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労働者派遣事業法の基礎知識|過去の改正ポイントや注意点を徹底解説

人材派遣業に従事する方は、さまざまな労働に関する法令を遵守しながら業務にあたらなければなりません。数ある法令の中でも、人材派遣法に最も重要な法令の1つが労働者派遣事業法です。

ただ労働者派遣事業法は、その時代背景に合わせて頻繁に改正が行われており、2021年だけで6点もの改正がありました。そのため人材派遣会社では、改正の都度、新しい法律に沿った事業運営が求められます。

そこでこの記事では、過去から最新までの労働者派遣事業法の改正ポイントや、2022年以降の労働者派遣事業法の方向性について解説します。人材派遣企業に従事する方は、ぜひ参考にしてください。

人材派遣事業法とは

労働者派遣事業法とは、適切な運営のもと派遣労働者の保護を図り、雇用の安定化と福祉の増進を目指すために1986年に施行された法律です。

一般社団法人 日本人材派遣協会の調査によると、2022年3月時点の全国の派遣社員の登録者数は約143万人となっており、労働人口の減少が懸念される今も人数が増えています。そして、派遣社員が今後も増え続けると予想される中で、労働者派遣事業法は、派遣で働く人の労働環境を整備することを目的にその時代に合わせ改正と施行が繰り返されています。

労働者の派遣については、契約上での雇用主(派遣元の人材派遣会社)と実際の職場となる派遣先が異なるため、雇用主責任が不明確な問題があると言われています。また正社員と比較すると、雇用状況が不安定であることも課題の1つです。

このような課題を解決するため、労働者派遣事業法が制定され現在も改正が検討ています。

労働者派遣事業法の構成

労働者派遣事業法は、第1章から第5章までで構成されています。それぞれの章ではどのような内容が記されているのかを見ていきましょう。

第1章:総則(1-3条)

第1章では、総則として労働者派遣事業法の「目的・用語の意義・船員に対する適用除外」について記載されています。

労働者派遣事業法は、船員職業安定法(第6条)に規定する船員については適用しません。

第2章:労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置(4-25条)

第2章では、適正な運営を確保するための措置について記載されています。労働者派遣事業を運営するには、厚生労働省への許可が必須です。

以下の基準を満たしている場合、派遣事業が許可されます。

  • 該当する事業が、労働者派遣の役割を特定の者だけに提供する事を目的として行われるものではない事。
  • 申請者が、該当する事業の派遣労働者に関わる雇用管理を、適正に行える能力がある事。
  • 個人情報を適正に管理し、労働者の秘密を守れる措置がある事。
  • 申請者が、該当する事業を的確に遂行できる能力がある事。
  • 民営職業紹介事業を兼業する場合、許可要件を満たしている事。
  • 海外派遣を予定する場合、許可要件を満たしている事。
  • 資産用件や事業所の必要面積条件、派遣元責任者の条件に関する規定を満たす事。

派遣元責任者になるためには、一定条件を満たしつつ派遣元責任者講習を受けて資格を取る必要があるため早めにチェックしておきましょう。

第3章:派遣労働者の保護等に関する措置(26条-47条Ⅲ)

第3章では、派遣労働者を保護するための措置について記載されています。2012年の改正により「派遣労働者の保護」について明示され、施行から現在まで特に大きく改正されてきた項目です。

ここには、契約内容や契約解除、教育訓練、賃金などをはじめとしたさまざまな規定があります。改正の歴史や2021年に改正された項目は、ページ下部で詳しく解説しています。

第4章:紛争の解決(47条)

第4章では、紛争の解決の援助などに関することが記載されています。ここでは、派遣元に寄せられた苦情や紛争、調停などについて記されており、2021年に改正された項目の1つです。

第5章:雑則(47条Ⅳ-57条)

第5章では、事業主団体等の責務や指導、改善命令をはじめとする雑則について記載されています。立入検査や手数料などについても記されており、労働者派遣事業の運営において把握しておくべき事項です。

第6章:罰則(58-62条)

第6章では、労働者派遣事業法違反に対する罰則について記載されています。意図せずにやってしまった行為であっても、厳しい罰則が課される可能性があるため注意しなければなりません。

「知らなかった」では済まされないため、労働者派遣事業法についてしっかり把握しておきましょう。

労働者派遣事業法の目的

労働者派遣事業法は、下記の内容を目的として定められています。

「労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もつて派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資すること」

