働き方の多様性が求められるようになった現代社会においては、紹介予定派遣を利用して、派遣社員が自社にマッチしているかを見定めてから直接雇用したいという企業が増えています。
そこで必要となるのが紹介予定派遣の契約に関する書類です。紹介予定派遣で用意すべき契約書類は、紹介予定派遣基本契約書と紹介予定派遣個別契約書で、それぞれ労働者派遣基本契約書や労働者派遣個別契約書に準じた内容となります。
ただし一部の内容が異なるため、法律に基づいた記載が必要となります。
そこで今回は、紹介予定派遣基本契約書のテンプレートを無料公開し、その書き方や注意点も詳しく解説します。これから紹介予定派遣事業を行う方は、ぜひご活用ください。
紹介予定派遣とは
紹介予定派遣とは、人材派遣会社が派遣した社員を、派遣先の企業が直接雇用(正社員・契約社員)することを前提に、一定期間(最長6ヶ月以内)人材派遣を行うシステムです。
人材派遣会社が紹介予定派遣を行うには、一般的な「登録派遣」や「常用派遣」などの派遣業務をおこなうために必要な資格や許認可とは別に「人材紹介業」に必要な資格と許認可を取得する必要があります。
もし無許可の状態で紹介予定派遣を行うと、人材派遣業の許可の取り消しや罰金といった厳しいペナルティが課せられる可能性がありますので注意が必要です。
紹介予定派遣とその他の派遣の違い
以下では、紹介予定派遣とその他の派遣(登録型派遣と常用型派遣)との違いを解説します。
雇用関係について
紹介予定派遣では、派遣社員が派遣先の企業と直接雇用契約することを前提に、6ヶ月以内の派遣を行います。
一方、登録型派遣や常用型派遣では、人材派遣会社と派遣社員が雇用契約を結ぶ点が異なります。
選考の仕方
派遣社員の選考方法に関しては、紹介予定派遣の場合、派遣先の企業が派遣社員の履歴書の提出を求めたり面談を実施したりできます。
一方、登録型派遣や常用型派遣では、労働者派遣法第26条によって、派遣先の企業が特定の派遣社員を選ぶことが禁止されています。
派遣期間
紹介予定派遣は、派遣期間が最長で6ヶ月と規定されています。
一方、登録型派遣の派遣期間は、原則3年以内と決まっています。なお、専門的な技能や知識を有する職務の多い常用型派遣では、期間に縛りなく派遣先の企業に人材を派遣することが可能です。
紹介予定派遣の基本的な流れ
紹介予定派遣では、通常の派遣とは就業までの流れが異なります。そこで、紹介予定派遣の社員を実際に就業するまでの流れについて、次の5つのステップで解説します。
STEP.1面談
人材派遣会社は、派遣先の企業が求める人材を自社の登録人材から選定し、紹介予定派遣であることを確認した上で履歴書の送付や面談の調整を行います。
一般的な人材派遣(登録型派遣や常用型派遣)とは異なり、紹介予定派遣では、履歴書の送付や面談が可能であるため、ルールを確認した上で対応しましょう。
STEP.2採用の可否
派遣先と派遣社員の面談が終わったら、派遣先の企業から採用の可否を受けます。採用であれば職場見学へ進み、不採用の場合には別の人材をマッチングします。
STEP.3職場見学
採用が決まれば、契約前に職場見学を実施しましょう。せっかく採用が決まっても、入社後に「面談で聞いていた内容や職場の雰囲気が違う」といったことで、早期退職につながる可能性があります。そこで職場見学を実施し、実際に職場を見たり体験することで、職場環境や業務内容のミスマッチを減らすことが可能です。
STEP.4契約
派遣社員と派遣先企業の双方が合意し、紹介予定派遣の社員の採用が決定したら、契約関係の手続きを進めましょう。
必要書類は次の2つです。
- 紹介予定派遣基本契約書…企業間で交わす書類
- 紹介予定(労働者)派遣個別契約書…派遣会社が派遣社員と労働条件を定める書類
それぞれの書類に関するテンプレートを活用し、漏れなく必要事項を記載しましょう。
※紹介予定派遣基本契約書や紹介予定派遣個別契約書のテンプレートは、DiSPA!の「帳票テンプレート」のページ内「人材派遣会社様向けテンプレート」からダウンロードできます。
STEP.5勤務開始
契約が完了したら勤務開始です。紹介予定派遣では、最長でも6カ月の派遣期間となります。ここでの業務がスムーズに行われなければ、最終的に派遣先の企業が直接雇用しない可能性があるため、派遣期間中も派遣社員をしっかりとフォローすることが大切です。
