人材紹介会社が発行する請求書のフォーマットは特に指定がないため、各人材紹介事業者が独自に項目を決めて作成するのが一般的ですが、いざ事業を始めてみると「どの書式が良いか」「事前にクライアントと取り交わすべき項目があるのか」など、疑問が生じる方も少なくないはずです。
請求書の作成に関しては、さまざまなWebサイトなどからダウンロードできますが、実際に利用する際は、弁護士などに相談することをおすすめします。
また、人材紹介事業者が受け取る報酬には法律による規制があるため、いくらに設定しても良いというわけではありません。この報酬の設定は、基本的に「職業安定法」に基づく必要があるものの、市場の相場に従うのが一般的です。
今回は、人材紹介手数料の請求書に関する項目や注意点、リスクヘッジの方法を詳しく解説します。これから人材紹介会社を開業しようとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
人材紹介手数料の請求書の項目
人材紹介業で請求書を作成する際に必要な項目については、以下の通りです。
・請求先会社名
・担当者氏名
・請求項目(※「紹介手数料」など)
・金額
・求職者の氏名
・日付
・宛名
なお、請求書のフォーマットは特に決まっておらず、ネット上でダウンロードできるテンプレートをそのまま使用することも可能ですが、実際に使用する前に、自社の法務部や顧問弁護士に確認することをおすすめします。
人材紹介の請求書の注意点
人材紹介の請求書に関しては、主に次の2つの点に注意する必要があります。
送付の仕方
請求書の送付については、取引先企業の機密性の高い情報が流出する可能性があるため、厳重な注意が必要です。
請求書の送付方法としては、一般的に「郵送」と「メール」があります。
郵送する場合は、請求書や宛先を確認し「宛先ミス」や「請求書の取り違え」がないかしっかりと確認した上で発送することが重要です。
また、メールの場合は、請求書のファイルにパスワードを設定し、パスワードの通知メールもセットで送ることが大切です。
請求と入金のタイミングを明確にする
人材紹介の手数料が発生するタイミングは、人材紹介事業者によって異なります。
一般的には、入社日を手数料発生日とするケースがほとんどです。
また、上記の基準をもとに、実際に入金する期日を明記することが重要です。
人材紹介会社の請求に関するリスクヘッジ
人材紹介手数料請求時に起きやすいトラブルと事前に備えるべきポイント
- 紹介手数料の算出方法を把握する
- 手数料の発生タイミングを明確にする
- 紹介先の企業と紹介手数料請求条件を事前に取り決める
以下でそれぞれ解説します。
紹介手数料の算出方法を把握する
まず、紹介手数料の算出方法を把握しておくことが大切です。一般的な紹介手数料の算出方法は「理論年収×30%~35%」となっています。ただし、採用難易度が高い業界などの場合は、この相場を超えて設定することもあるでしょう。
手数料が発生するタイミングを明確にする
手数料が発生するタイミングも重要です。ほとんどの場合、手数料は入社日に発生します。
そのため、紹介した人材がきちんと入社するかどうかを確認することが大切です。また、入社前に十分なフォローを行うことで、内定辞退を防ぐこともリスクヘッジにつながるでしょう。
紹介先の企業と紹介手数料請求条件を事前に取り決める
上記2つのポイントを中心に、紹介先の企業と紹介手数料請求条件を事前に取り決めておくことが最も重要です。なぜなら、書面での取り決めが無いということから紹介料のディスカウントを要求されてしまうなど、トラブルが発生することもあるからです。そこで、営業段階で条件の取り決めと契約締結を実施することで、トラブル発生のリスクを軽減できます。
人材紹介の請求金額の算定について
人材紹介の紹介手数料とは、人材紹介会社が紹介した求職者を求人企業が採用した場合、人材紹介会社が受け取る報酬のことを指します。この報酬は、採用された人材の理論年収を基準に算出されるのが一般的です。
そのため、成功報酬は、紹介した人材のスキルや経験、年収、職種によって異なります。一般的には、紹介した人材の理論年収の30%〜35%程度が相場です。
そこで、まずは紹介手数料の仕組みや理論年収、返還金などについて詳しく解説します。
人材紹介会社の紹介手数料の仕組み
人材紹介事業者が、クライアントである求人企業から成功報酬を受け取る仕組みについては、次の章で紹介する理論年収に基づく割合によって決まるのが一般的です。そのため、報酬額や報酬率については、それぞれの契約内容によって異なります。