労働者派遣事業法は、かつては「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」でしたが、2012年に「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に改正されました。

ここで、法律の目的にも「派遣労働者の保護のための法律」という目的が明示されたのです。

労働者派遣の対象外となる業種

労働者派遣事業法は、以下の業務は「適用除外業務」として派遣が禁止されています。

禁止されている業種

  • 港湾運送業務
  • 建設業務
  • 警備業務
  • 病院・診療所等における医療関連業務
  • 弁護士・社会保険労務士等のいわゆる士業

派遣適用外業務に従事する労働者派遣を行った場合、派遣元は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という罰則の対象となるため、十分に注意しましょう。

派遣法の歴史

1986年に施行された「労働者派遣事業法」は、労働環境や時代背景の変化に合わせるため、今日に至るまで何度も改正が行われてきました。ここでは過去から現在までの改正内容について振り返ります。

1996年改正:派遣対象業務の拡大

1996年の労働者派遣事業法改正では、労働者派遣事業法の対象業務が26業務へと拡大されました。施行当初は16業務に限定されていましたが、正社員に代替できない業務を中心に合計26業務が対象となりました。

対象に追加された業務

  • 研究開発
  • 事業実施体制の企画・立案
  • 書籍等の製作・編集
  • 広告デザイン、インテリアコーディネーター
  • アナウンサー
  • OAインストラクション
  • テレマーケティング、セールスエンジニア
  • 放送番組の大道具・小道具の作成・設置など

1999年改正:派遣対象業務の修正(ネガティブリスト化)

規制緩和の波が広がり、労働者派遣の対象範囲が、認可されているものを指定する「ポジティブリスト方式」から禁止されているものを指定する「ネガティブリスト方式」へと変更されたことで、派遣が禁じられる業務が定義づけられました。

これにより、禁止されている業種以外では原則労働者派遣が自由になりました。ただし、正社員の代替を防止するために、新たに労働者派遣の対象となった業務には、派遣期間の制限(1年間)が設けられています。

禁止されている業種

  • 港湾運送業務
  • 建設業務
  • 警備業務
  • 病院・診療所での医療業務
  • 弁護士・公認会計士・税理士などの士業
  • 建築士事務所の管理建築士など他の法令で禁止されている業務、人事労務関係で労使協議の際、経営者側の直接当事者として行う業務
  • 当面の間禁止 物の製造

2000年の改正:紹介予定派遣制度の導入

2000年の改正では、正社員雇用を促進するために「紹介予定派遣」が解禁されました。

紹介予定派遣とは、派遣先企業に直接雇用されることを前提に、最大6ヶ月間派遣社員として就業し、企業と本人が合意した場合に、直接雇用として採用されるシステムです。

お互いを見極める期間があるため、派遣先と労働者のミスマッチを防ぐことができ、直接雇用のさらなる増加が期待できます。

2004年の改正:派遣期間延長

2004年の改正では、1999年に原則自由化された業務の派遣期間が1年から3年に延長されました。さらに、当初ポジティブリスト方式で指定されていた26業務の派遣期間は無制限に。

禁止業務とされていた「物の製造の業務」は、派遣期間1年の制限で可能となりました。

2006年の改正:医療従事者への派遣適用

2006年の改正では、医療関係業務で産前産後休業・育児休業・介護休業中の労働者の業務と、医師の確保が困難な僻地に限り、労働者派遣が解禁されました。

医療関係者の仕事と家庭の両立支援や、医療不足の解消を観点として解禁された制度です。

2007年の改正:物の製造業務の派遣期間延長

2004年に「物の製造の業務」の派遣が解禁されましたが、派遣期間は最長1年間という制限がありました。現場のニーズから、2007年に派遣期間が1年から3年に延長されました。

2012年の改正:法名称の変更

2012年の改正では、16業務から28業務に整頓、日雇い派遣の原則禁止、グループ企業内派遣の規制、離職者を1年以内に派遣労働者として受け入れ禁止、派遣料金と派遣賃金差額情報公開の義務化

など、これまでの規制緩和の流れから一転し、規制を大きく強化しました。

ここで法律の正式名称が「労働者派遣業の適正な運用の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に変更され、派遣労働者の保護を目的とした法改正が行われるようになります。

