人材業界トレンド挑戦する派遣・紹介会社たち

【2030年の人材紹介業界】成長続く転職支援、AI活用で変わる収益構造

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これからの人材紹介会社、どうなる、どうする

人材紹介業は、リーマンショックで経済が停滞した時期を除き、コロナ禍でも増収増益の企業が多く、堅調に成長している業界といえます。しかし「今までとは違い、これからは人材紹介業にとって試練の時期がくる」と雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏さんは警鐘を鳴らします。

リクルートワークス研究所発行の人事専門誌『works』・リクルートエージェント発行の人事経営誌『Hrmics』両誌の元編集長であり、経済と採用のプロである海老原氏に、人材紹介業界が直面する構造変化と、これからの勝ち筋について聞きました。

好調な人材紹介業界に変化の兆し。転職市場で何が起きているのか

ーー転職が一般的になり、さらにエンジニアやコンサルタントなどの一部業種ではフィーアップが常態化しています。人材紹介会社は今後さらに業績を伸ばしそうですね。

今は市況も良く、人材紹介会社にとっては非常に良い時期だと思います。しかし、今後もこれが続くかと言われれば、それには疑問符が付きますね。

大きな理由の1つ目は、転職者数です。過去10年の間で実際に転職希望者は横ばい、転職総数は若干減少しています。

その背景には、企業が働き続けるための環境を整備しだしたのと同時に、大卒総合職に女性の増加があります。女性たちは終身雇用モデルという概念が希薄で転職するケースが多かったため、転職市場は活況を呈していました。しかし、男性の転職率は昔から低く、今も変わっていません。

ーーなぜ、男性の転職は少ないのでしょう。

日本特有の雇用システムが大きく影響しています。日本企業の場合、職能資格制度により、ポストに就かなくても給与が上がっていく仕組みになっています。大企業では、役職につかずとも、年収が1000万円近くまで上がることも珍しくありません。

欧米のように、同じポストにいたら大きく給与が上がらない仕組みであれば、給与アップのために転職するでしょうけれど、日本ではその必要がないんです。結果として、特に男性の転職率は昔から低く、今も変わっていません。

ーーなるほど。しかし、転職も一般的になり、年功序列で給与が上がる仕組みも見直され始めているため、今後は転職者も増えるのではないでしょうか。

現在の労働環境において、誰でも課長になれるという仕組みは崩壊しています。しかし、非管理職であっても、等級が1,2個上がり、さらに等級レンジの上限まで昇給することで問題なく年収アップが叶います。こうした仕組みは全く変わっていないため、そんなに転職実行者は増えないでしょう。

仮に転職者数が増えたとしても、人材紹介会社の成長は鈍化すると思いますよ。

現在は、年収400~500万円層の方の転職を支援すれば、1回で120~150万円ほどのフィーが手に入る時代です。しかし、この400~500万円の年収レベルである若手~ミドル層の人たちの転職は、そこまで複雑なキャリアや専門性を持っているわけではないため、AIでのマッチングが非常にやりやすい。経営を左右するほどの重要なポジションでもないため、仮にミスマッチが起きたとしても、企業の命取りにはなりません。ということで、AIによる自動化は早晩進むと思っています。人材ビジネス大手では、すでにこの領域の自動化に向けて、大規模な投資を行っています。

現在、人材紹介事業者として独立し、個人エージェントを営むのは非常に容易です。しかし、AI開発で自動化が一般的になると、まずはこの独立・開業した小さめのエージェントに余波が来ると思います。

これからの人材紹介会社に求められるもの

ーー転職支援をしている個人事業主の方には、厳しい時代ですね。ある程度規模感があり、キャッシュフローが潤沢な人材紹介会社であれば、問題ないのでしょうか。

規模の大小に関わらず、安易な「応募者推薦業務」しかしていない企業は厳しくなっていくのは間違いありません。これまでのように「第二新卒支援が得意です」とか「希望にあったキャリアを一緒に探します」といったレベルの紹介だったら、AIで安く早く実現できるようになるはずです。特定の業界や職種に特化し、その分野の深い知見を持つことが重要になってくるでしょう。

