人材派遣会社は、契約先の企業に対し労働者の派遣を行いますが、これと同じような事業として「請負」があります。
どちらも契約先の企業に労働を提供する業務となりますが、それぞれ遵守しなければならない規則や法律が異なります。また違反すれば「偽装請負」としてペナルティを受ける可能性があるため注意が必要です。
そのため人材派遣会社においては、この違いを十分に理解し、偽装請負とならないように注意しなければなりません。
そこで今回は、複雑で分かりにくい偽装請負の定義や派遣と請負の違い、偽装請負と判断されたときのペナルティについて徹底解説致します。
人材派遣会社の経営者はもちろん、営業や人事に関わる方も、ぜひ参考にしてください。
偽装請負の定義とは
偽装請負の定義は、実態が労働者派遣と同じ扱いで働いているにもかかわらず、形式上請負契約のように偽装して労働者を働かせる行為のことを言います。
しかし、請負は一見しただけで適正な労働か偽装請負かを見分けるのが難しいこともあり、偽装請負が見落とされるケースも少なくありません。
偽装請負と適正な請負の違いを判断するために注目すべきポイントは、現場でどのように業務が運営されているかとなります。分かりやすく言えば「仕事の指揮命令を誰が取り仕切っているか」によって、偽装請負と適正な請負かを判断できます。
請負と派遣の違い
派遣と請負とは、基本的に労働者を契約先の企業に提供するという点で同じです。しかし、具体的な契約内容が大きく異なります。
まずは派遣と請負について、それぞれの特徴を解説します。
派遣とは
派遣とは、派遣先(発注主となる労働者が就業する企業)が人材派遣会社と労働者派遣契約を結び、人材派遣会社が派遣先に労働者を派遣する形態です。
派遣では、報酬が「労働力」に対して発生し、派遣労働者との派遣契約期間に定めがあるのが特徴です。
請負とは
請負とは、発注主の会社が請負会社(労働者などを提供する側)と請負契約を結び、請負会社が依頼された成果物を発注主に納品する形態です。
この請負について、民法では以下のように定義されています。
「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。(民法632条)」
つまり、報酬は「仕事の成果物」に対して発生し、契約期間などによる制限や区切りはありません。
請負契約で委託する業務の例としては、以下のような「成果物」がメインとなります。
- Web制作
- 広告制作
- ノベルティ制作
- システム開発
- セミナー講演
上記のように、明確な成果物が対象となるのが請負契約の特徴です。
偽装請負が禁じられる理由
ここでは、偽装請負が禁じられる理由について詳しく解説します。
労働者の保護
人材派遣の場合、労働者は勤務先となる人材派遣会社と雇用関係にあるため、労働法が適用されます。ところが、請負の場合は労働者と勤務先となる企業に雇用関係が成立しないため、労働法が適用されません。
そのため請負で働く労働者は、福利厚生のサービス全般を受けることができず、社会保険や通勤・住宅関連費、残業などの手当も原則ありません。
これは、請負労働がそもそも「仕事の成果に対して報酬が発生する」契約形式のため、労働の時間は報酬に影響しない働き方であるためです。
このような状況から、労働者を保護するために偽装請負が法律でも禁じられています。
中間搾取の禁止
請負には複数の企業が関与するケースがあるため、それぞれの企業に中間マージンを搾取され、労働者がわずかな賃金しか受け取れない危険性があります。
このような状況を避けるため、労働賃金の中間搾取が禁じられています。
偽装請負の判定基準
人材派遣と請負は「誰が仕事の指揮命令をしているか」によって判断できます。仕事の指揮命令を就業先である労働現場の担当者が行う場合は「派遣」で、派遣元が行う場合は「請負」となります。
そのため、派遣先の企業と労働者の間に指揮命令の関係がある場合は、請負契約に基づいた作業を行っていても派遣に該当します。この場合は、待遇面でも派遣法の適用を受ける権利を有します。
また、派遣と請負の区分判断を明確に行うことができるように「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)」が定められています。
労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)
37号告示とは、労働者派遣事業と請負の事業の区分基準を明確化した旧労働省(現:厚生労働省)の考え方を示した告示です。
37号告示は、業務委託契約書を作成する際の業務委託契約と、労働者派遣契約との区分基準となります。 このため、労働者を常駐させる企業間取引での業務委託契約の場合は、この37号告示に則した業務委託契約書の作成が重要となります。
逆に、37号告示に則した業務委託契約でない場合は「偽装請負」となり、発注主の企業と請負企業の双方が労働者派遣法違反となります。
偽装請負の典型的パターン