2015年の改正:派遣業務許可制導入・派遣期間一律3年

2015年の改正では、さらなる労働者保護のためにいくつかの改正が行われました。

1つ目は「すべての派遣事業を許可制」としたことです。以前までは、派遣事業を始める際には「許可制の一般労働者派遣事業」もしくは「届出制の特定労働者派遣事業」の2つがありました。

しかし、一般労働者派遣事業の許可要件を満たせず、特定労働者派遣事業と偽り、一般労働者派遣事業を実施している事業者がいたことが問題視されていました。こういった問題を無くし、派遣事業の健全化を目指すために、すべての派遣事業を許可制として「キャリア生成支援制度をもつこと」を許可要件に追加しました。

2つ目は「派遣期間を原則一律上限3年」としたことです。これまでは、専門26業務の派遣期間は無制限、それ以外の業務は最長3年の制限がありました。しかし、業務によって派遣期間が異なることで現場での混乱が起こったり、制限から逃れたりするために専門26業務と偽ることが問題視されました。

そこで、個人単位および事業所単位の期間制限に変更し、専門26業務(現28業務)に関わらず、全て統一することとなったのです。

他にも、派遣労働者に賃金の情報提供、教育訓練など均衡待遇確保への配慮、派遣終了時の派遣労働者の雇用安定措置、派遣元からスタッフへの教育訓練が義務付けられました。これらの義務違反に対しては、許可の取り消しを含めて厳しく指導されるようになっています。

改正労働者派遣事業法(2021年)のポイント

ここ数年、大きな改正が続いている労働者派遣事業法。2021年には、デジタル化の流れや実効性を持たせるため、1月と4月に施行規則が改正されました。

2021年に行われた労働者派遣事業法改正のポイントは全部で6つあります。

教育訓練計画説明の義務付け

従来の待遇に関する説明の義務化に加え、派遣元事業主が実施する「教育訓練計画」の説明と、希望者に対するキャリアコンサルティングの内容説明が義務付けられました。

派遣労働者は、雇用契約期間に限りがあるため、ひとつの職場に腰を据えてキャリアを積む働き方ができません。そのため、派遣労働者がキャリアパスを歩んでいけるよう、キャリア形成支援の充実を図る狙いがあります。

派遣契約書の電磁的記録を認める

これまで、派遣労働者への労働条件などの明示はメールやSNSによる送信が認められていましたが、派遣先と人材派遣会社が交わす労働者派遣契約については、書面で作成する必要がありました。

今回の改正により、企業間の契約においても電子化が認められたということです。これにより、派遣社員の契約更新の際など、さらなる業務効率化が期待できると言えるでしょう。

派遣先における、派遣労働者からの苦情の処理について

派遣労働者から、労働関係上(労働基準法・労働安全衛生法・育児休業・介護休業)に関する苦情があった場合、派遣先企業も誠実かつ主体的に対応する義務が設けられました。

これまで派遣労働者の苦情は、派遣先ではなく派遣元である人材派遣会社に寄せられることは珍しくありませんでした。実際に、内容を十分に把握しないまま苦情処理をするケースも多くあったようです。

このような実態を踏まえ、派遣元に苦情処理を任せればよいといった考えを戒めるため、今回の改正がなされました。

日雇派遣の契約解除に対する休業手当について

日雇い派遣において、派遣労働者に落ち度や過失がなく契約解除になり、派遣元が新たな就業先を確保できなかった場合、休業手当を支払い雇用の維持に努めることとされました。

雇用安定措置に関する派遣労働者からの希望の扱い

雇用安定措置に関して、派遣労働者からの希望の聴取(ヒアリング)を行い、派遣元管理台帳に記すことが義務化されました。

雇用安定措置とは、派遣先の同一組織に3年間就労する見込みがある派遣労働者に対して、派遣就労後の雇用を継続するための措置のことです。派遣会社は、以下のいずれかを講じることを義務付けられています。

  • 派遣先企業への直接雇用の依頼
  • 新たな派遣先の提供
  • 派遣先企業での無期雇用への切り替え
  • その他安定した雇用の継続を図るための措置

マージン(=派遣先会社から派遣元会社に支払われる紹介料や派遣手数料)率等の開示

今回の改正にてインターネットなどによる公開が義務化されました。

マージン率の他にも、派遣先事業所の数、派遣料金の平均額、派遣労働者の賃金の平均額などの情報も公開されます。

2022年以降の法改正について

2022年以降に関しては、今のところ労働者派遣事業法の法改正は予定されてない模様です。しかし、関連法規でいくつかの改正があり、労働者派遣業務への影響が見込まれるため、ここで詳しく紹介します。

