特定技能とは、2019年4月に新設された、外国人労働者に発行される比較的新しい在留資格(ビザ)です。
特定技能の目的は、一定水準を満たした技能や知識を持つ外国人労働者を受け入れることで、日本国内で人手不足が深刻化している特定の産業における労働者不足を解消することにあります。
特定技能は1号と2号に分けられており、現在は外国人を受け入れ可能な業種が全部で14種となっています。これらに従事するためには、労働者となる外国人が、それぞれの分野別に実施される試験に合格しなければなりません。また受験資格に関する要件や、合格後の活動範囲も細かく規定されており、他の外国人就労ビザよりも複雑なのが特徴です。そこで今回の記事では、この特定技能における「建設分野」について、試験内容や注意すべき業務の範囲などを徹底解説します。
2022年5月現在、人材派遣で対応できる特定技能は「農業」と「漁業」の2業種に限られています。しかし今後の法改正により、特定技能の派遣対象が拡大される可能性は否定できません。また、特定技能外国人労働者の増加を見込み、人材派遣事業から人材紹介事業へ業務を拡大する企業も目立っています。
そこで、これから特定技能ビザを持つ外国人労働者の受入れを活発化したいと考えている人材派遣会社の運営に携わる方は、ぜひ本記事を参考にしていただければ幸いです。
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特定技能「建設」の人手不足
令和4年3月に、国土交通省不動産・建設経済局建設市場整備課が行った建設労働需給調査結果によると、かた枠工(土木)・かた枠工(建築)・左官・とび工・鉄筋工(土木)・鉄筋工(建築)・電工・配管工の全8業種の中で、左官工以外の業種で人手不足となっており、その中でも鉄筋工(建築)が特に不足率が高くなっています。
現在の日本国内では、建設業界に労働者の供給が少ないことに加え、現役の労働者が高齢化していることを考えると、今後ますます人手不足となる可能性が高いと考えられています。
特定技能「建設」の概要
このような状況を解消するため、海外からの労働者を積極的に受け入れようとする流れが高まっています。
特定技能外国人を受け入れるメリットは、これまで主流であった技能実習による就労に比べ、工事現場で即戦力となる人材を採用できることです。それは、対象となる外国人労働者は「相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務」を行える人材だからです。しかも、特定技能は就労ビザに該当するため、雇用契約を結べば比較的早く採用できます。このように、特定技能外国人を受け入れることで、これまでハードルが高かった外国人技術者や労働者をスムーズに採用でき、即戦力となる人材を確保できる可能性があります。
ただしターゲットとなる外国人は、出身国などの外国で建設業界に従事してきた人に限られるため、難易度も高くなります。
しかし、特定技能の建設分野に従事した場合、特定技能1号は5年間有効となり、その後には特定技能2号への移行も可能です。特定技能2号になると、在留期間の更新制限がなくなり、家族の同居も認められます。
特定技能「建設」の対象職種
特定技能「建設」では、外国人技術者が従事できる業務が指定されています。特定技能1号では、下記の業務を外国人に任せることができます。
- 型枠施工
- 左官
- コンクリート圧送
- トンネル推進工
- 建設機械施工
- 鉄筋施工
- 鉄筋継手
- 内装仕上げ/表装 ・とび、建築大工
- 配管
- 建築板金
- 保温保冷
- 吹付ウレタン断熱
- 海洋土木工
ただし、準備や点検などの資格が必要でない付属業務については、特定技能外国人も実施できます。なお、上記以外の業務についても、今後対応範囲を拡大する動きが高まっています。
雇用形態
特定技能における建設分野では、2022年5月現在直接雇用のみ認められており、派遣での採用は認められていません。
給与
特定技能における建設分野では、給与について、同じ労働を行う日本人と同水準か、それ以
上にしなければなりません。
特定所属機関(受入れ企業)の注意点
特定技能の外国人を受け入れる企業には、いくつかの注意点があるため以下のポイントを確認しておきましょう。
建設業許可
受け入れ企業は建設業許可(建設業法第3条)を得ている必要があります。
一般社団法人建設技能人材機構への加入
また建設業許可を得ている上で、大手ゼネコンなどによって設立された「建設技能人材機構」(Japan Association for Construction Human Resources。以下、JAC)に加入する必要があります。
JACでは、正会員でも賛助会員でも受け入れが可能となっています。議決権を持つ正会員の場合は原則36万円、賛助会員の場合は原則24万円の年会費が必要です。
なおJACは、以下のような事業を行っています。
1.海外における教育訓練の実施
日本語教育や技能・安全衛生教育、日本文化・ビジネスマナー教育等の教育訓 練を行う海外の関係機関等との連携を図り、必要に応じて講師の派遣や資機材の 調達等を関係する建設業者団体と協力して実施する。
2.建設分野特定技能1号評価試験の実施
建設分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針(平成 30年12月25日閣議決定)で定める試験区分についての建設分野特定技能1 号評価試験をベトナム又はフィリピンで実施する。また、一部の試験区分につい ての建設分野特定技能1号評価試験を日本国内で実施する。 このため、当該試験の実施に係る各種調整を行うほか、会場の確保、受験者の 募集、当該試験の実施に係る試験官の派遣や資機材の調達等を関係する建設業者 団体と協力して実施する。
3.無料職業紹介事業の実施