偽装請負となる典型的なパターンには、以下のような特徴があります。人材派遣会社を運営する際は、これらのパターンにあてはまらないように注意しましょう。
代表型
代表型は、請負契約でありながら発注者が労働者に業務の細かい指示や出退勤・勤務時間の管理を行うケースで、偽装請負の典型的なパターンです。
形式だけ責任者型
形式だけ責任者型とは、現場に派遣先の監督責任者を置いているものの、この責任者が発注者の指示を個々の労働者に伝えるのみで、実質的に発注者が指示をしているのと同じケースを言います。単純な業務に多い偽装請負のパターンです。
使用者不明型
使用者不明型は、業者Aが業者Bに仕事を発注し、Bが別の業者Cに請けた仕事をそのまま再発注するケースです。Cに雇用されている労働者がAの現場に出向き、AやBの指示によって仕事に従事します。この場合は、一体誰に雇われているのかよく分かりません。これも偽装請負の1つです。
一人請負型
一人請負型は、業者Aから業者Bで働くように労働者を斡旋します。ところが、Bはその労働者と労働契約は結ばず、個人事業主として請負契約を結び業務の指示、命令をして働かせるという偽装請負のパターンです。
偽装請負の罰則
偽装請負をした場合「故意に偽装し派遣事業を行った場合は、派遣事業主であることを免れることができない」という規則の下で、次の3つの罰則規定が適用されます。
労働者派遣法
労働者派遣法の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保および派遣労働者の保護等に関する法律」で、ここでは偽装請負をおこなった発注主と請負事業主に対し、許可を受けずに労働者派遣事業をおこなった者と見なし「1年以下の懲役、又は100万円以下の罰金」(第59条2号)が科せられる可能性があります。
職業安定法
職業安定法第44条「労働者供給事業の禁止」において、労働者供給事業の許可を受けた以外のものが労働者供給事業をおこなうことや、そこから供給される労働者を自らの指揮命令下で労働させることを禁止しています。
この職業安定法第44条で違法な労働者供給事業であると見なされた場合は、発注主と請負事業主に「1年以下の懲役、又は100万円以下の罰金」(第64条9号)が科せられる可能性があります。
また罰則の対象者は当該の会社以外にも及び、違反行為を直接行った者や、従業員に指示しておこなわせた会社の代表者、管理職なども処罰の対象となる可能性があるため注意が必要です。
労働基準法
労働基準法第6条では「何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」とされており、中間搾取が禁止されています。
請負を装った労働者供給や労働者派遣がおこなわれた場合は、請負事業主による中間搾取とみなされるケースがあります。これに該当する場合は、発注主も搾取を幇助(ほうじょ)したとし、労働基準法違反となる可能性があります。この場合は「1年以下の懲役、又は50万円以下の罰金」(同法118条)が科せられる可能性があります。
法律上の留意点まとめ
このように、人材派遣会社では、偽装請負とならないように労働者との雇用関係をはっきりとさせておく必要があります。特に人材派遣会社では、自社で雇用して派遣する労働者に関して雇用契約を結び、派遣先の企業とは労働者派遣契約を締結しなければなりません。
その際は、当然ながら雇用する労働者に対して、社会保険や福利厚生などのサービスを提供しなければなりません。これらの経費を削減するために福利厚生などのサービスを提供しなかったり、また派遣労働者として雇用した労働者に対し請負業務を行わせた場合は「偽装請負」となり、処罰の対象となります。
もし偽装請負とみなされた場合は、請負を偽装した企業(=派遣企業側)だけでなく、受け入れ側の企業(=クライアント企業)もさまざまな法律違反による罰則を受けてしまいます。また、懲役刑や罰金刑だけでなく、クライアント企業の行政指導や企業名公表といった罰則を課される可能性があります。
このように、人材派遣会社が無意識のうちに偽装請負に加担してしまっている恐れもあるため、細心の注意が必要です。
偽装請負の定義と罰則規定のまとめ
人材派遣会社が偽装請負をしないためには、労働者から見て発注先の企業へ「派遣」されているのか「請負」として仕事をしているのかを明確にすることが重要です。それは、派遣先の企業と労働者を送り込む企業との間で締結されている契約が「労働者派遣契約」なのか「請負契約」なのかによって労働者への待遇が大きく異なるからです。
人材派遣会社で雇用する派遣労働者には労働法が適用され、労働時間や有給休暇、社会保険や福利厚生といった手当や保障を与えなければなりません。一方、請負として労働者に仕事を提供する場合は、各種保障や手当を施す必要がなくなります。
しかし人材派遣企業は、基本的に「請負」を自社の派遣労働者にさせることができません。
そこで人材派遣会社と請負会社の双方が、それぞれのルールをしっかりと把握し、法律に則った労務管理を徹底することが重要です。