STEP.6派遣終了・直接雇用
紹介予定派遣が最長で6ヶ月までとなっている理由は、派遣社員を派遣先の企業が直接雇用すべき人材かどうかを見極める期間であるためです。
派遣期間終了後は、人材派遣会社の担当が就職に関する意志や勤務状況の確認などを行い、派遣先の企業と派遣社員が直接雇用に合意すれば入社となります。
そして派遣先の企業に派遣社員が入社するタイミングで、人材派遣会社が契約書に定めた紹介手数料を受け取ることができます。
紹介予定派遣基本契約書へ記載すべき項目
紹介予定派遣基本契約書は法的な作成が義務付けられておらず、原則として自由に作成することができるため、記載する内容も自由です。
しかし、派遣事業は労働者派遣法が関係するため、フォーマットや記載する内容が自由でも最低限記載すべき内容はある程度決まっています。
そこで、紹介予定派遣基本契約書を作成する際は、記載する情報を事前に確認しておきましょう。
主な記載事項は、以下の通りです。
紹介予定派遣である旨
まず紹介予定派遣基本契約書には、紹介予定派遣である旨を記載しましょう。
派遣料金
紹介予定派遣基本契約書には、トラブルを未然に防ぐためにも、派遣料金の記載が必須です。派遣料金については、派遣先企業が支払う金額や支払い金額の算出方法、支払い期日や支払い方法を記載しましょう。
また、派遣社員の派遣料金はもちろん、派遣先企業の都合によって休業が生じた場合の損害金や、契約期間満了前に契約を破棄する場合の違約金なども記載しておくと安心です。
紹介手数料
紹介予定派遣では、派遣期間が終了して、派遣社員を直接雇用に切り替える際に、人材派遣会社が派遣先の企業から紹介手数料を徴収できます。
※紹介手数料の種類や相場についての詳細は後述します。
相互の義務
紹介予定派遣基本契約書では、派遣会社と派遣先企業がお互いに履行しなければならない義務を記載しておきましょう。
労働派遣基本契約書では、主に「法令遵守」「守秘義務」「信義則」を記載し、お互いに守るべき約束事を記載します。
労働者派遣法に則った派遣社員の労働環境の是正に努めることや、会社間で守るべき秘匿事項、そして円滑に取引を進める上で、お互いの権利を守り問題なく業務を進めるための信義則の詳細を記載しましょう。
ここに記載された内容に違反した場合は、民事での訴訟はもちろん、労働者派遣法などの違反には公的機関からの行政指導が入ることも考えられます。企業間で慎重に話し合い、記載すべき事項を精査しましょう。
派遣社員の行為により損害を被ったときの損害賠償
この項では、派遣会社から派遣先企業への損害賠償に関する内容を記載します。
人材派遣会社は、自社が派遣した派遣社員が派遣先の企業でミスを起こし損害が発生した場合でも、損害を負わないように取り決めるのが一般的です。
しかし、派遣社員が明らかに故意による損害を与えた場合は、人材派遣会社が派遣先企業に対して損害賠償責任を負わなければならない可能性があります。
実際に派遣社員が派遣先企業の経理申請を偽証し横領していたケースでは、該当の問題を起こした派遣社員はもちろん、派遣元である派遣会社も責任を負うこととなりました。
このように、一般的に損害賠償責任はスタッフの「不意」か「故意」かにより賠償責任とその程度が問われるため、どのような場合に損害賠償責任を負い、どう対応するのかをこの項で詳しく定めておきましょう。
禁止事項
禁止事項では、反社会勢力の排除について記載します。
派遣会社と派遣先企業の両方が反社会勢力と関わりがないことをここで証明し、過去と未来を問わず反社会勢力と関わりがあった場合には契約の解除や、違反した場合の責任をここで詳細に取り決めておきましょう。
知的所有権の帰属
派遣先の企業によりますが、派遣社員が派遣先企業にて制作した制作物の知的所有権が付属している場合、この知的所有権はどちらに帰属するのかをここに示します。
契約解除事項
契約解除事項とは、基本契約中に契約解除に至る条件のことです。
たとえば、派遣会社や派遣先企業を問わず粉飾決算をしていた場合や、どちらかが倒産してしまった場合など、取引を進める上で契約を続行できないと判断できる場合の条件をここで記載しておきます。
紹介予定派遣基本契約はもちろんですが、この基本契約の後で定める紹介予定派遣個別契約自体も解除する旨を記載しておくことで、もしもの際に備えることができます。
