近年は、さまざまな業種で人手不足が深刻化しており、特にITエンジニアやWebデザイナーなどへの求人が多くなっています。
また専門職の求人は正社員や業務委託案件がほとんどですが、人材不足が顕著化しているIT企業でも、コストのかかる正社員雇用を避け、業務委託を採用する企業が増加しています。
このような状況の中、自社の派遣社員を受託スタッフとして雇用し、派遣会社が業務を発注する企業と業務委託契約を締結できれば、仕事の獲得件数を増やせるとお考えの方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、業務委託契約を結ぶ際に必要となる業務委託契約書の書き方や、業務委託契約が必要となるケースについて、詳しく解説します。
これから業務委託案件を獲得しようとお考えの人材派遣会社の方は、ぜひ参考にしてください。
業務委託契約書とは
業務委託契約書とは、業務委託する企業と業務を受託する企業が、業務委託契約を締結する際に作成する書類です。
業務委託契約に契約書の作成義務はなく、口約束でも契約が成立します。ただし、業務委託契約書を作成しない場合には、さまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。
そこで業務委託契約を結ぶ際は、契約内容を精査した上で業務委託契約書を作成し、契約者の双方で保管しましょう。
また業務委託契約はあくまで通称であり、以下で解説する「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の総称です。それぞれ解説します。
請負契約
請負契約とは、委託した業務について「成果物を納品すること」で業務が完了する業務委託契約です。
委託者に対し、受託した企業は、契約内容のとおりの仕様、品質の成果物を期日までに納品する義務を負います。そして納品された成果物に対して、報酬が支払われる仕組みです。
請負契約では、契約前に成果物に関する詳しい内容を明確にして、業務委託契約書に明記します。
委任契約
委任契約とは、受任者が法律行為を遂行することに対して報酬が支払われる契約です。
弁護士や司法書士、税理士などの士業の方が法律行為を行なう際に締結する契約で、請負契約などとは異なり、一定の事務処理の行為を目的とします。
委任契約では、業務の遂行が受任者に一任されることが多いため、受任者が善良な管理者意識をもって業務を遂行する義務を負うのが特徴です。
準委任契約
準委任契約では、委任契約と同様に、受任者が業務を遂行することに対して報酬が支払われます。そのため準委任契約では、時間や日割り、回数などによって報酬金額を設定するのが一般的です。
委任契約が法律に関する業務である一方で、準委任契約はエンジニアやコンサルタントなどの法律以外の分野の業務が対象となります。
業務委託を人材派遣会社が受託するケース
人材派遣会社が派遣先の企業と締結する契約は「労働者派遣契約」で、人材派遣会社と派遣社員が結ぶ契約が「雇用契約」です。
しかし近年は、ITエンジニアなどの専門職と呼ばれる特定のスキルや資格が必要な人材への業務委託案件が増加しています。
そこで以下では、人材派遣会社が業務委託を受託するケースの多い職種について解説します。
専門性の高いスキルが必要な職種
一般的に人材派遣を利用する企業は、定型業務などを中心に派遣スタッフを活用するケースが多く、今も需要が増えています。
しかし人材不足が深刻化している中で、今後さらに需要の増加が見込まれる職種に、ITエンジニアやWebデザイナーなどの専門職があります。
特定の資格やスキルなどが必要となる専門性の高い業務は、その分報酬も高額となるため、企業が正社員を雇用するリスクも上がります。そこで、業務委託できる人材を効率よく採用しようと考えるIT企業などが増加しているのです。
請負契約か準委任契約がメイン
上記のような専門職について、業務委託契約を結ぶ際は、基本的に請負契約か準委任契約となります。
なぜなら、人材派遣会社が弁護士や税理士などが行う業務を受託するケースがないためです。
委任契約に関する業務に関しては、受任者が第三者に再委任することが法律で禁止されているため、もし委任契約に該当しそうな業務を依頼された場合には注意が必要です。
契約形態の切り替えが必要
上記のように、業務委託を受託する場合には「請負契約」もしくは「準委任契約」を締結します。
