人手不足が声高に叫ばれている近年、人材派遣業界もその流れを受け、大きく市場が拡大しています。企業の採用は経営の要です。このような中、人材確保に貢献したいと、人材派遣業を新たに開業する企業も少なくありません。
ただ人材派遣業を開業するにあたっては、多額の資金や事務所などを用意する必要があるため、それらの基準をクリアしつつ利益を確保できる体制作りが重要となります。
そこで今回は、人材派遣業は本当に儲かるのかを、利益率や必要となる経費などから考察し、成功するためのポイントを解説します。
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人材派遣業の儲けの仕組み
人材派遣会社では、自社で雇用する派遣社員の労働力を派遣先の企業に提供することで「マージン」を上乗せした報酬を得ることで利益を出しています。
このシステムから、人材派遣業は「ピンハネ業だから楽して儲けている」などと揶揄されることがありますが、実際にはそれほど大きな利益があるわけではありません。
以下では、人材派遣の種類や利益率、成功のポイントなどを順に解説していきます。
そもそも人材派遣とは
人材派遣業とは、自社で雇用した社員を派遣先の企業へ派遣し、労働力の提供を行う事業を指します。
人材派遣に関する法律である労働者派遣法では、人材派遣を「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることを業として行うこと」と定義しています。
人材派遣の仕組み
人材派遣の仕組みを図で示すと、以下のような雇用関係となります。
人材派遣では、派遣元となる人材派遣会社が人材を雇用して派遣先で労働させることにより、派遣先の企業から派遣スタッフの給与と共に派遣のマージンを受け取ります。
人材派遣の種類
人材派遣には、以下の3種類の形式があります。
- 一般派遣
- 特定派遣
- 紹介予定派遣
ただし、一般派遣と特定派遣についての法的な区分はH27年の派遣法改正により撤廃され、現在、すべての派遣が許可制となっています。(法改正前は特定派遣が届出制)
それぞれを解説します。
一般派遣
一般派遣派遣とは、派遣会社が派遣労働者を「登録者」として募集し、派遣先企業に合う人材を選んで派遣します。
一般派遣では、派遣会社が派遣契約期間中のみ登録者を社員として雇用し給料を支払うため、派遣契約が終了次第、派遣社員と派遣会社との雇用契約もなくなります。
このように、一般派遣は登録者を派遣していない期間について、給料の支払いが発生しないのがメリットです。
特定派遣
特定派遣とは、派遣先の有無にかかわらず、派遣労働者を社員として雇用します。特定派遣の派遣社員の場合は、派遣会社に正規雇用の社員のような働き方が可能です。
特定派遣では、派遣会社が派遣社員の派遣先がない期間中でも給料を支払う必要があるため、リスクを伴う可能性があります。また、雇用される労働者は正社員ではないため、昇進などの期待ができないのも特徴です。
この特定派遣は、一見すると労働者にメリットの大きな雇用に感じますが実のところ不安定な雇用となることが多かったため、H27年の法律改正時に廃止されました。
紹介予定派遣
紹介予定派遣とは、派遣先に直接雇用されることを前提とした派遣です。そのため、6ヶ月程度を目処に派遣社員として就業し、そのご派遣先の企業と雇用契約を結び直す契約スタイルとなります。
紹介予定派遣では、派遣期間の終了時に派遣社員と派遣先企業が合意すれば、当該派遣社員が正社員、または契約社員として就職できます。原則として派遣期間を最長6ヶ月とし、短縮も可能です。
派遣先企業としては、すでに経験のあるスタッフを即戦力として採用できるメリットがあります。また派遣社員には、自分に合った会社を見つけられるメリットがあります。
一方で人材派遣会社は、派遣社員と派遣先のマッチングが成功した場合に、紹介手数料を通常のマージンとは別に徴収できるのがメリットです。
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人材派遣会社の設立費用
人材派遣会社を立ち上げる場合には、資産要件として「2,000万円以上の基準資産額」が必要となります。また、資産のうち1,500万円以上の現金が必要です。
人材派遣会社では、用意する事業所の面積にも規定があります。準備する事務所の面積は、約20平方メートル以上あることが要件となっています。このように、事務所の賃料や人件費などを鑑みると、人材派遣業の起業には高額な資金が必要と言えるでしょう。
人材派遣の運営に必要な資格
人材派遣業を開業・運営するためには、派遣元責任者を1人以上おく必要があります。
派遣元責任者の資格は派遣元責任者講習を受講するだけで取得できますが、原則として実務経験を3年以上積んでいることが前提条件となるため、事前に確認しておきましょう。
なお講習会は全国で開催されており、費用は5,000円~10,000円程度となっています。
人材派遣業の収益に関する利益の割合
人材派遣によって、人材派遣会社が得られる利益の割合は、派遣先や職種によって異なります。以下では、人材派遣会社が受け取るマージン率の平均的な数値や、人材派遣会社が得られる利益の内訳を解説します。
人材派遣会社のマージン率
