2023年後半より派遣会社に対する都道府県労働局需給調整部門の調査が、かつてない規模で活発化しています。コロナ感染拡大時には積極的に調査が行われていなかった反動かと考えられ、特に地方の労働局においては、派遣元の定期調査は一巡し、派遣先への定期調査も活発に実施されているようです。
派遣先への調査に関しては、派遣法の「派遣先として講ずべき措置」に関する理解が低い企業も多く、派遣先調査後、再度派遣元が労働局から呼び出され指導を受けるケースも出てきています。労働局による指導・是正指導件数も急増し、ある統計によると定期調査を受けた派遣元の7割が是正指導を受けているとの話もあり、派遣業界全体にも影響が出ている状況です。
今回の記事では、労働局による「派遣事業に関する調査」において、その概要を説明することで、すこしでも是正指導を受けないようにするためのポイントをまとめてみました。
労働局による「派遣事業に関する調査」とは?
都道府県労働局の需給調整事業部門による「派遣事業に関する調査」は、派遣会社をターゲットとした行政による調査です。
派遣事業に関する労働局の調査には、以下の3つものがあります。
- 1:派遣元への定期調査
- 1-1:一般的な定期調査。法定帳票・派遣法30条の4第1項に基づく労使協定の実際の運用に関する調査
- 1-2:派遣法30条の4第1項に基づく労使協定のみの点検
- 2:派遣先への定期調査
- 「派遣先が講ずべき措置」を実施しているかの調査
- 3:派遣労働者からの苦情、相談による個別調査
- ※本記事では説明を割愛
以下で詳しく解説します。
1:派遣元への定期調査
1-1:派遣元への一般的な定期調査
派遣元への定期調査では、最初に労働局からのFAX、電話、郵便により調査のお知らせが入ります。会社の規模に関わりなくランダムに調査が入りますので、予定しておくことはできません。日頃から法令に則った対応をしておらず、「連絡が来てからの対応」では間に合いわない可能性があります。
また、派遣元が多い東京・大阪においては、3~4年に1度程度の頻度で定期調査が実施されています。一方、派遣元が少ない地方の労働局においては、1~2年に1度のスパンで定期調査が入る状況になっているという話を耳にします。
これまで調査を受けたことがない派遣会社の皆様も、いきなり連絡が入り。調査を可能性もありますので、日頃からコンプライアンスを意識した事業運営をする必要があります。
派遣元への定期調査における一般的な調査は、法定帳票・派遣法30条の4第1項に基づく労使協定の実際の運用に関する調査です。
労働局から送られる書面は、以下の内容です。
- 調査日時・調査方法(派遣元若しくは労働局への訪問等)が記載されている書面
- 派遣先事業所一覧
- 準備すべき書面の一覧
- 労働者派遣事業自主点検チェックリスト等
通常の流れでは、派遣先事業所一覧と自主点検チェックリストを指定期日までに労働局へ送付した後、労働局より派遣先事業所が2か所程度選定されます。その後、選定された事業所との派遣契約に基づく各種書面の提出が求められます。但し、派遣先事業所との契約が特定されず、訪問時に指定されるケースもあり、これがネックとなる派遣会社も少なくありません。
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派遣元への定期調査で確認される主な書面
派遣元への定期調査で一般的に確認される書類は下記となります。
・労働者派遣基本契約
・労働者派遣個別契約書
・労働条件通知書
・就業条件明示書
・抵触日通知書
・派遣労働者の待遇に関する情報提供書面
・派遣先通知書
・派遣元管理台帳
・就業状況報告書
など
派遣元への定期調査のポイント
一般的な定期調査における主要ポイントは下記となります。
- 派遣先から提供される抵触日通知書、労使協定に付随する待遇に関する情報提供書面の確認
- 契約更新のたびに毎回、書面を受領。書面がなくとも、確認が取れているのかを調査。受領日付は契約日以前になっているかをしっかり確認しておくことをオススメします。
- 労使協定の内容及び基準賃金等(後述の【労使協定調査の主なポイント】参照)
- 労働者派遣個別契約及び労働条件通知書・就業条件明示書の項目と記載内容
- 派遣先通知書における保険加入状況を証明するエビデンスに関しての運用
- 自主点検チェックリスト
- 〇×をつける30項目程度のリストです。回答次第で指導が入る可能性がありますので、記入に関しては十分な確認が必要となります。
1-2:派遣元への定期調査・労使協定の点検の内容に関して
労使協定の点検とは、労使協定方式を採用している派遣元に対して、厚労省のモデルに準拠した労使協定が作成され、その運用が適正に行われているかを調査するもので、いくつかのポイントがあります。
東京労働局では書面にて依頼があり、労使協定を郵送で労働局へ提出し、その内容が確認され、その後指導されるというパターンになっています。この労使協定は、厚労省のモデルを見ても、その内容は非常に難解で、派遣に詳しい社労士やコンサルタントへアドバイスを仰がないと、「労働局から指導を受けない」かつ「派遣スタッフが理解できる内容」の書面を作成することは、なかなか難しいと思われます。
労使協定点検を乗り切るポイント
派遣元への定期調査・労使協定の点検における主要ポイントは下記となります。
- 労働者代表が適正に選出されているか?
