2020年、巨額の赤字を抱えた人材会社の社長就任を打診された塚原氏。多くの人が躊躇するような状況下でしたが、挑戦を決意しました。その決断から約4年、ワンダーグループは驚異的な成長を遂げ、今や年商30億円を視野に入れるまでに。その成長の源泉は何なのでしょうか。
塚原社長は「人材の活用」にあると語ります。「人材不足で悩む企業」と「労働環境において潜在的な人材」の架け橋となる同社が目指す未来とは。塚原社長に伺いました。
日本の雇用問題を解決する。ワンダーグループの挑戦
「企業は人材不足を叫ぶ一方で、多様化している求職者の現状を受け入れられていないのではないか」これが塚原社長が考える、現在の日本の労働環境における課題です。
「現在の労働市場では、様々なスキルレベルや就労に対する考え方を持つ人々が存在しています。高度なスキルを持ち、積極的にキャリアを追求する方々がいる一方で、従来の雇用形態にうまくフィットせず、新たな機会を見出せていない方々もいます。この多様性に対応し、それぞれの潜在能力を最大限に引き出すことが、日本の雇用における重要な課題解決につながるのではないか」と塚原社長は指摘します。
従来の労働市場で見過ごされがちな多様な人材の中には、様々な理由で積極的な就職活動に困難を感じている方もいらっしゃいます。例えば、職場環境への適応に不安を感じる方、または従来の雇用形態に馴染みにくい方など、それぞれ独自の課題を抱えている場合が珍しくありません。それにより、長期的な雇用経験が限られていたり、従来の労働市場で求められるスキルや経験を十分に積む機会に恵まれなかったなどの背景があり、これがネックとなってしまっている場合が少なくないのです。
ワンダーグループは、このような多様な背景を持つ方々に対し、それぞれの強みを活かし、新たなスキルを身につける機会を提供しています。個々人のニーズに合わせた柔軟な働き方や、段階的なキャリア構築をサポートすることで、誰もが自分らしく活躍できる職場環境の創出を目指しているのです。
「勤務時間の調整が難しかったり、突発的な休暇が必要になることがあっても、それは必ずしもその方の能力や可能性を制限するものではありません」と塚原社長は説明します。適切な支援と機会があれば、誰もが労働市場で自分らしく活躍できる可能性を持っていると、塚原社長は語ります。
「多くの方が、自分に合った形で社会に貢献したいという思いを持っています。私たちの役割は、そういった多様なニーズを持つ方々と、人材を求める企業との間の架け橋になることです」
この包括的なアプローチこそが、ワンダーグループの成長の鍵となっています。
ワンダーグループが掲げる「アルバイト人材派遣」という働き方
ワンダーグループが提案するのは、「アルバイト人材派遣」という新しい働き方です。塚原社長はこのコンセプトについて次のように説明します。
「アルバイト人材派遣は、短期の仕事を入口として、従来の雇用形態では労働の機会を得にくかった方々にも、自分のペースで仕事を始めるチャンスを提供しています。同時に、企業側には『必要な人員を責任を持って用意する』とお約束しているのです」。
スタッフには働き口を、企業には必要な人員を。「必ず用意するから、任せてほしい」と伝えることで、ワンダーグループは選ばれていると塚原社長は説明します。
「そのために、私たちはやれるだけのサポートをします。例えば、スタッフ側には、出勤の日は朝起きる時間の設定から、通勤ルートの確認など、必要な方にはきめ細やかなフォローアップを行い、スムーズな就業をサポートします。一見、手厚すぎるように思えるかもしれません。しかし、こうしたサポートを通じて、多くの方が自信を持って働けるようになるのです。それは私たちの使命であり、喜びでもあります」。
さらに、万一の時に備え『スタンバイ制度』も設けています。急な欠員に対応できるよう、プラスアルファの人材にも待機してもらっているのです。念のためのフォローを入れつつ、働きたい人が働けるようにフォローする。これこそがワンダーグループの強みとなっています。
今日、明日の目標から、キャリアを考える「マイクロキャリアパス」という概念
ワンダーグループでは、丁寧なサポートをするだけでなく、個人の成長と自立も重視しています。
「私たちの目標は、単に就業機会を提供するだけでなく、長期的なキャリア形成をサポートすることです。そのためには、個々人の興味や強みを理解し、やりがいを感じられる仕事とマッチングすることが重要です。これにより、持続可能で充実したキャリアパスを築くことができるのです」。
このモチベーションを高めるために「マイクロキャリアパス」という概念を提唱、実行しています。マイクロキャリアパスとは、1・2日レベルの将来のやりたいことのために、どうすればいいかキャリア(仕事)を考えるというものです。
「通常、キャリアパスといえば中長期で考えるものでしょう。しかし、今日、明日の短時間から仕事へのモチベーションを考えるのがマイクロキャリアパスです。例えば、『今日の夜のデート代を稼ぎたい』『ほしいゲームがある』このような小さな目標から考えていくのです。必要としている金額を達成するためには、何時間働いたら達成できるのかを考え、そしてどの仕事をするのか、シフト回数などを決めるのです。『家族と一緒に旅行したい』『貯金をしたい』など、やりたいことを一緒に言語化し、実現に向けて支援していきます」。
この方法により、働く習慣が徐々に身につき、長期的な就労へとつながっていくことが、ワンダーグループではすでに実証済みなんだとか。最初は日雇いアルバイトから始めても、やがては週3日、週5日と働けるようになっていっています。そういった変化を目の当たりにし、ワンダーグループのキャリア支援策として、定着しています。
「とにかく、少しずつ小さなことを積み上げていくことが大切だと思っている」と塚原社長は語ります。