また報酬額や計算方法は業界や地域によって異なるケースが多いため、人材紹介会社においては、適正な料金となるように相場を調べる必要があります。
人材紹介は、登録する求職者がサービスを無料で利用できることや、採用が決まるまで求人企業側に費用が発生しないことから、転職市場における需要が急速に拡大しています。そのため人材紹介事業者は、適正な価格設定で、できるだけマッチング精度の高いサービスを提供することが大切です。
人材紹介の成功報酬に関する法律
人材紹介に関する成功報酬については、職業安定法によってルールが決められています。
原則として、求職者から成功報酬を受け取ることが禁止されています。つまり人材紹介事業者は、基本的にクライアントである求人企業から成功報酬を徴収し、求職者からは手数料を徴収できないという仕組みです。このルールは「職業安定法32条の3第2項」に定められています。
ただ例外として、芸能家、家政婦(夫)、配ぜん人、調理師、モデル、マネキンなど、特定の6職種では、求職者からも受付手数料の徴収が可能です。これらの職種では、求職者からの求職申し込みを受理するごとに上限710円(免税事業者は660円)の受付手数料を徴収できます。なお、受付手数料は1ヶ月に徴収できる件数が3件までと決まっています。
届出制手数料と上限制手数料
人材紹介事業においては、主に「届出制手数料」か「上限制手数料」のどちらかが採用されています。
届出制手数料
届出制手数料では、紹介した求職者の理論年収をもとにして、紹介手数料を算出します。
理論年収については下記で詳しく解説しますが、交通費を除く諸手当(所定外労働手当、役職手当、住宅手当、家族手当など)を含んだ年収を指します。
例えば、クライアントに紹介した理論年収600万円の人材が、あらかじめ人材紹介基本契約書で定めておいた30%の紹介手数料で採用された場合、成功報酬として受け取ることができる紹介手数料は180万円です。
この紹介手数料には上限があり、その割合は50%と決まっています。もし手数料率が50%を超える場合は、開業許可がおりないため注意が必要です。
ただ、一般的な成功報酬の相場は30%~35%程度となっているため、相場に従うことをおすすめします。
上限手数料
上限制手数料とは、紹介した人材に支払われる賃金6カ月分の11.0%(免税事業者は10.3%)を上限とする手数料の算出方法です。
例えば、上記と同じ理論年収600万円の人材を雇用した場合、理論年収の半年分(300万円)の11.0%となる33万円が紹介手数料となります。
このように、上限手数料は、利益が少なく人材紹介事業者にメリットが少ないため、ほとんど採用されていません。
人材紹介の成功報酬相場
前述したように、人材紹介における成功報酬の相場は、理論年収の30%〜35%となっています。一部の特殊な技能を必要とする職種などの場合には、40%を超える手数料率を採用しているケースもあります。
いずれの場合も、業種や職種よりも、同業他社の手数料相場に準ずるのが一般的です。なぜなら、手数料率を相場よりも低く設定しすぎると依頼を受けやすいかもしれないですが、利益を圧迫し事業継続に影響してしまうからです。
人材紹介の成功報酬の計算方法
人材紹介における成功報酬の計算方法は、上記の「届出制手数料」と「上限制手数料」で異なります。
届出制手数料の計算方法
理論年収✖️人材紹介基本契約書に定めた料率=成功報酬額
上限制手数料の計算方法
理論年収✖️1/2(0.5)✖️11%=成功報酬額
人材紹介の成功報酬を受け取るタイミング
成功報酬型の紹介手数料を受け取れるのは採用された人材が入社してからになります。ただし、人材紹介の手数料が発生するタイミングは、契約内容によって異なります。
そこで人材紹介基本契約書に、成功報酬を受け取るタイミングを明記するのがおすすめです。
一般的には、入社日を手数料発生日にし、入社付きの月末に請求をするケースがほとんどになっています。
理論年収について
理論年収とは、採用内定者が1年間就業した場合に想定される年収のことを指します。求人票に記載されている想定年収もほぼ同じ意味であり、該当の職種で採用された場合に想定される年収を表記しています。
理論年収の計算方法
理論年収の計算方法は、一般的に「通勤交通費と残業手当を除いたすべての手当てを含む月給×12ヶ月分+賞与」の合計金額になります。また、企業によってはインセンティブ(成果報酬)が別途加算されるなど、実際の計算式は各企業の賃金規定によって変わってきます。
ただし、予め理論年収の計算方法を企業と取り交わしておかないと求人企業とのトラブルにつながるため、人材を紹介する前に求人企業と請求する理論年収の計算方法について人材紹介基本契約書で取り交わすことをおすすめします。