- 労使協定の内容が労働局の求める内容になっているか?
- 締結された労使協定が派遣スタッフへきちんと周知されているか?
- 基準賃金算出にあたり、地域指数等を乗じた際に切り上げになっているか?
- 派遣スタッフの評価が定期的に実施され、その評価に基づく賃金改定が実施されているか?
2:派遣先への定期調査
派遣先への定期調査とは、前述した派遣元調査の際に提出した派遣先事業所一覧をもとに、派遣先へ調査が入ることです。派遣先企業の担当者が派遣法に詳しい場合、それほど問題にはなりません。しかし、派遣先企業の担当者が派遣法に詳しいことは珍しく、うまく対処できずに是正指導対象となってしまうケースが出てきています。
派遣先への定期調査で確認される主な内容
一般的に、派遣先企業の調査では、派遣元の定期調査ほど多くの項目を調査しません。
労働者個別派遣契約、抵触日通知書、待遇情報に関する情報提供書面、派遣先管理台帳、就業状況報告書などを用意しておきましょう。
派遣先への定期調査を乗り切るポイント
派遣先に対して良好な関係を構築し、派遣先への調査が入ることが決まった際には、派遣元の担当者へすぐに連絡が入るようにすることが重要です。
連絡さえもらえれば、派遣元の担当が労働局調査の内容を確認し、可能な限りアドバイスを行うことが可能だからです。派遣先が派遣法を理解していない場合、派遣先として義務が履行されていない場合が珍しくありません。それが指導対象となり、派遣元へ再調査が入ることもあり得ます。
派遣元企業の労働局調査で是正指導をうけないために
まずは法定帳票の整備を
最も重要なことのひとつとして、法定帳票の整備があげられます。定期調査では、通常多岐にわたる法定帳票の確認が行われますので、エクセルとかで自己流に作成せず、派遣法改正等に対応した管理システムを利用したり、派遣管理ソフト等を導入することがおすすめです。エクセルやワードで作成し、紙できちんと管理している企業ももちろんいらっしゃいますが、抜け漏れに気づきにくくなり、結果として是正指導になってしまう可能性が高まってしまいます。漏れなく作成し、常に整備・保管しておくためにも、システムの導入は積極的に考えましょう。
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整備・保管が必須の法定帳票一覧
- 労働者派遣基本契約書
- 労働者派遣個別契約書
- 労働条件通知書及び就業条件明示書
- 派遣法30条の4第1項に基づく労使協定
- 派遣元管理台帳
- 派遣先通知書
- 待遇に関する事項等の説明書面
- 派遣先からの抵触日通知
- 派遣先からの派遣労働者に関する待遇情報の提供書面
- 派遣先からの就業状況報告書
- 派遣スタッフの賃金台帳
派遣先へのコンプライアンス対応
法定帳票の整備の次に重要なこととして、派遣先へのコンプライアンスに関する対応があげられます。
派遣先に対して派遣先が義務として作成すべき書面ややらなければならない内容に関して、きちんと説明をしましょう。具体的には、指揮命令や就業時間管理、抵触日通知の作成及び延長の際の適正な手続き、待遇に関する情報提供、就業状況報告等を説明してください。
不安や不明点は専門家に相談を!
急に通知が来る労働局の調査では、派遣業務運営におけるコンプライアンスの徹底が重要です。とは言え、実際の運用ではなかなか難しい面もありますので、派遣に詳しい社労士事務所を見つけて置き、アドバイスをもらうことは有用です。不安なことがある場合、専門家に相談してみてください。
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定期調査で是正指導をされた場合は
一般的には、定期調査終了後に労働局の指導官より指導内容が口頭で報告されます。
その約1か月後、労働局より正式に書面で指導内容が届きます。指導の内容により、是正指導(法律違反)と指導(労働局としてはこのようにしてほしい)に分かれ記載がされており、改善完了までの期限が設定されています。
是正指導を受けた場合は、指定された期日までに、どのように改善するかに関して書面を作成し、労働局へ説明に出向く必要があります。
もし、この報告を期限までにしなかったり、派遣スタッフからの労働局へ苦情や相談が何件も出てきたりすると、派遣会社としての事業運営に対する信頼が揺らぎ、さらに厳しい全件調査や是正勧告へ発展する可能性があります。是正指導を受けた場合は、しっかり最後まで対応していきましょう。