「信頼もキャッシュもない」大赤字からのV字回復。その中でみつけたワンダーグループの存在意義
塚原社長が27歳で経営を引き継いだ当時のワンダーグループは、財務的に厳しい状況にありました。そんな中で生まれたのが、「アルバイト人材派遣」というサービスです。
「企業のニーズに応じて、責任を持って必ず人材を紹介する。アルバイト派遣という単語を使ったのは、“必ず来てくれる”という意味を込めています。企業からは、アルバイトのように“シフトを必ず埋めてくれる”という信頼ができる存在。一方で求職者の方からは“アルバイトの感覚で、気軽に仕事を始めてみることができる”という意味もあります。これは私たちの強みになりました。ほかの派遣会社では“人がいれば”派遣しますと説明することが多かったからです」と塚原社長は説明します。
「必ず働いてくれる人を見つけます」と言ったからには、やるしかありません。人材確保に奔走する中で、塚原社長は従来の労働市場で機会を得にくかった方々と出会いました。
「体調や家族の事情などで仕事に来ることができなくなることも考えられます。そうなっても大丈夫なように、2人必要なら3人のスタッフにお願いするなどし、必ず人を準備しました。イベント関係が多いので、1人増えたとしても、ありがたがられます」。
アルバイト派遣とはいえ、求職者の方のキャリアも最初からしっかりと考えていたのだとか。「任せる仕事は短期の仕事であっても、一人ひとりの長期的な成長を視野に入れてコミュニケーションを取りました。個々の強みを見出し、それを伝えることで、相互の信頼関係を築いていきました」。
この取り組みにより、ワンダーグループを通じて働くことに価値を見出す人材が増えていきました。その結果、求職者の集客に多くの時間を割かなくても良いという好循環が生まれます。現在は、リーダーシップを発揮し、現場を牽引する人材も育ってきています。
ワンダーグループの事業モデルは、一見すると“機会の提供”など社会貢献的な側面が強いように見えるかもしれません。しかし、塚原社長はビジネスとしての側面を強調します。
「これは純粋なビジネスモデルです。多様な人材の潜在能力を引き出し、企業のニーズとマッチングすることで、双方に価値を提供しています。それが私たちの事業の本質であり、同時に日本の雇用課題の解決にも貢献していると考えています」。塚原社長の言葉は、ビジネスを通じて社会課題を解決する、現代の企業の在り方を示唆しています。
「働かせ屋」になりたい。ワンダーグループが目指す未来
「人手不足で悩んでいるという企業は、実は労働市場の現実を把握できていないと感じている」と塚原社長は指摘します。「企業は『未経験でもOK』と言いつつ、あいさつができる、遅刻しない、成長意欲があるなど、最低限のビジネススキルを求めてきます。でも、これはだいぶ高度なレベルを求めているということを理解していないんです。最低限のビジネススキルがあれば、われわれが支援しなくても仕事を持っているでしょう。企業の考える最低ラインと、労働力になりえる人材の現状がすれ違っている。だから人手不足なんです」
そこで大切になってくるのは、企業に対して現実的な期待値の設定だと塚原社長は言います。
「求人票に記載されている通りの人材はいません、と最初にはっきりと言い切ります。現状をお伝えしたうえで『私たちがサポートすることで、十分戦力になる人材がいますよ』と伝えているんです」。
ワンダーグループの強みは“企業へ必要な労働力を提供すること”を主眼においた提案です。
「例えば、週5日9時から18時までの求人があったとします。業務内容的に問題なければ、1人の人間で埋めるのではなく、週2日働ける人と週3日働ける人を組み合わせて対応するということです。企業にとっては、その労働力を確実に確保することが重要なはずなんです」。
このような地道な取り組みの結果、ワンダーグループの売上は赤字で会社を引き継いだ2020年からたった4年で急成長を遂げ、今や30億円を視野に入れるまでになりました。しかし、塚原社長の目標はそれだけではありません。
「私たちの目標は、日本の労働市場の課題解決にもっと貢献することです。『働かせ屋』として、今まで潜在層となっていた人材の可能性を引き出し、企業の成長を支援する。そうすることで、社会全体がより良い方向に向かうと信じています」。
「働かせ屋」とは、塚原社長独自の概念です。
「広告などで見かける求人は、あまりに理想的すぎて、まるで“今の仕事を辞めたほうが、幸せになりますよ”と言っているようです。でも、現実はそんなことないんですよ。求人広告で謳っているような夢のような求人はない。労働者側も、企業側にも、現実を理解してもらいつつ、より良い未来を目指したい。そのための緩衝材が私たちです。これからも、私たちは『働かせ屋』でありたいと思っています。30億円の売上を目指すのは、もちろん経営者としての目標です。でも、ワンダーグループの未来を描くときに必要なのは、この事業を通じて日本の労働環境をより良いものに変えていくという決意だと思っています」。
「私たちの成功が、他の企業にも影響を与え、労働市場全体が変わっていく。そんな未来を描いています」。ワンダーグループの成長が、日本の働き方の多様性を担保し、そして雇用問題すらも解決するきっかけになるのかもしれない。そう感じさせてくれるインタビューでした。
塚原社長 プロフィール
塚原 誠(つかはら まこと)氏
ワンダーグループ株式会社 代表取締役
高校卒業後、東証プライム上場企業の情報通信機器メーカーに就職。18歳で300~400万といった高価な商材を飛び込みで販売し、トップ記録を残すなど輝かしい成績を打ち立てた後に営業代行会社を起業。培ったセールス能力を存分に発揮し、順調に事業を展開するも、コロナ禍の影響で巨額の赤字を抱えていたワンダーグループを見事復活させた。
ワンダーグループ株式会社:https://www.wonder-gr.co.jp