人材派遣会社を運営するにあたっては、様々な契約書類を作成しなければなりません。
派遣元の企業として派遣社員と締結する契約や、派遣先の企業と締結する契約など、その種類も多岐にわたります。
今回ご紹介する『労働者派遣契約書』は、派遣先の企業と締結する最も基本的な契約の書類です。この労働者派遣契約書は、人材派遣会社が派遣先に労働者を派遣するために必ず作成する重要書類となります。
以下では、労働者派遣契約書の内容から作成、保管まで、必要なことを詳しく解説します。
人材派遣会社の運営に携わっている方は、ぜひ参考にしてください。
派遣契約書
労働者派遣契約書とは、労働者を派遣する「派遣元」と労働者が就労する「派遣先」が締結する契約書です。
労働者派遣契約書には労働者派遣基本契約書と労働者派遣個別契約書の2種類があります。
今後、派遣元と派遣先の企業が永続的に取り引きを行う際には、まず労働者派遣基本契約を結び、個々の労働者を派遣するごとにその都度労働者派遣個別契約を結ぶのが一般的です。
この労働者派遣契約書は、基本的に労働者の雇用を守るものとして扱われていますが、実際には派遣元や派遣先の業務の正当性を証明する資料でもあります。そのためにも、この労働者派遣契約書を漏れなく作成し、保管と管理を行うことが重要となるのです。
以下では、この労働者派遣契約書について、更に詳しく解説していきます。
労働者派遣基本契約と労働者派遣個別契約
労働者派遣契約書は、労働者派遣基本契約書と労働者派遣個別契約書がありますが、どちらも派遣元の会社と派遣先の会社で締結します。
労働者派遣契約書の1つである労働者派遣個別契約の締結は、法律で義務付けられています。それに対して、労働者派遣基本契約はその義務を負いません。
しかし、労働者派遣基本契約書は派遣元と派遣先の双方が確認する必要のある法的な内容を記載するもので、取り引きを開始してから企業間でトラブルを起こさないためにも、まずは労働者派遣基本契約書を作成し、その後で労働者派遣個別契約書を作成するようにしてください。
また作成後は、企業の機密事項などの情報が含まれる資料であるため、厳重に保管する必要があります。可能であれば、紙媒体での保管とともにデータ保存も同時に行って下さい。
データ保存をすることで、いつ、どこにいてもオンラインでの仕様の共有ができるので便利です。
労働者派遣基本契約書
労働者派遣契約書に記載する内容は、労働派遣法ではなく民事に基づくために、記載事項の内容は原則自由に設定できます。しかし、企業間だけでなく派遣社員においても、それぞれの当事者とのトラブル発生を避けるために、労働者派遣基本契約書に記載する内容については十分に吟味し、できる限り専門家のアドバイスを求めるようにしましょう。
労働者派遣基本契約書の記載事項
労働者派遣基本契約書に記載する内容については、以下の項目を踏襲することで大きなトラブルを回避できる可能性が高まります。
労働者派遣基本契約書に記載すべき内容は下記の通りです。
- 1.派遣労働者への支払い要件(派遣料金の決定や、派遣先の休業損害金など)
- 2.派遣元と派遣先双方の義務(法令の遵守や守秘義務)
- 3.派遣労働者によって派遣先が損害を被ったときの損害賠償の取り決め
- 4.禁止事項として反社会的勢力の排除を明記する
- 5.知的所有権などの帰属案件について
- 6.契約解除事項
- 7.雇用の禁止
以下では、それぞれの項目を解説します。
1.派遣労働者への支払い要件(派遣料金の決定や、派遣先の休業損害金など)
労働者派遣法では、基本的に派遣料金の金額についての取り決めはありません。決められているのは支払い額の算出方法や支払い方法、支払い時期などです。そこで、派遣元と派遣先であらかじめ話し合いをしておきたい項目として「派遣先の都合による休業補償」を付加していけば、今後にコロナ禍のような事態が起きても対応できるでしょう。
2.派遣元と派遣先双方の義務(法令の遵守や守秘義務など)
派遣元と派遣先双方が法令遵守や守秘義務を履行することは、企業間の契約では当然の約束事です。しかし、両社の認識が異なってしまうと、後で紹介する派遣法に違反することも考えられます。もしも派遣先に違反が見つかった場合は、派遣元の会社も刑事罰や民事罰を受ける可能性もあるので、注意が必要です。
3.派遣労働者によって派遣先が損害を被ったときの損害賠償の取り決め
労働者派遣業務では、あくまで派遣先へ労働力の提供を行っているだけです。そのために、派遣労働者が派遣先へ損害を与えた場合でも、派遣元は損害賠償をする義務はありません。この項目を明記するためにも、双方が納得できる損害賠償責任についての限定条項を付加しておくことをおすすめします。
4.禁止事項として反社会的勢力の排除を明記する
派遣元が派遣先に対して、または派遣先が派遣元に対して反社会的勢力の排除項目を設けることも現代社会では必要です。もしもこれに違反した場合の責任についても明記しましょう。
5.知的所有権の帰属案件について
知的所有権とは、プログラミングや美術、音楽などの著作権等を含む知的財産権が発生する案件です。その取扱いを明確にしておくことで、トラブルを未然に防ぐ効果があります。
6.契約解除事項
派遣先の都合によって、派遣労働者の契約が解除されることに対応できる項目も設定しておきましょう。また、万一の派遣先の倒産に備えた契約解除だけでなく、派遣労働者に対する個別契約を更新しない場合の対応も明記しておくと安心です。
派遣先が何らかの理由で契約の更新をしない時でも、派遣労働者は派遣元の責任を問うこともあり得ます。派遣先と協議を行って派遣労働者の保護を行い、自社の責任を果たすことにも役立てて下さい。
7.雇用の禁止