現在の人材紹介会社のフィーの計算方法は、入社が決定した方の年収の30~35%を報酬として受け取ることが一般的です。つまり例えば、年収3000万円のエグゼクティブ層のキャリア支援ができれば、1人支援するだけで1000万円の売り上げが見込めるじゃないですか。金融業界やIT業界のハイパー層は、3~5年のペースで新しいチャンスを求める傾向があるため、そういった人材を長く深くキャリア支援していくというような、戦略と専門性がどんどん重要になっていくでしょう。ニーズが高く、希少なスキルを持った人材は、引く手あまたですから、当然ながらさまざまな希望条件を伝えてくるでしょう。そうした部分の調整こそ、エージェントとして人間が介入する価値があるのです。人それぞれの細かい希望の調整はAIでは代替できませんからね。

エレメカ業界のエンジニアは、それほど年収は高くありませんが、求人は非常に多く、一方、求職者は少ないという完全な売り手市場です。電気・電子・機械などの知識を十二分に持つエージェントなら、求職者からの評判も良くなり、AI時代も登録人材を確保し続けられると思います。AIによる自動化で転職支援できるようになった後に残るのは、希少なスキルや専門性を持った人材の転職支援です。

ーー専門性が高い方や、エグゼクティブ層などとよばれる方々のキャリア支援への参入は、簡単ではないでしょうね。

海老原:そりゃそうですよね。でも、だからこそビジネスチャンスがあるんです。企業としては、なかなか採用できないからこそ「どうしても探してほしい」と言うのです。そこにこそ人材紹介会社の価値が生まれます。

ーー明日から何を始めればいいでしょう。

特定の業界や職種の知識を徹底的に深める。業界の主要企業やキーパーソンとの関係を構築する。そして、その分野でしか得られない独自の人材データベースを作っていくことが必要になります。これには相当な時間がかかりますから、今のうちから始めると良いのではないでしょうか。

人材ビジネス大手によるAI投資が成功し、転職支援の自動化が一般的になってきたとき、人材紹介会社のあり方は大きく変わるでしょう。その時に必要とされる人材紹介会社とは、その道のプロフェッショナルとして認められている会社だけです。その変化に、今から備えておくのがいいのではないでしょうか。


インタビューを通じて見えてきたのは、人材紹介業界における二極化の波です。一方では、AIによる自動化が進み、これまでのような汎用的な転職支援の収益性は低下していく。しかし他方では、専門性の高い領域は、今後も求め続けられるでしょう。

海老原さんが強調するのは、この変化を「脅威」ではなく「機会」として捉えることの重要性です。確かに、多くの人材紹介会社にとって、専門性を築き、独自の価値を確立することは容易な道のりではないでしょう。しかし、だからこそビジネスとしての価値が生まれる。今という時期を、次のステージに向けた準備期間として活用できるかどうかが、各社の将来を決めることになりそうです。

海老原さんには、もう一つの人材ビジネスの柱である「人材派遣業界」について、今後の勝ち筋について伺っています。人手不足でスタッフ登録数に悩む会社が増えてきたにもかかわらず海老原さんは「これからは派遣会社はチャンス」といいます。併せてチェックしてみてください。


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海老原嗣生さんの著書『少子化~女“性”たちの言葉なき主張~』を5名の方にプレゼントします。「日本における最大の雇用問題は女性」と指摘する海老原さんが、少子化問題を日本社会における女性のあり方の変遷から解説した本書は、日本の雇用問題や労働市場について示唆に富んだ一冊です。ぜひご応募ください。


プロフィール

海老原 嗣生 氏

雇用ジャーナリスト

1964年、東京生まれ。雇用ジャーナリスト。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルート)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。その後、リクルートワークス研究所にて雑誌Works編集長。2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げ、人事・経営誌HRmics編集長就任。著作は雇用・マネジメント・人事・社会保障・教育などをテーマに多数。

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