

現在、世界中で注目されているSDGs(Sustainable Development Goals「持続可能な開発目標」)ですが、日本の人材サービス業界では、一部大手を除きまだまだ浸透しているとは言い難い状況です。

そこで今回は、SDGs経営を掲げるAdecco Group Japanで、Adecco Groupのインターンシップ「CEO for One Month」2018の日本代表に7000人の中から任命され、現在はSDGsリードとしてSDGsを根幹に据えた5カ年中期経営計画の策定に携わった小杉山様にお話をお伺いしました。

 人材サービス企業が経営戦略にSDGsを組み込む意図や、人材業界の活動がどのようにSDGsに繋がるのか、SDGs経営がどのように自社従業員や派遣社員、ひいては社会を変えていくのかについて、同社の社内外に向けたユニークな取り組みを交えてお話いただいております。ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。

Adecco Group JapanのSDGs経営とは

ーまずは、小杉山様のご経歴や現在の業務範囲を教えてください。

小杉山氏:ニューヨーク大学でグローバル・リベラル・スタディーズを専攻し、「ダイバーシティ&インクルージョン」が国際問題を解決する可能性があると考えました。

学外では国連本部にインターンとして参画し、国連総会議長に招待され国連本部における各国大使とのパネルにも参加した経験等から、様々な国際問題を地球規模で考えるSDGsについて高い関心をもつようになりました。

2020年7月より現職である ” Head of SDGs, Adecco Group Japan”として、「SDGsリード」を務めています。SDGsリードは他の企業にはまだあまり存在していない役職かもしれませんが、私は日本におけるHeadとして、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)への取り組みを行っています。

Adecco Groupは世界60の国と地域で事業を展開していますが、そのなかでも日本はグローバルな対応を含めかなり先進的な取り組みを行っています。そこで、日本やスイス本社、及びAdecco Groupの他国拠点を対象にその取り組みを発信し、グループ全体に拡大させていく役割も担っています。

現在、国内でも多くの企業が、既存のビジネスモデルにSDGsの観点を追加していますが、Adecco Groupの特徴としては、経営戦略の根幹にSDGsを据えて5カ年中期経営計画をゼロベースから策定したことにあると思います。その中では、社員の一人ひとりが自分の業務とSDGsを結びつけ目標を定めることで、日々の業務のなかでも意識を高めています。

ーSDGsをビジネスに組み込む意図は何でしょうか?

小杉山氏:SDGsをビジネスに取り入れるには2つの側面があると考えます。1つはリスクの回避、もう1つはビジネス機会の獲得です。

リスクの回避は「社会から選ばれなくなること」を避けるという観点です。現在では、消費者もSDGsへの関心が高く、積極的にSDGsに取り組む企業を選ぶ傾向が強くなっています。企業への入社希望者を募る、あるいは社員の定着を図るといった、社員から選ばれる企業になるという観点においても、SDGsへの取り組みは欠かせないものとなっています。

弊社でも2021年から2025年にかけて5か年計画を策定する際に、我々は単なる営利企業でなく、社会にインパクトを与え、社会から選ばれる企業になる必要があると考えました。

つまり、企業が社会に対するインパクトを最大化したとき、結果として業績も最大化されるべきなのです。そのためには、私たちが実現したい理想の社会から逆算する形でビジネスを構築し、その根幹としてSDGsを組み込んでいくべきだ、という結論に至りました。

我々のSDGsのゴールは2030年となっています。しかし我々は、それより先の社会を見据えたうえで、そこに向けたアクションを通してSDGsを達成することを目標としています。

ビジネス機会獲得の側面で言えば、SDGsはビジネスとの関わりも非常に強く、EVなどの自動車産業を筆頭に、年間のSDGsに紐づくビジネスオポチュニティは世界全体で1200兆円、2030年までにSDGsにまつわる雇用も3億8000万人増加すると試算されています。

実際に、SDGsなどのサスティナブル経営を行う企業は社会信頼度の獲得と共に業績が伸びているというデータがあり、そういった企業には投資による資金や有能な人財が集まりやすくなっています。

このように、SDGsとビジネスは、常に密接に関わっているのです。

しかし一方でSDGsがもたらす経済利益が非常に大きいため、経営者は企業活動を何でもSDGsに紐づけようとする、後付けSDGs(既存のビジネスモデルにSDGsをあてはめること)やSDGsウォッシュ(SDGsをしているように見せかけること)が行われている事例も見受けられます。