派遣先が、派遣契約中は派遣労働者を直接雇用しない旨を設けます。派遣先が派遣労働者に直接雇用をもちかけたというトラブルは、発生しがちなので記載を設けることをお勧めします。
労働者派遣個別契約書
上記のように、労働者派遣基本契約書が派遣元と派遣先の認識を確認する契約であることに対して、労働者派遣個別契約書では法律に基づいた事項が記載の中心となります。
労働者派遣個別契約書の記載事項
労働者派遣基本法に対して労働者派遣個別契約書では、派遣法第26条にある項目のすべてを網羅する記載が必要です。また、労働者派遣個別契約書では派遣される派遣労働者の就労条件や人数を定めることになるため、注意が必要となります。
労働者派遣個別契約書に記載すべき内容は下記の通りです。
- 1.許可、届出番号について
- 2.業務内容について
- 3.業務に伴う責任の程度
- 4.派遣社員が就業する事業所の名称と住所
- 5.派遣社員が就業する組織単位について
- 6.指揮命令者について
- 7.就業日と派遣期間
- 8.就業時間と休憩時間
- 9.安全衛生について
- 10.派遣社員からのクレーム処理について
- 11.雇用安定措置について
- 12.派遣元責任者と派遣先責任者について
- 13.時間外・休日労働について
- 14.派遣社員の人数
- 15.福祉について
- 16.派遣社員の種類(無期雇用派遣労働者や60歳以上の者に限定するか否か)について
- 17.派遣終了後の直接雇用の場合に当事者間の紛争を予防するための措置について
- 18.(紹介予定派遣の場合は)紹介予定派遣について
以下では、それぞれの項目を解説します。
1.許可、届出番号について
派遣元事業主の許可・届出番号を誤記なく記載して下さい。
2.業務内容について
派遣労働者が派遣先で従事する業務内容の詳細を記載します。
3.業務に伴う責任の程度
派遣労働者に役職がある場合はその役職名、ない場合はその旨(「例:役職なし」)を記載して下さい。
4.派遣社員が就業する事業所の詳細について
派遣労働者の就労先(派遣先)の名称や住所、電話番号などを正確に記載して下さい。
5.派遣社員が就業する組織単位について
派遣労働者が就業する所属部や課について記載しておきます。
6.直属上司について安全衛生について
派遣労働者を指揮する上司の所属部署や役職名を記載します。
7.就業日と派遣期間
派遣社員の就業日や派遣する期間を記載します。
8.就業時間と休憩時間
派遣社員の就業時間について、開始時間・休憩時間・就業時間を分かりやすく記載します。
9.安全衛生について
派遣社員の安全と衛生についての事項を記載します。
10.派遣社員からのクレーム処理について
派遣社員からクレームが出た場合には、クレームを受けた担当者と、クレーム先の所属部署名と役職名、電話番号などをできるだけ詳細に記載します。
11.雇用安定措置について
派遣社員の契約解除に関する事前申し入れや就業機会の確保、損害賠償等に係る適切な処置などを記載することで、派遣元のリスクを軽減できます。
12.派遣元責任者と派遣先責任者について
派遣会社の責任者が派遣元責任者で、派遣先の責任者とともに氏名や役職などを記載します。派遣先責任者については、対象の事業所毎の派遣社員1~100人につき1人以上を社員から選任しなければなりません。
13.時間外・休日労働について
労働者派遣個別契約書では、労働者の時間外労働時間を1日、1ヶ月、1年といった単位で記載します。また休日労働についても、1ヶ月の休日労働日数を記載しなければなりません。
14.福祉について
派遣労働者が利用できる福利厚生施設についての詳細を記載します。
15.派遣社員の人数
派遣する人数を記載します。
16.派遣社員の種類(無期雇用派遣労働者や60歳以上の者に限定するか否か)について
派遣期間が有期か無期か、また年齢に関する事項も記載が必要です。
17.派遣終了後の直接雇用の場合に当事者間の紛争を予防するための措置について
派遣先が派遣期間の終了後に派遣労働者を直接雇用したいと申し出た場合に、あらかじめどのような対処をするかを取り決めておきます。詳しい内容としては、直接雇用をする旨の事前通知や、手数料の支払いの規定などです。
18.(紹介予定派遣の場合は)紹介予定派遣について
紹介予定派遣によって派遣先が直接雇用する場合は、年次有給休暇及び退職金の扱いについての記載が必要です。
契約書の保管
労働者派遣契約書について、基本的に保管する義務はありません。そのため、派遣会社によっては労働者派遣基本契約書を結ばなかったり、作成後の保管や管理が疎かになっている企業もあります。
しかし派遣に関する契約書は、派遣会社と派遣社員、派遣先の会社との契約内容を証明する大切な資料であるため、恒久的に保管すべき大切な資料です。
もしも派遣社員と派遣先でトラブルが生じた時には、各種労働者派遣契約書が重要な証拠となります。そのような際にも労働者派遣契約書があると、派遣元の責任を果たしていることが証明できる材料となるのです。
また、派遣元と派遣社員、派遣先の3者において何らかのトラブルが起きた場合にも、この労働者派遣契約書を基にした交渉を行うことができるので、全ての関係者にとって重要な書類となります。
このように労働者派遣契約書を厳重に保管、管理することは、労働基準監督署に対して派遣元の責任を果たしている根拠としても有効なのです。
派遣契約書のまとめ
以上のように、派遣先、派遣元、そして何よりも派遣労働者の方が安心して長期にわたって働ける環境を提供するためにも、労働者派遣契約書の締結は所定の内容を漏れることなく取り交わすことが重要です。
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