人材紹介事業においては、人材紹介会社の担当者が、クライアントからの求人情報を基に転職希望者をマッチングするサービスを提供します。そしてマッチングが成功した場合に、クライアントから、手数料(成功報酬)を受け取ることで事業を運営しています。
ただし受け取る手数料には、法律による規制があるため、手数料をいくらに設定しても良いというわけではありません。
このように、手数料を設定する際は「職業安定法」に基づく必要がありますが、基本的には相場に従うのが一般的な基準と言えるでしょう。なぜなら、手数料が高すぎると、クライアントが依頼しない可能性が高くなるからです。
そこで今回は、人材紹介の手数料規定や法律の解説と手数料管理簿のテンプレートを紹介
します。これから人材紹介会社を開業しようとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
人材紹介の手数料と法律について
人材紹介の手数料に関しては、職業安定法に基づいて、人材紹介事業者が徴収することが認められています。人材紹介の手数料は成功報酬型が多く、求職者の給与に基づく割合で計算するのが一般的です。
また人材紹介においては、個人情報保護法に基づく適切な個人情報の取り扱いや、不当な求人募集や採用活動の禁止など、法的な制限があります。
そこで人材紹介事業者は、これらの関連する法律を遵守し、求職者の権利を尊重しながら適切なサービスを提供するように努めることが大切です。
以下では、人材紹介の手数料に関して、詳しく解説していきます。
人材紹介の手数料や報酬の仕組み
人材紹介事業者は、クライアント(求人企業)への紹介料として、紹介先の企業から報酬を受け取るのが一般的です。
報酬額については契約内容によって異なりますが、雇用された人材の給与や理論年収の一定割合か、固定額で支払われるケースがほとんどです。また、報酬額や計算方法は業界や地域によって異なります。
人材紹介では、登録する求職者がサービスを無料で利用できることや、採用が決まるまで求人企業側に費用が発生しないため、転職市場における需要が拡大する要因となっています。
届出制手数料と上限制手数料
人材紹介事業においては、主に「届出制手数料」か「上限制手数料」のどちらかが採用されています。
届出制手数料
届出制手数料では、紹介した求職者の理論年収をもとにして、紹介手数料を算出します。
理論年収については下記で詳しく解説しますが、交通費を除く諸手当(所定外労働手当、役職手当、住宅手当、家族手当など)を含んだ年収を指します。
例えば、クライアントに紹介した理論年収600万円の人材が、あらかじめ人材紹介基本契約書で定めておいた30%の紹介手数料で採用された場合、成功報酬として受け取ることができる紹介手数料は180万円です。
この紹介手数料には上限があり、その割合は50%と決まっています。もし手数料率が50%を超える場合は、開業許可がおりないため注意が必要です。ただ、一般的な成功報酬の相場は30%~35%程度となっているため、相場に従うのがおすすめです。
なお、一部の特殊な技能を必要とする職種などは、40%を超える手数料率を採用しているケースもあります。
上限手数料
上限制手数料とは、紹介した人材に支払われる賃金6カ月分の11.0%(免税事業者は10.3%)を上限とする手数料の算出方法です。
例えば、上記と同じ理論年収600万円の人材を雇用した場合、理論年収の半年分(300万円)の11.0%となる33万円が紹介手数料となります。
このように、上限手数料は、利益が少なく人材紹介事業者にメリットが少ないため、ほとんど採用されていません。
人材紹介会社の紹介手数料の計算方法
上記のように、一般的な人材紹介の手数料は「理論年収」の30%〜35%程度となっています。
そのため、人材紹介事業者が理論年収600万円の人材を、紹介手数料率30%で紹介して採用が決まった場合には、受け取る手数料が180万円と算出されます。
人材紹介会社の紹介手数料が発生するタイミング
人材紹介の手数料が発生するタイミングは、人材紹介事業者によって異なります。
一般的には、紹介した人材の内定日を手数料発生日とする場合と、入社日を手数料発生日とするケースがあります。
人材を採用する雇用契約に関しては、求職者と採用企業が書面で契約書を取り交わす必要があるため、労働契約書に記載されている入社日を基準にするのがおすすめです。
報酬として「着手金」を受け取るケースもある?