経済プレーヤーとしてSDGsの観点でできることを探すのではなく、理想の世の中を実現するために何が必要かを見定めてゴール設定を行い、そこから逆算した企業活動を行うことが非常に重要であると考えています。

ー「SDGsに直結する業務目標」の3つについて、構想と具体例を教えてください。

小杉山氏:①人財がより躍動するために「教育機会の提供により、30万の人財」を輩出し、②人財が活躍できるポジションとして「仕事やポジションを30万」創出し、さらにその2者を③「ビジョンのレベルでマッチングすることの100%実施」して繋げること、これらがSDGsに直結する私たちの業務目標だと考えております。

SDGsの8番の詳細項目5番には「すべての人に、働きがいのある人間らしい仕事をもたらす(一部要約)」という目標があります。

諸外国に比べ、日本には仕事があり恵まれた環境と言えます。しかしその一方で、働きがいを感じて働いている人は25%程度(*1)で、約4人に1人しかいないのが現状です。

(*1)Adecco Group Japan調べ

いきいきと働いている人は、仕事の生産性が3割高い(*)とも言われています。だからこそAdecco Groupでは、人財のビジョンと働く場のビジョンを重ねて、よりいきいきと働けることを目指したビジョンマッチングが重要だと考えています。

(*2)米国イリノイ大学心理学部名誉教授 エド・ディーナー氏らの研究

そして人財サービスのビジョンを達成させる手段として、仕事を選ぶという概念を浸透させていきたいと考えています。

ー働く上でのビジョンを見つけるために、人材サービス会社はどのようなサポートができるでしょうか。

小杉山氏:現状、働く上でのビジョンが無いと答える人は少なくありません。これは、いきなり「何の食べ物が好き?」と聞かれても答え辛い方が多いのと少し似ているかもしれません。目の前の仕事と日々向き合うだけでは、なかなか働く上でのビジョンを見出すことは難しいと思っています。自分はなぜ働くのか、ひいてはなぜ生きるのかを、意識して自ら考えることによってはじめて、その答えを見出すことができると考えています。

Adecco Group Japanの2020年までのビジョンは「キャリア開発があたりまえの世の中をつくる。」でした。その目標達成のために、派遣社員のサポート体制を抜本的に変革しました。一人ひとりの派遣社員に専任のキャリアコーチが寄り添う「キャリアコーチ制度」を構築し、職場が変わっても派遣社員のキャリア開発に伴走する支援体制をとっています。

仕事を通し、その人がどんな時に幸福を感じるのかを見つけ、必要なアップスキリングやリスキリングをサポートするのが、キャリア支援の在り方だと考えています。人財サービス企業だからこそ、働く人一人ひとりのビジョンを見つけるお手伝いをすることができるのです。弊社の社員と話すと、どの社員もそのことにこの上ない喜びを感じていると語っています。

社内外に向けたお取組み

ーどのようにして社内にSDGsを浸透させているのですか?

小杉山氏:Adecco Groupでは昨年の1年間、経営レベルで「ビジネス全体がSDGsとマッチしているか」について毎月評価を行ってきました。全社員に対しても「SDGsとは何か」や「今の経営戦略にSDGsを紐づけること」を説明してきました。

例えば弊社のある営業担当者からは、新規営業の開拓をする際に、職場環境を確認せずに取引先を開拓するのではなく、派遣社員のライフビジョンやキャリアビジョンを実現できる環境や経験が得られる場所なのかが最も重要であると考えるようになったという話を聞きました。お客様の条件に合った人財を紹介するということも重要ではありますが、それだけでなく個人と組織をビジョンのレベルでマッチングすることによってはじめて、企業とは真のパートナーとなり、一緒に世界を変えていくことができると確信しています。

人財サービス企業が、直接的にSDGsに貢献できることは限られているかもしれません。しかし、様々な経済活動に取り組む企業に対し、ビジョンマッチングした人財を紹介することによって、私たちの活動が少しずつ社会に波及し、最終的には我々の顧客と共にSDGsの17項目をすべて埋めていくことができるのです。

SDGs経営を始めて1年経過し、昨年末に行った全社員アンケートでは、これらの経営戦略を通じ「Adecco Groupで働く意義が変わった」と4割以上の社員が答えています。また、長年勤める社員からも「これまでで一番誇りを感じて働いている」といった声もありました。社内の意識は大きく変わってきていると感じます。

ー派遣事業部では、どのような社内変革がありましたか?

