派遣法には、人材派遣会社が雇用する派遣社員を同じ派遣先で3年以上連続して働かせてはならない「3年ルール」があります。また、3年ルールによって派遣期間が終了する日の翌日を「抵触日(ていしょくび)」と呼びます。
「3年ルール」は、人材派遣会社、派遣社員、派遣先の企業のすべてが守らなければならない派遣法で定められたルールです。そのため人材派遣会社においては、抵触日に関する決まりをしっかりと把握し、派遣社員や派遣先企業と連携して円滑に派遣事業を運営する必要があります。
ただ3年ルールについては、派遣先の企業が実施する施策も多いため、人材派遣会社が抵触日をしっかりと管理し、派遣先に確認することが大切です。
そこで今回は、派遣法で定められた3年ルールと抵触日の延長手続き、人材派遣会社の注意点などについて徹底解説します。
派遣法とは
派遣法(正式名称:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)とは、適切な運営のもと派遣労働者の保護を図り、雇用の安定化と福祉の増進を目指すために1985年に公布・1986年に施行された法律です。
一般社団法人 日本人材派遣協会の調査によると、2022年3月時点の全国の派遣社員の登録者数は約143万人となっており、労働人口の減少が懸念される今も人数が増えています。
そして派遣社員が今後も増え続けると予想される中で、派遣法は、派遣で働く人の労働環境を整備することを目的に、その時代に合わせた改正と施行が繰り返されています。
労働者の派遣については、契約上での雇用主(派遣元の人材派遣会社)と実際の職場となる派遣先が異なるため、雇用主責任が不明確な問題があると言われています。また正社員と比較すると、雇用状況が不安定であることも課題の1つです。このような課題を解決するため、労働者派遣事業法が制定され現在も改正が進められています。
派遣法の改正と3年ルール
1986年に施行された派遣法は、労働環境や時代背景の変化に合わせるため、今日に至るまで何度も改正が行われてきました。
ここでは、2015年に改正された3年ルールを中心に振り返ります。
2015年の改正:派遣期間一律3年
2015年の改正では、さらなる労働者保護のためにいくつかの改正が行われ、派遣期間を原則一律上限3年とする条文が新たに加わりました。
これまでの決まりでは、専門26業務の派遣期間は無制限、それ以外の業務は最長3年の制限となっていましたが、業務によって派遣期間が異なることで現場での混乱が起こり、制限から逃れるために専門26業務と偽ることが問題視されました。
そこで個人単位、および事業所単位の期間制限に変更し、専門26業務(現28業務)に関わらず全て3年に統一されたのです。
他にも、派遣労働者に賃金の情報提供、教育訓練など均衡待遇確保への配慮、派遣終了時の派遣労働者の雇用安定措置、派遣元からスタッフへの教育訓練が義務付けられました。
これらの義務違反に対しては、派遣事業の許可の取り消しを含め、厳しく指導されています。
派遣期間の抵触日(3年ルール)のポイント
人材派遣業務における「抵触日」とは、派遣スタッフの「派遣期間が終了する翌日」を指します。
なお人材派遣会社は、2021年に改正された「改正派遣法」に則って派遣事業を行う義務がありますが、この法律は頻繁に改正されることがあるため、常に最新の法律に則っているか確認することが大切です。
以下では、「3年ルール」の詳細について解説していきます。
3年ルール
3年ルールとは、派遣会社を通して派遣された人材が、原則「派遣契約にて3年以上働くことができない」という規則のことです。しかし、なぜ3年以上同じ職場で働けないのでしょうか。
この改正派遣法が生まれた理由には、次の3つの背景があります。
- 長期間に渡る人材派遣が、労働者の安定した雇用を侵害する恐れがあるため
- 長期間の派遣契約によって、派遣契約の範囲を超えた業務を任される恐れがあるため
- 正社員の雇用が不安定なため
このような背景もあり、2015年以降は派遣社員が同じ職場で3年以上働くことができなくなりました。もしそれ以上の期間に渡って派遣労働者が派遣先で働きたい場合は、原則として派遣先の企業側が労働者を直接正社員や契約社員として雇用する必要があります。
派遣期間に制限がないケース
ただし、3年ルールには例外があります。「3年ルール」の例外とは、以下の項目を満たすことで、同じ職場で3年以上にわたり派遣社員が働ける制度です。
主な例外項目は、以下の5つです。
- 派遣元事業主に無期で雇用される派遣労働者を派遣する場合
- 60 歳以上の派遣労働者を派遣する場合
- 終期が明確な有期プロジェクト業務に派遣労働者を派遣する場合
- 日数限定業務(1か月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ 10 日以下であるもの)に派遣労働者を派遣する場合
- 産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する労働者の業務に派遣労働者を派遣する場合