<h3>4月1日施行

<h4>労働施策総合推進法(パワハラ防止法)

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)は、大企業に関して2020年6月より適用されていますが、2022年4月からは中小企業についても「パワハラ防止対策」を講じることが義務化(対象は直接雇用している労働者だけでなく、派遣スタッフにも該当)されます。

<h4>女性活躍推進法改正

女性活躍推進法は2016年に成立し、労働者数301人以上の事業主に女性が活躍できる行動計画を策定・公表するよう義務付けていました。そして2022年4月1日より、労働者数101人~300人以内の事業主も、これまでの「努力義務」から「義務」の対象となり、一般事業主行動改革を労働局に提出する必要があります。

またこれに伴い「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」や「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の少なくともいずれかの実績を公表しなければなりません。そして、女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主には「特定認定制度(プラチナえるぼし)」が創設されます。

<h4>育児・介護休業法改正

2022年4月1日施行の法改正では、育児休業に主な焦点が当てられています。

具体的には「父親や母親が希望すれば、仕事と育児を両立するために柔軟に休業することができる状態をつくる」ことを目的とし、以下の3点が改正されます。

  • 事業主に対して、雇用環境整備、個別周知・意向確認措置を義務付けること
  • 事業主に対して、育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置を義務付けること
  • 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件が緩和すること

また、これまでの育児・介護休業法の対象となるために「引き続き雇用された期間が1年以上」「子どもが1歳6ヶ月までの間に契約満了することが明らかになっていない」という条件がありました。しかし、4月1日からは「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件が撤廃され、「子どもが1歳6ヶ月までの間に契約満了することが明らかになっていない」ことだけが条件となります。これにより、多くの派遣労働者も無期雇用で働いている人と同様の取得条件となります。(※ただし、労使協定を別途締結されている場合は「引き続き雇用期間が1年以上」の要件が適用されます)

<h3>10月施行

<h4>年金制度改正法

2022年10月施行の年金制度改正法では、年金制度の被保険者の適用対象が拡大されます。

現在、アルバイトやパートなどの週20時間以上働く短時間労働者に対し、厚生年金保険・健康保険の加入が義務づけられているのは「従業員501人以上規模」の企業です。しかし2022年10月からは「従業員101人以上規模」そして2024年10月には「従業員51人以上規模」の企業と、段階的に適用範囲が拡大されます。

また今回の改正により、在職中の年金受給の在り方の見直しも行われます。具体的には、60歳〜64歳で働きながら受給する場合は28万円以上超えると支給額が減額されていましたが、基準が47万円へ引き上げられます。なお、65歳以上の方は現行基準がすでに47万円に設定されているため、変更はありません。

次に公的年金の受給開始年齢について。

現在は原則として65歳で、希望すれば60歳〜70歳の間で受給開始時期を自由に決めることができます。しかし今回の改正によって、受給開始年齢をそのままに、受給開始時期の繰り上げ上限が70歳から75歳まで引き上げられます。年金の受給開始を遅らせることで、月単位の年金受給額を増やすことができます。

また現行制度では、個人型の確定拠出年金(iDeCo)へ加入できる年齢が60歳未満でしたが、この法改正により65歳未満となります。

<h2>労働者派遣事業法のまとめ

このように、労働者派遣事業法は、1986年の施行より幾度となく改正を繰り返しています。それは、その時々の時代背景や労働環境の変化に対応するためで、労働者の保護を第一の目的としているからです。

労働者派遣事業法の大きな改正は、2021年に行われており、特に人材派遣業に従事する方は、最新情報をしっかりと把握しておかなければなりません。

そこで、人材派遣会社では、定型業務の多くを自動化できる人材派遣管理システムを導入し、法改正にも正確に対応できるように備えましょう。人材派遣管理システムは、労働者派遣事業法だけでなく、さまざまな人材管理に関わる法令に対応し、改正後は自動的に更新されます。自社の社員の業務工数の削減にも繋がるため、ぜひ内容をご確認ください。

また、2021年から2022年の派遣法改正を分かりやすく解説したホワイトペーパーを、下記よりダウンロード可能です。ぜひご活用ください。

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