小杉山氏:これは2017年からの取り組みですが、「Future WOW!」という全社横断型の働き方改革プロジェクトをしています。(参考記事:https://www.dispa.matchingood.co.jp/trend/1398

この取り組みの一つとして新型コロナウイルスの流行前からリモートワークを推奨していた結果、2020年の半ば強制的な働き方の変化にもスムーズに対応できました。

さらに「ダイバーシティ&インクルージョン」の特徴的な活動として、昨年より全社員が有志で参加できるワーキンググループを発足させました。

ジェンダー・イクオリティ(男女平等など)・LGBTQ・インターナショナル(国籍など)・アクセシビリティ(障がいを持った方など)の4つのグループで、必要なものと、それに対して行えるアクションを、毎月メンバーミーティングで議論しています。それを翌週に私のチームが集約し、各ビジネス責任者と議論します。そして、必要なことはすぐに実現しています。

ー社外に展開しているお取組みがあればお伺いさせてください。

小杉山氏:インクルーシブな社会を作る取り組みの一貫として、Adecco Groupのなかでテクノロジーソリューションを提供するModisという事業部と共に、SDGsにつながる小学生向けイベントを実施しました。2021年12月に実施した「住みやすい街づくり」をテーマにした『ぷろぐライク』というイベントで、プログラミング授業や街中でのフィールドワークを通じ課題解決提案までを行う体験型イベントの第1弾を開催しました。

プログラミングを小学生に教える中で「プログラミングは手段であって目的ではない」という考えのもと、「社会課題の解決」に繋がるような思考を育み、子ども達に体験を通じた学習機会を提供しました。

昨年のイベントでは、プログラミング言語を使用した街づくりのゲーム制作を体験した後、実際に街に出て、車いすで生活する方や視覚障がいのある方、妊娠中の方の体験を通じながら実環境での課題発見調査を行いました。

面白かったのは、プログラミングとバリアフリーを組み合わせて体験してみることで、子どもたちにいろいろな気付きがあったことです。「自分がお腹の中にいるとき、お母さんはこんな感じだったんだ」など、子どもならではの発想もあり、我々も非常に面白い体験となりました。

派遣事業について

ー小杉山さんの考える人材サービス企業の価値とは?

小杉山氏:私は、派遣という働き方はタレント(才能)のある人財を企業に紹介することは、取引先企業にはなかった価値を提供することが可能になり、それが企業と人財の成長と繁栄に繋がっていくと思っています。

私が尊敬するカナダ人のノーベル平和賞を受賞したレスター・B.ピアソン氏の言葉に「平和は相互理解が無いと成り立たない」というものがあります。

これは人財サービス業界に通ずるところがあると思っており、人財サービス会社と、派遣社員との相互理解が大事だと思っています。ただ書面上でどんなスキルがあって、どんな条件で働けるかといった表面的な理解ではなく、その人の本質的な心やビジョンを見ることが大切であり、だからこそAdecco Groupでは人材を”人財”と考えているのです。

ー人材サービス会社で働く方たちへのメッセージをお願いします。

小杉山氏:働き甲斐は「あったらいいな」ではなく「あるのが当たり前」であることだと考えています。ビジョンを実現するために「苦」ではなく、自分がワクワクして初めて対価が得られるのが仕事である、とお伝えしたいです。

そして、派遣という働き方はプロフェッショナルな働き方であることがもっと社会全体に認知されなければならないと思っています。派遣社員にまつわるニュースでも、派遣労働者の課題ばかりが取り上げられ、積極的に派遣という働き方を選んでいる方のストーリーはあまり表に出ていません。

弊社一社の力だけでは及ばずとも業界全体で訴えていけば、派遣という働き方が高度な働き方だという認識をもっと世の中に浸透させ、イメージを変えていくことができると信じています。

弊社では、全社横断型の様々なプロジェクトが実施されていますが、トップダウン型だけでなく、現場の社員の声を吸い上げ、アイデアを反映させながらボトムアップ型でも活動を広げています。SDGsへの取り組みに関しても、弊社の取り組みがムーブメントとなり「小さなドミノが徐々に大きな駒を倒していく」ようなイメージで社会へも拡がっていくことを期待しています。

アデコ様「キャリア採用」のご紹介

Adecco Group Japanでは、「『人財躍動化』を通じて、社会を変える。」というビジョンを掲げ、「企業と求職者一人ひとりが抱く、将来のビジョンを結びつけて長期安定雇用を生み出していく」ことを目指しています。

そうした想いやビジョンに共感し、主体的に行動できる方を募集しています。

https://www.adeccogroup.jp/recruit/recruit/career

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