もし、すでに労働者派遣契約を結んでいる取引先の契約を業務委託に変更する場合は、契約形態を切り替える必要があります。
この際に注意すべきポイントは、業務委託の場合には、実際に働く労働者への指揮命令権が雇用者である人材派遣会社にある点です。
人材派遣では、雇用主が人材派遣会社でありながら、指揮命令権が派遣先の企業にあります。一方業務委託では、雇用主が人材派遣会社にある場合、業務を委託する企業には一切の指揮命令権がありません。
もし自社のスタッフを委託先企業の命令に従わせるといった法律違反をした場合には「偽装請負(こちらで解説)」となり、人材派遣の資格を剥奪されるケースもあるため、十分な注意が必要です。
業務委託契約書を作成するべき理由
業務委託契約書の作成においては、前述したとおり、法律で義務化はされていません。しかし、業務の遂行や報酬の支払いなどに際しての取り決めを明確化する上で、非常に重要な書類です。
そこで、以下の点に留意しながら、業務委託契約書を必ず作成しましょう。
トラブルを回避するため
業務委託契約書を作成する最大の理由は、トラブルを回避するためです。
業務委託では、契約内容や契約形態、成果物の納期や報酬、知的財産権の有無や秘密保持など、非常に重要な取り決めが多くあります。
これらを明確にしておかなければ、莫大な損害賠償請求が発生するといったトラブルが起きる可能性があります。
このようなリスクを回避するために、必ず契約書を作成しましょう。
信頼関係を構築するため
業務委託契約書を作成することで、業務を委託する側と受託する側、それぞれに信頼関係を構築できます。
契約内容を精査し、お互いに疑問や課題を解決した上で納得して契約するため、委託業務をスムーズかつ正確に遂行できるでしょう。
業務委託契約書を構成する13の記載項目とその書き方
業務委託契約書を作成するにあたり、次の13の項目を確認しましょう。
1.委託業務の内容
2.委託料(報酬額)
3.支払条件、支払時期、支払い方法など
4.成果物の権利
5.再委託の可否
6.秘密保持に関する条項
7.反社会的勢力の排除
8.禁止事項の詳細
9.契約解除の条件
10.損害賠償について
11.契約期間について
12.所轄の裁判所について
13.その他の事項
それぞれ解説します。
1.委託業務の内容
業務委託契約する際は、業務内容や、成果物についての詳細を明記しましょう。
この内容によって「業務委託契約の種類」が変わるため、委託内容は非常に重要な項目です。
2.委託料(報酬額)
報酬額がいくらなのか、税抜きと税込み金額を明記しましょう。
3.支払条件、支払時期、支払い方法など
業務委託契約書には、報酬金額とともに支払い条件や、時期、方法なども明記しましょう。
請負契約では、契約書に記載した通りの製品を納期までに納品しなかった場合、契約不履行となり報酬を支払われないケースがあるため、しっかりと確認し記載しましょう。
4.成果物の権利
業務委託契約では、成果物の納品を目的としていた場合に、その成果物の権利が受託者から委託者に移るのか否かも記載しましょう。
このようなケースでは、著作権や商標権などが絡む取引となるため、事前に弁護士などに相談した上で契約書を作成するのがおすすめです。
5.再委託の可否
業務委託では、受託した仕事をさらに二次下請けや三次下請けに回すこともあります。
このようなケースでは、クライアントの機密事項が漏れやすくなるといったリスクがあるため、責任の範囲や取り扱いのルールを契約書にしっかり明記しておきましょう。
6.秘密保持に関する条項
業務委託契約において最も注意したい項目の1つが、この「秘密保持」に関する条項です。
近年は個人情報の管理や企業のコンプライアンスを重視する傾向が強く、クライアントだけでなく、顧客情報などの取り扱いにも十分な注意が必要です。
もし取り扱う業務にクライアントの機密事項や顧客情報などの重要事項がある場合は、別途秘密保持契約を交わし、万一に備える必要があります。
7.反社会的勢力の排除
こちらも企業のコンプライアンスに違反しないために注意すべき項目です。
自社はもちろんのこと、取引先などにも反社会的勢力とのかかわりがないか確認しましょう。
8.禁止事項の詳細
業務委託契約を結ぶ際に、上記以外の禁止事項があれば記載しましょう。できるだけ詳細に明記することが大切です。
9.契約解除の条件