上記に該当しない派遣労働者を3年以上同じ職場で派遣社員として働かせていた場合は、労働局から警告通知が届き、人材派遣会社に行政指導や罰金が課せられる可能性があります。
事業所単位の抵触日
事業所単位の抵触日とは「派遣会社から同じ派遣先企業に対して労働者を派遣できるのは、3年間が限度と定められており、この期日を迎えた場合、個人単位では抵触日までまだ時間がある派遣社員であっても同じ事業所で働かせることはできない」というルールです。
ただし派遣期間制限を延長したい場合は、当該事業所(派遣先の事業所)の過半数労働組合(なければ過半数代表者)に対し、抵触日の1ヶ月前までに意見聴取することで延長が可能です。
抵触日の延長には回数の制限はないため、延長手続きを繰り返すことで、派遣会社が同じ派遣先に3年以上派遣することが可能となります。
個人単位の抵触日
個人単位の抵触日に関しても「派遣社員は、同じ組織で3年までしか働けない」という原則があるため、同じ組織で同じスタッフが3年以上派遣社員として働くことができません。
この場合の同じ組織とは、同じ課やグループを指します。ただし、同じ会社の別組織(課や部署など)に移籍した場合は、就労の継続が可能です。
企業と個人の派遣期間はどちらが優先か
事業所単位の抵触日が来た場合には、仮に個人の抵触日まで時間があっても働くことができなくなります。そこで派遣会社は、自社の派遣社員に対し、契約時に抵触日を知らせておく義務があります。
そのため、就業条件明示書には抵触日を必ず記載します。その具体的な内容として「同じ部署で派遣社員として働きはじめてから最長3年であること」と「個人単位の抵触日よりも事業所単位の抵触日が優先されること」を明記しましょう。
抵触日の通知は派遣先の企業が行う
事業所単位の抵触日は、派遣先の企業が人材派遣会社に通知をしなければなりません。その通知方法には、派遣法施行規則第24条の2で「あらかじめ、書面の交付等によりおこなわなければならない」と規定されています。
派遣先の企業では、抵触日を通知しておかなければ人材派遣会社との派遣契約を結べないため、この「あらかじめ」の指す時期が派遣契約締結前であることがわかります。
「書面の交付等」に関しては、記録に残せる形式であれば郵送やFAX、電子メールでも問題ありません。
なお抵触日の通知には、事業所名、事業所所在地、事業所の抵触日などを明記しなければなりません。抵触日の通知書類にはとくに決められた書式がないため、次の3点に注意しながら、派遣会社と派遣先企業の間で相談し、不備のないように準備しましょう。
抵触日の通知書類の注意点は、次の3つです。
- 契約締結前に通知すること
- 書面は記録に残せる形式を取ること
- 事業所名、事業所所在地、事業所抵触日を明記すること
抵触日の延長手続き
人材派遣の抵触日を延長するには、派遣法に則り、派遣先の企業が抵触日の延長手続きを行う必要があります。そのため以下の手続きは、派遣先の企業が行います。
派遣先の企業が行う抵触日の延長手続きには、次の5つの手順があります。
- 意見を聴取する代表の選定(派遣先)
- 必要な情報をまとめる(派遣先)
- 書面で通知して意見書を得る(派遣先)
- 結果を正確に記録して社員で共有する(派遣先)
- 人材派遣会社が結果を受け取る
以下で詳しく解説します。
1.意見を聴取する代表の選定(派遣先)
まずは派遣先の企業が、各事業所の意見を聴取する相手を選びます。派遣先の事業所に労働者の過半数で組織される労働組合がある場合には、労働組合が該当します。もし過半数に満たない場合や、労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者が務めます。意見聴取に関しては、抵触日の1ヶ月前に行います。
労働組合がない場合の代表者の決め方は、労働基準法第41条第2号で定める「監督又は管理の地位にあるもの」ではなく、投票や挙手などの民主的方法で選出されなければならないと決められています。
2.必要な情報をまとめる(派遣先)
派遣先が意見聴取する際には、各事業所が意見を述べるための参考資料を労働組合などに提供する必要があります。そのため提供する資料や情報をまとめる手続きが求められますが、その際の情報は事業所ごとに必要です。
資料や情報の内容としては、派遣労働者を受け入れ始めてからの派遣労働者の人数や派遣先が無期雇用する労働者数の推移などがあります。また労働組合などが希望する際は、各部署ごとの派遣労働者数や、それぞれの派遣労働者を受け入れた期間などの情報を提供します。
3.書面で通知して意見書を得る(派遣先)
労働組合などに意見聴取をする際は、その前に抵触日を延長する派遣先企業が、延長したい期間を書面で労働組合などに通知しなければなりません。
ここでは1ヶ月程度の期間を設けた上で、労働組合などから選出された代表者に意見を提出します。抵触日延長に際しては、できるだけ早めに延長手続き内容を通知しておくことで、期限までに労働組合などから意見書の提出がない場合には、意見がないものとみなすこともできます。