人材紹介会社の手数料には、成功報酬以外にも「着手金」を受け取る特殊なケースがあります。
着手金を受け取る特殊なケースとは、ヘッドハンティングなどの「人材紹介の難易度が高い」ものを指します。
「人材紹介の難易度が高い」案件は、主に次のようなケースです。
- 紹介する人材のレベルが高く、求人案件に合致する候補者を登録者以外から見つける必要がある
- ヘッドハンティングなど、個別にスカウトする必要がある
- 個別にスカウトした人材(求職者)を紹介できる先が、発注したクライアント1社しかない特殊な職種の場合 など
このような案件に関しては、成功報酬以外に着手金を請求することもあります。
着手金に関しては、紹介した人材を企業が採用しなかった場合でも、返金する義務はありません。ただし、クライアントからは採用が成功するまでのコミットを求められるケースがほとんどです。
理論年収について
転職エージェントの手数料の相場は「理論年収×30〜35%」で算出します。
理論年収は想定年収とも呼ばれ、月給12ヶ月分に想定される賞与を足したものです。そのため、理論年収は「実年収」や「手取り年収」とは区別して使われています。
理論年収の計算方法
理論年収は、下記の式で算出できます。
月給×12カ月+(基本給×前年度の平均賞与支給月数)
※月給=基本給+平均残業代+固定手当
理論年収の計算事例
理論年収の計算事例として、以下のような例があります。
例1. ITエンジニアの理論年収
あるITエンジニアの理論年収を算出する場合、まずは業界標準の年収調査を基に平均年収や最高年収を調べます。例えば、ITエンジニアの平均年収が600万円、最高年収が1000万円と調査されている場合、その数値を基にそのITエンジニアの理論年収を算出することができます。
例2. 管理職の理論年収
ある企業での管理職の理論年収を算出する場合、まずはその企業の最高位の管理職がもらえる年収を把握します。次に、その企業での管理職の中でも、そのポジションにつく社員が将来的に獲得できるであろう年収を、最高位の管理職の年収を基準にして算出します。例えば、その企業での最高位の管理職の年収が1500万円だとすると、その企業の中間管理職の理論年収は800万円から1200万円程度となる場合があります。
上記のように、理論年収の算出方法は場合によって異なりますが、基本的にはあくまで目安として利用することが望ましいとされています。
理論年収と実際の年収が違う理由
理論年収とは、あくまで年収の理論値であるため、実年収とは異なるケースがほとんどです。
なぜなら、企業の経営状況や本人の成績などによって、従業員が受け取ることができる賞与額や手当に変動があるからです。
また理論年収には社会保険料や税金なども含まれているため、理論年収の6割〜8割程度が実際の年収に近くなります。(社会保険料率や課税率は所得によって異なります)
早期退職した場合の返還金について
人材紹介会社が紹介した人材が、求人企業に無事入社した後の一定期間内に退職した場合には、手数料の一部または全額を返金するといった内容の条項を、人材紹介基本契約書に定めておくのが一般的です。
なぜなら、人材紹介に対する手数料は高額であるケースが多いためです。もし手数料を支払ったにもかかわらず、採用した人材が早期に退職すると、採用企業に大きな経済損失を与える可能性があります。このような、採用のミスマッチや高額な手数料のリスクを軽減し、少しでも人材紹介サービスを利用しやすくするのが狙いです。
そのため、一定期間内に退職した場合などの報酬返金規定については、人材紹介を行う企業として必ず人材紹介基本契約書に定めておきましょう。
返金の対象となる期間や、返金する報酬額の割合は、人材紹介会社によって異なります。そのため契約時に、人材紹介会社と求人企業の双方で、しっかりと確認しておくことが大切です。
一般的な保証期間と料率
人材紹介基本契約書では、紹介手数料の発生と同時に、返金規定についても決めておかなくてはなりません。そこで、下記のような規定を設けるのが一般的です。