契約書に記載した内容に違反があった場合などに、契約を解除できる条件を記載しておきます。
万一の際に自社を守るための切り札となる条項ですので、あらゆるトラブルを想定して内容を決めましょう。
契約解除は取引先にとっても一番厳しい条件となるため、常識の範囲内で設定することや、契約先と内容をすり合わせながら決めることが重要です。
10.損害賠償について
損害賠償についての項目も、万一の際に有効です。
成果物の不備や欠陥、納期の遅れが許されない契約の場合には、損害賠償に関する条項も確認しておきましょう。
11.契約期間について
契約期間を定めた取引をする場合には、しっかりとその期間を明記します。
契約期間の詳細によっては、契約書にかかる印紙税額が変わるため、こちらにも留意しながら記載しましょう。
12.所轄の裁判所について
業務委託契約書には、万一のトラブルで裁判となった場合に、所轄の裁判所がどこになるかを明記することが大切です。
特に遠方の業者や個人と契約を結ぶ際には、トラブルが発生した際の所轄の裁判所を明記しておかなければ「両者の中間の裁判所」を指定されるケースもあります。
そこで、あらかじめ最寄りの裁判所を明記しておき、クライアントの合意を得ておきましょう。
実際に裁判に発展するトラブルは少ないものの、裁判所を記載しておくことがトラブルの抑止にも繋がります。
13.その他の事項
その他の事項には、上記以外で記載すべき内容があれば明記しましょう。
業務委託契約書の作り方
ここでは、業務委託契約書の作り方を解説します。
一般的に業務委託契約書の作成は、委託者が作成するケースが多いですが、受託者が作成しても差し支えはありません。
あくまでも、双方が納得できる契約書を作成し、契約することが重要です。
業務委託契約書は2通作成する
業務委託契約書は、かならず2通作成し、委託者と受託者の両者が保管します。
それぞれに印紙を添付して消印する
業務委託契約書を紙媒体で作成した場合、契約書は「課税文書」となり、印紙税の課税対象となります。印紙税額相当の印紙をそれぞれで購入し、契約書に貼付後に消印しましょう。
なお、電子契約書を用いた場合には非課税となり、印紙は必要ありません。
それぞれに署名・押印して保管する
業務委託契約書を2通作成し、印紙を貼付・消印したら、最後に両者で署名・押印してそれぞれ1通ずつを大切に保管しましょう。
業務委託契約書の作成から締結までの3つの手順
契約締結後のトラブルを防ぐためには、契約を交わす際にしっかりと手順を踏むことが重要です。以下では、具体的な業務委託契約書の作成手順を解説します。
1.契約内容を相談する
業務委託契約を結ぶ両者が、契約書に記載する事項について確認し、認識の齟齬がないかを確認します。
見積書が必要な場合は、このタイミングで作成しておくと、契約締結時のトラブルを未然に防ぐことができます。
あくまでも契約内容を相談する段階のため、契約期間や諸費用の負担などの曖昧な部分は必要ありません。
具体的に相談すべき内容は以下の7つです。
- 契約期間
- 金銭的条件
- 契約解除の条件
- 禁止要項
- 成果物の権利
- 秘密保持
- 損害賠償
これらの項目を元に、双方に不安材料がない形で進めていくことが重要です。
2.契約書作成と内容確認する
契約内容や報酬についての合意を取る段階です。
契約書の確認が終われば、契約を交わす段階に移るため、最終確認として問題がないかを十分に確認します。
契約後のトラブルを未然に防ぐためにも、両者で納得ができるまで契約内容に関して認識の擦り合わせをしましょう。
また業務委託契約書の作成は、委託者と受託者のどちらかが作成しても問題ありませんが、委託者側が作成するのが一般的です。
この際、法律を順守した契約書の雛形を元に、受託者の条件に合わせてカスタマイズすることで効率的かつ安全に業務委託契約書が作成できるでしょう。
3.業務委託契約書を製本する
契約書の製本とは、契約書の差し替えを防ぐために同じ記載内容の契約書を2部作成し、それぞれの契約書に割印して契約を締結します
完成した業務委託契約書は、受託者と委託者の双方で保管します。契約期間が続く限りは永続的な契約書の保管が必要なため、大切に保管しましょう。
業務委託契約書を書く際の注意点3つ
以下では、実際に契約書を作成する際の注意点を解説します。
1.業務委託契約書に収入印紙は必要?