もし意見書の内容に対し労働組合などから異議を述べられた場合には、抵触日の前日までに延長しようとする期間やその理由、異議への対応方針を説明しなければなりません。
4.結果を正確に記録して社員で共有する(派遣先)
意見聴取が終わったら、その結果を書面に正確に記録します。
記録した書類は、延長した派遣可能期間の終了後3年間の保存義務があります。また記録した内容に関しては、派遣先の事業所で働く社員に開示し、共有しなければなりません。
また書面に記録しなければならない内容には、以下の項目があります。
(1)意見を聞いた労働組合の名称、又は代表者の氏名
(2)労働組合などに通知した日及び通知した事項
(3)労働組合などから意見を聴いた日及びその意見の内容
(4)意見を聴いて延長する期間を変更したときは、その変更した期間
5.人材派遣会社が結果を受け取る
意見聴取が終われば、派遣先の企業は速やかに人材派遣会社に結果を書面で通知します。もし人材派遣会社が独自の様式を準備している場合には、その様式に記載して返送してもらっても構いません。
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人材派遣会社においては、抵触日の延長に関する通知を派遣先から受けとってから、延長後の期間における派遣契約を結ぶことが可能となります。
抵触日を延長する際のポイント
派遣期間の抵触日を延長するためには、主に派遣先が必要な手続きを追う必要があります。ただし、人材派遣会社においても抵触日をしっかりと把握し、派遣先や派遣スタッフと契約内容や抵触日後意見のすり合わせなどを行う必要があります。
以下の手続きは派遣先の企業が行いますが、人材派遣会社においてもしっかりと派遣先がルールに基づいた手続きをとっているかどうかの確認が大切です。
意見聴取の代表者を正しく選ぶ
意見聴取の代表者の選出は、正しい方法で行われなければなりません。
特に過半数代表者の場合は、監督又は管理の地位にある者からは選べないため、注意が必要です。
上記の地位に当てはまらない場合でも、選出方法が民主的とみなされなければ意見聴取を行ったことが認められないケースもあります。
延長の意見聴取は事業所毎に行う
抵触日を延長するための意見聴取は、各事業所それぞれで行わなければなりません。
仮に本店で延長の手続きをしたとしても、事業所が異なる場合は、それぞれの事業所で意見聴取する必要があります。
正しく意見聴取が行われなかったときには、抵触日の延長が認められないケースもあります。
抵触日の延長で人材派遣会社がすべきこと
抵触日の延長手続きの多くは、派遣先の企業が行います。ただし、派遣スタッフをしっかり管理できていない派遣先があると、手続きが遅れるなどして雇い止めが発生するケースも少なくありません。
そこで、人材派遣会社が次の3つを行うことで、トラブルを回避できます。
- 派遣会社から派遣先に対して意見聴取手続きの案内をする
- 抵触日の1か月前までに派遣会社が労働者代表の意見を聴く手続をする
- 新しい抵触日を派遣先から派遣会社に通知してもらう
上記を忘れず、確実に行いましょう。
3年ルールで派遣を終了する際に人材派遣会社がすべきこと
このように、派遣社員には3年ルールが適用されるため、抵触日以降のスタッフの働き方を考えておく必要があります。以下では、3年後の働き方と対処する方法や、同じ職場で働き続ける方法を解説します。
派遣スタッフが抵触日を迎える前に人材派遣会社がとるべき施策には、主に次の4つがあります。
- 派遣先にその派遣社員の直接雇用を依頼する
- 派遣社員に新たな派遣先を紹介する(紹介予定派遣も可)
- 派遣会社においてその派遣社員を無期雇用する
- 新たな派遣先が見つかるまでその派遣社員の教育訓練期間とし、その期間の給与を支払う
このように、新たな派遣先を紹介する方法や、自社で無期雇用するなどの方法があります。
また抵触日には「クーリング期間」と呼ばれる空白の時期を入れることでリセットされる仕組みがあります。クーリング期間は、個人単位・事業所単位のいずれの場合においても「3カ月と1日以上」の期間です。そのため、3年間働いたあとに「3カ月と1日」のクーリング期間を設けることで、同一の職場でさらに3年間働くことが可能となります。
派遣法改正と3年ルールのまとめ
このように派遣スタッフを受け入れる派遣先の企業には、3年ルールにおける抵触日の通知義務があります。個人単位の抵触日や期間制限を受けない派遣社員以外は、事業所単位の抵触日を人材派遣会社へ通知しなければなりません。そのため人材派遣会社でも3年ルールをしっかりと理解し、個々の事業単位や個人単位の抵触日について把握しておくことが大切です。
そこで人材派遣会社では、抵触日の管理などの定型業務を自動化できる人材派遣管理システムを導入し、法改正にも正確に対応できるように備えましょう。人材派遣管理システムでは、派遣法などのさまざまな法令の改正に対して自動更新で対応できるため、自社の社員の業務工数の削減にも役立ちます。
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