理論年収の計算事例
理論年収の計算事例として、以下のような例があります。
例1. 月給制で賞与が業績変動の場合
ある企業の理論年収が、月給×12か月+賞与年間2回だったとします。しかしながら、賞与の算定が「業績によって変動する」という理由で、実際に支払う賞与が確定できないため、有料職業紹介事業者から求人企業への請求対象から除外して欲しいと企業から打診されるケースもあります。このような場合でも特別な理由が無い限りは、賞与分も請求対象に含めるように一度交渉をすることをお勧めします。
例えば、「最低限支給される〇ヶ月分を固定で含める」「管理職は変動が大きいので賞与は請求の対象から外し、一般職は請求対象に含める」など先方との妥協点を探します。
交渉しづらい部分かも知れませんが、後々の自社の利益や業務のモチベーションにもつながるため、適正に交渉をして自社が損をしないような立ち回りも必要です。
例2.成果報酬の比重が大きい場合
営業職においては、固定年収+成果報酬という給与体系を取る企業も増えており、成果報酬の比率が固定年収よりも多くなっている企業もあります。この場合、先ほどの業績変動賞与のケースと同様に実際に支払う成果報酬分が確定できないため、成果報酬分を有料職業紹介事業者から求人企業への請求対象から除外して欲しいと企業から打診されるケースもあります。こちらのケースでも、先ほどと同様に特別な理由が無い限りは、成果報酬分も請求対象に含めるように一度交渉をすることをお勧めします。
例えば、「入社〇年以内の中途入社社員の平均の成果報酬額」を請求するなど、1〜3年以内の中途入社社員をモデルケースとして、理論年収の計算対象に含めるように交渉をします。
上記のように、理論年収の算出方法は場合によって異なっており、自社が不利になりすぎないような交渉の実施もする必要があります。
理論年収と実際の年収が違う理由
入社後の求職者から内定承諾書に記載されていた理論年収と実際の年収が異なるという問い合わせを受ける場合があるかもしれません。理由は、以下のような要因が考えられます。
業績や成果の差
理論年収の変動要素がある部分(時間外手当・賞与・成果報酬)については、入社後の企業の業績や個人の成果によって上下することがあります。
勤務地など入社後の条件変更
地域によって、同じ職種でも年収に違いがある場合があります。入社1年以内に異動などで転居を伴う配置転換が発生した場合地域手当などが変更となり、入社前に提示された理論年収と差が生じるケースがあります。
以上のように、理論年収と実際の年収は、さまざまな要因によって異なることがあります。
早期退職が発生した場合の返還金について
人材紹介会社が紹介した人材が、求人企業に無事入社した後、一定期間内に退職した場合には手数料の一部または全額を返金するといった内容の条項を、人材紹介基本契約書に定めておくのが一般的です。
なぜなら、人材紹介に対する手数料は高額で、入社後の離職をきっかけにトラブルとなるケースが多いためです。もし手数料を支払ったにもかかわらず、採用した人材が早期に退職すると、採用企業に大きな経済損失を与える可能性があります。
そのため、一定期間内に退職した場合などの報酬返金規定については、人材紹介を行う企業として必ず人材紹介基本契約書に定めておきましょう。
返金の対象となる期間や、返金する報酬額の割合は、人材紹介会社によって異なります。そのため契約時に、人材紹介会社と求人企業の双方で、しっかりと確認しておくことが大切です。
一般的な保証期間と料率
人材紹介基本契約書では、紹介手数料の発生と同時に、返金規定についても決めておかなくてはなりません。そこで、下記のような規定を設けるのが一般的です。
返金規定の事例
- 入社後1か月未満で離職した場合…80%返金
- 入社後1か月以上3か月未満で離職した場合…50%返金
上記のように、日数と返金率を段階的に設定するのが一般的です。
また、事前に返金規定について合意を得ておくことで、トラブルを防ぐことが可能です。
人材紹介手数料の請求書のまとめ
このように、人材紹介手数料の請求書については、決まったフォーマットなどが存在しないため、独自に作成したり、ネット上のテンプレートを活用したりすることも可能です。
ただし、本記事内でも紹介したように、手数料の計算や請求、入金のタイミングなどを明記しなければ、思わぬトラブルを招く可能性があります。
もし、人材紹介手数料の請求書に関してお困りの方は、いつでもブレイン・ラボにご相談ください。
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