契約解除にならないために、双方で努力できる点や譲渡できる条件などをすり合わせ、円滑に取引できるように努めましょう。
派遣社員からの苦情処理
苦情処理も、紹介予定派遣基本契約書に記載しておくべき項目です。
この苦情処理とは、派遣社員からの労働環境などの苦情を指しており、派遣社員から苦情があった際に派遣会社と派遣先企業のどちらが対応するかのことです。
特に労働環境についての苦情は労働者派遣法などの法律に大きく関わるものであるため、どちらがどのような責任を負うのかを明記しておくと、トラブルを事前に回避できるでしょう。
協議事項
紹介予定派遣基本契約書の中では、協議事項も記載すべき項目のひとつです。
協議事項とは、派遣会社と派遣先企業間で起こり得る問題について、その問題が起こった際にどう対応するかを示したものです。
具体的な事例として、出張や事業部間の異動がない前提で派遣した派遣社員に、派遣先企業から出張や異動をお願いされた際に断るか協議するかを事前に定めておきます。
協議事項は派遣社員の働き方にも大きく関わるため、事前にトラブルになり得る事例を協議事項として定めておくことで、派遣社員の労働環境を守ることに繋がります。
上記の他にも必要な条項があれば盛り込んで問題ありませんし、不要な項目は記載しなくても構いません。上記の内容を参考に、派遣先の企業と協議したうえで、記載内容を決定すると良いでしょう。
紹介予定派遣基本契約書に関しては、あくまでもトラブルを防止するために作成する書類です。従って、疑問や問題がある場合はその都度内容を協議し、作成し直すことが大切です。
紹介予定派遣で注意すべき法律規定
次に、紹介予定派遣を行う際に注意すべきルールを労働者派遣法に基づいて解説します。
期間制限について
紹介予定派遣では、派遣期間が最長で6ヵ月となります。そして6ヶ月後に、派遣社員を派遣先の企業が直接雇用契約することで、人材派遣会社が紹介手数料を受け取る仕組みです。
禁止事項
紹介予定派遣には以下の禁止事項があります。人材派遣会社は法律を遵守し、次の禁止事項に違反しないよう注意しましょう。
- 紹介予定派遣には禁止業務があります。派遣できない業務は各種士業のほか、港湾運送業務や建設業務、警備業務などです。
- 無許可・無届けで紹介予定派遣を行うことはできません。
- 6ヶ月の期間制限を超える派遣は禁止です。
- 二重派遣(派遣先が派遣社員を別の会社に派遣して働かせること)は禁止です。
- 特定の企業だけを対象とした派遣は禁止です。
- 労働争議(ストライキやロックアウト)している企業への新たな派遣はできません。
- 認められた業務や派遣社員以外の日雇い(派遣会社との労働契約が30日以内の)派遣は禁止です。
- 離職後1年以内の退職社員を同じ企業の同じ部署に派遣することはできません。
紹介手数料の上限について
紹介予定派遣では、支払われた賃金額の10.8%相当額を上限に紹介手数料を徴収できます。これを超える紹介手数料に関しては、次の「届出制手数料」を選択して申請しなければなりません。
届出制手数料について
紹介予定派遣を行う際は、届出制手数料を選択することで求職者の年収の50%を上限に紹介手数料を徴収できます。ただし紹介手数料の相場としては、年収の25%~30%程度が目安です。
紹介予定派遣基本契約書のテンプレート
紹介予定派遣基本契約書のテンプレートに関しては、人材派遣と人材紹介を専門とするDiSPA!からダウンロードできる「紹介予定派遣基本契約書」がおすすめです。
DiSPA!の紹介予定派遣契約書のテンプレートは、DiSPA!の「帳票テンプレート」のページ内「人材派遣会社様向けテンプレート」からダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
紹介予定派遣基本契約書のテンプレートのまとめ
このように、紹介予定派遣における基本契約書の作成義務はありません。しかし、あらゆるトラブルを想定し、自主的に契約書を作成することがビジネス取引では欠かせない作業です。
また人材派遣業に関しては、労働者保護の観点から法律の改正が頻繁に行われており、人材派遣会社への負担が大きくなる傾向にあります。
そこで契約書のテンプレートを活用し、社内リソースの負担を軽減しながら、重要事項の漏れがないように作成しましょう。
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