特定技能外国人の受入れを希望する建設企業からの求人情報等を集約し、建設 分野特定技能1号評価試験等の合格者及び技能実習2号修了者等の試験免除者 に対して就職先の斡旋を実施する。加えて、転職を希望する特定技能外国人に対 する転職先の斡旋を実施する。
4.母国語相談への対応・巡回指導等の実施
特定技能外国人からの苦情・相談への母国語での対応のほか、特定技能外国人 を受け入れる建設企業の行動規範の遵守状況及び建設特定技能受入計画の実施 状況の確認のための巡回指導等を適正就労監理機関(一般財団法人国際建設技能 振興機構 FITS)への委託により実施する。
5.説明会の開催
建設分野の特定技能外国人の適正かつ円滑な受入れが行われるよう、特定技能 外国人の受入れを希望する建設企業等の関係者を対象とした説明会を開催する。
6.広報活動の推進
当機構のホームページ等で業務内容や取組等を周知し、事業の進展に応じてホ ームページを充実させるとともに、関係者への情報の発信を行う。
7.業務運営体制の整備
今後の業務運営の基盤となる必要な人材、機材等の確保を行う。
※参照:https://jac-skill.or.jp/files/jigyoukeikaku_r2.pdf
雇用できる人員の上限
また、特定技能外国人を雇用できる人員の上限として、企業に在籍する常勤職員よりも特定技能のビザで受け入れる人数を多くすることは禁止されています。
国土交通大臣による建設特定技能受入計画の認定
また、これまで技能実習として建設業に従事してきた外国人技術者を採用したり、特定技能をすでに持つ転職者を新たに雇用する場合でも、国土交通省の大臣による認定が必要となります。
建設キャリアアップシステム
特定技能の建設分野においては、建設業振興基金が運営する建設キャリアアップシステムへの事業者登録を行う必要があります。これにより、外国人の在留資格・安全資格・社会保険加入状況の確認が現場ごとに可能となり、不法就労を防止できます。そこで、計画書にも建設キャリアアップシステムの事業所番号(事業者ID)を記載しましょう。
なお、上記の条件を満たさずに、雇用する外国人技術者が不法就労とみなされた場合、入管法第73条の2第1項の罪により「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」に処せられる可能性があります。
特定技能「建設」人材を採用するには
特定技能の建設分野では、技能実習と異なり、同業種間での転職が認められています。
なお、外国人技術者の採用に強い人材紹介会社などがいくつか存在しますが、特定技能「建設」において、このような人材ブローカー経由での採用は禁止されています。
そのため、人材紹介はすべてJACを通じて行わなければなりません。
無料職業紹介事業の実施
特定技能外国人の受入れを希望する建設企業からの求人情報等を集約するため、JACでは、建設分野の特定技能1号に関する評価試験の合格者及び、技能実習2号修了者等の試験免除者に対して、就職先の斡旋を実施しています。加えて、転職を希望する特定技能外国人に対 しても、転職先の斡旋を実施しています。
参照: 一般社団法人 建設技能人材機構 JAC 令和2年度事業計画書
そのため求人企業は、まずはJACに求人を出すこととなります。求人に関する説明会は全国で行われていますが、新型コロナウイルスの影響により中止となるケースもあるため、最新情報についてはJAC公式サイトをご確認ください。
参照:JAC公式サイト
技能実習2号からの移行
技能実習の2号を「良好に修了」したと認められる外国人労働者については、特定技能試験が免除され、技能実習から特定技能への在留資格変更を行うことができます。
この「技能実習2号を良好に修了している」状態は、以下のように定義されています。
・技能実習を2年10か月以上修了していること
・技能検定3級、もしくはこれに相当する技能実習評価試験(専門級)の実技試験に合格していること。または受かっていなくとも、受入企業が外国人の実習中の勤務・生活態度を記載した評価に関する書面により、技能実習2号を良好に修了したと認められること。
上記2点を満たすことが必要です。なお「改善命令」や「改善指導」を受けていない企業の場合は、実技試験の合格証明書の写しと評価調書の提出を省略できます。
試験の概要
その際は、まず最初に日本国際教育支援協会(JLPT)の運営する日本語能力試験の「N4」レベル、または国際交流基金の運営する日本語基礎テストに外国人を合格しなくてはなりません。その上で、建設技能人材機構(JAC)の運営する「建設分野特定技能評価試験」に合格する必要があります。
詳しくは、ディスパ!の「特定技能試験の「日本語」と「技能」各試験内容や申込み方法を徹底解説!」をご参照ください。
特定技能「建設」のまとめ
このように、日本の建設業界においては、労働者不足が顕著となっており、外国人労働者の需要が特に高くなっています。
2022年4月現在、人材派遣で対応できる特定技能は「農業」と「漁業」の2業種に限られています。しかし今後の法改正により、特定技能の派遣対象が拡大される可能性も否定できません。
実際に、2022年には特定技能2号の対象分野が追加される見通しとなっており、今後も法改正が実施される可能性が高いと言えるでしょう。
このように、特定技能は国内で人手不足が深刻となっている産業を対象とした在留資格です。この制度は比較的新しい制度ではあるものの、深刻な国内の労働者不足を解消するきっかけとなる可能性があります。
そのためにも人材を雇用する側と、派遣、紹介する側がルールをしっかりと理解し、外国人労働者を不法就労や違法な求人に斡旋しないよう注意することが必要です。
これから特定技能外国人の受入れを活発化したいと考えている人材派遣会社の方は、ぜひ本記事を参考にしていただければ幸いです。