派遣会社のマージンの金額は「派遣先企業からの報酬-派遣社員へ支払う賃金」で計算できます。そしてマージン率とは、派遣先企業から支払われる派遣料金と、派遣労働者への賃金の差額の割合のことです。基本的に、エンジニアなどの専門的な職種ほどマージン率が高く(約30〜40%程度)、一般的には20%~30%程度が平均的なマージン率となっています。
人材派遣会社が得られる利益
人材派遣会社は、派遣スタッフを派遣した派遣先の企業からマージンを上乗せした報酬を受け取り、派遣社員へ給与などを支払います。そして残った金額が、人材派遣会社が得られる利益となります。受け取る報酬と支払う給与、利益などの大まかな内訳は以下の通りです。
派遣先から受け取る報酬(売上)を100%とする
派遣社員へ支払う給与:70%
派遣社員に関する社会保険料や福利厚生費用などの人材管理費用:15.1%
その他の経費:13.7%
派遣会社の営業利益:1.2%
※引用データ:一般社団法人 日本人材派遣業界
以下で、それぞれの詳細を解説します。
派遣社員の給料が70%
派遣先の企業から受け取った報酬(売上)のうち、約70%が派遣社員の給与として支払います。このように、まず派遣料金の大半を占めているのが派遣社員の給料です。
ただし70%はあくまで目安であるため、派遣先や職種によってマージン率は変化します。
派遣社員の人材管理費用が15.1%
給料以外にも派遣会社が負担する費用があります。それは、派遣社員に関する人材管理費用で、売上全体の15.1%を占めています。おおよその内訳は次の通りです。
- 社会保険料:10.9%
- 福利厚生費や有給費用など:4.2%
このように、派遣社員の給与と人材管理費用などを合計すると、これだけで85%を超えていることが分かります。
人材派遣会社の営業利益は1.2%程度
このように、派遣社員に関する費用(給与も含む)と、会社の運営にかかる諸経費を差し引くと、人材派遣会社の営業利益はおおよそ1.2%程度となります。なぜなら、人材派遣会社の運営に関わる諸経費も多くあるからです。
人材派遣会社の運営に関わる諸経費の例
- 人材募集にかかる費用
- 事務所などの賃借料
- 営業などの人件費
- 労働者のための相談受付などの運営費
- 労働者の研修・教育費用 など
上記のような諸経費については、ある程度の削減も可能です。しかし、企業が負担する研修や教育費用、社会保険料などは年々増加傾向にあるため、大幅に削減するのは難しいのが現実です。そのため人材派遣を成功させるには、営業利益を向上させる対策が必要不可欠と言えるでしょう。
人材派遣を成功させるためのポイント
人材派遣を成功させるためには、次の4つのポイントを押さえた運営が重要です。以下では、人材派遣を成功させるためのポイントを解説します。
優秀な人材を確保する
派遣会社が安定した企業運営を行うためには、派遣先である取引先を確保し続けることが重要です。そのためには、優秀な派遣人材を確保しなければなりません。
派遣先の企業が派遣スタッフを採用する理由には、未経験者よりも実務経験がある人を必要としているからです。実務経験者であれば、すぐに業務を遂行でき、自社の利益の向上に直結するからです。
人材派遣会社が優秀な人材を確保するためには、待遇や福利厚生を充実させることが重要です。とくに研修や教育制度が整っている会社が人気です。もちろん、他の会社よりも高い給与を支払える会社も優秀な候補者を集めやすくなります。派遣労働者を募集する際は、他の会社にはない強みを作り、差別化した内容を積極的にアピールしましょう。
派遣先を新規開拓する
派遣先企業を増やすためには、新規の派遣先の営業に力を入れることも大切です。新規開拓のためには、見込みのある会社をリストアップして交渉するだけでは足りません。その会社や業種の特徴をリサーチし、どのような人材が足りていないかを事前に調査しましょう。そして、必要となりそうな人材の提案を積極的に行いましょう。
経費を削減する
人材派遣を成功させるためには、経費の削減も大切です。ただ、削減できる経費には限界があるため、変動費のコントロールのみを行います。無理に派遣スタッフの給与を下げたり、社会保険料を支払わないといった不正を行うと、派遣許可を取り消される可能性があるため注意が必要です。
人材派遣専門のコンサルタントに相談する
人材派遣に関して、分からないことや疑問などがあれば、専門のコンサルタントに相談することをおすすめします。
人材派遣会社の立ち上げや運営にはさまざまな法律が関わることから、すべてを自社のリソースで処理しようとすると、かえって費用が嵩むケースも少なくありません。そこで、人材派遣専門のコンサルタントに相談することで、素早く解決できるでしょう。
人材派遣業の儲けに関するまとめ
このように、人材派遣業の利益は決して高いとは言えません。そのため、人材派遣業で儲けを得るためには、派遣社員を大量に雇用し、大量に派遣するといったスケールメリットを活かすことが重要と言えるでしょう。
また人材派遣には本記事内で紹介したように、登録型派遣・無期雇用派遣・紹介予定派遣の3種類があります。人材派遣会社を立ち上げる際は、それぞれの特徴を理解し、適切な派遣方法を選択することも大切です。
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