返金規定の事例
- 入社後1週間未満で離職した場合…100%返金
- 入社後1週間以上1か月未満で離職した場合…80%返金
- 入社後1か月以上3か月未満で離職した場合…50%返金
上記のように、日数と返金率を段階的に設定するのが一般的です。
また紹介先の企業や業種によっては、半年や1年後の退職でも返金を請求してくるといった事例もあるため、どのように対応をするかについては事前に検討しておくことが重要です。
人材紹介と他の採用手法の料金比較
上記のように、人材紹介の料金は、採用された求職者の給与に基づいて採用が決定してから受け取るケースがほとんどです。
一方、他の採用手法では採用成功の成否に関わらず費用が発生するケースも多くあるため、採用活動が失敗に終わる可能性があります。
単純に金額だけを見ると、人材紹介は「サービス料金が高額」と感じる方も居られますが、人材の採用活動に関するコストや手間が無駄になるといったリスクが低い利点があります。
そこで人材紹介事業者は、この点をしっかりとアピールして、クライアントの獲得に繋げることが重要と言えるでしょう。
採用手法 | 費用の相場 |
人材紹介 | 理論年収の30~35%程度 |
ダイレクトリクルーティング | 定額サービスの場合は年間60~100万円程度成功報酬型の場合は理論年収の30~35%程度 |
求人広告 | 1月あたりの掲載料として15~50万円程度 |
自社の求人サイト | 自社のWebサイトに追加する場合は0円〜可能新しく作成する場合は、企業の規模によって50万円~200万円程度 |
リファラル採用 | 紹介者へのインセンティブとして、1人あたり10~25万円程度 |
転職フェア | 1ブースあたり50~100万円程度 |
ハローワーク | 無料 |
手数料管理簿とは?
手数料管理簿とは、人材紹介手数料に関する項目を記載、管理するものです。
手数料管理簿に記載する内容
手数料管理簿に記載すべき内容は、以下の5項目となっています。
- 手数料を支払う者の氏名または名称
- 徴収年月日
- 手数料の種類
- 手数料の額
- 手数料の算出根拠
それぞれの記載方法は、次の通りです。
手数料を支払う者の氏名または名称
手数料を支払う個人、もしくは法人名を記載します。求人者、または関係雇用主が複数の事業所を有している場合は、申込の主体となっている人の名前を記入します。
徴収年月日
手数料の支払いが行われた年月日を記入します。
手数料の種類
求人受付手数料、求職受付手数料、求職者手数料、紹介手数料等の種類を記入します。
手数料の額
徴収した手数料の金額を記入します。なお、第二種特別加入保険料を徴収している場合には、その額も記入します。
労災保険に係る一人親方等の特別加入者に係る保険料をいい、その額は保険料算定基礎額の総額に第二種特別加入保険料率を乗じて計算します。
手数料の算出根拠
手数料の算出根拠となった賃金、割合等がわかるように記入します。
手数料管理簿のテンプレートDiSPAがおすすめ
人材紹介事業においては、管理すべき帳簿や提出書類が多岐にわたります。そのため、事業に関わるクライアントや求職者の数が増えるほど、手作業でのデータ管理や保存が煩雑化しやすくなります。
そこで、監査がいつ入っても、手数料管理簿などの必要資料を取り出せるように、システム管理することをおすすめします。
手数料管理簿のテンプレートについては、DiSPA!の「人材紹介会社様向けテンプレート」からダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
人材紹介の手数料のまとめ
このように、人材紹介の手数料に関しては、職業安定法の規定に基づいて申請・管理する必要があります。
また手数料率に関しては、上限や相場によって適正な手数料率にすることが大切です。
ブレイン・ラボでは、事業の立ち上げ相談会の実施や、提携する社労士事務所の紹介も可能です。人材紹介業の立ち上げや、立ち上げ後の事業の進め方などに不安のある方も、ぜひお気軽にお問い合わせください。