業務委託契約書に収入印紙が必要なケースは大きく分けて2種類あります。ここでは、具体的に収入印紙が必要になるケースをご紹介します。
第2号文書
請負契約に関する契約書のことを指し、収入印紙税は契約をした金額によって異なります。
また、平成9年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成される建設工事の請負に関する契約書の中には税率が軽減されるものも含まれていますので、詳しくは国税庁のHPを確認しましょう。
第7号文書
契約期間が3ヶ月以上の継続的取引が対象となる契約書が該当します。
具体的には、代理店契約書や銀行取引約定書が挙げられます。取引ごとの納期や支払い方法を考慮して継続契約に当たるか、個別契約に当たるかで判断する必要があります。
2.業務委託契約書は紙での発行が必要?
業務委託契約を結ぶ際は、双方での合意が取れていれば電子契約での締結も可能です。
電子契約であればインターネット環境でどこでも受信が可能になるため、時間や場所にとらわれずスムーズに契約の締結ができます。
また、上述した請負契約の締結の際に発生する印紙税に関しても、電子ファイルを通して契約するため、印紙税が非課税となります。
電子契約を導入することで印紙税だけでなく、郵送費や印刷費用の削減にも繋がるため業務委託契約書は電子データでの発行をおすすめします。
3.業務委託契約が偽装請負になることも
偽装請負とは、請負契約を結んでいるにもかかわらず、業務を委託した企業が労働者に対して指揮命令を行なっている状況を指します。
偽装請負を見極めるポイントは、実際の指揮命令権がどこにあるかです。請負契約では、業務を請け負った受注側の企業に指揮命令権があります。
逆に、委託企業が労働スタッフに指揮命令を行った場合には、偽装請負となる可能性があります。
偽装請負が発覚した場合、人材派遣業の許可を取り消されるケースもあるため、十分に注意しましょう。
業務委託契約書はテンプレートのダウンロードがおすすめ
上記のように、業務委託契約を締結する際は、多くの項目を漏れなく記載しなければなりません。
そこで、次に紹介する業務委託契約書のテンプレートをダウンロードして活用しましょう。
DiSPA!のWebサイトからダウンロードできる業務委託契約書のテンプレートは、人材派遣会社が業務委託契約を締結する際に必要な項目が網羅されていますので、ぜひご利用ください。
業務委託契約書の書き方のまとめ
上記のように、人材派遣会社において「業務委託案件」を受託するケースは、今後も増加することが予測されます。また業務委託の案件を受託することで、人材派遣会社の業績を大きくアップさせることができるかもしれません。
ただし業務委託では、契約書の書き方だけでなく、自社スタッフへの指揮命令といった人材派遣とは異なるルールを十分に理解しておくことが重要です。
そこで、もし業務委託に関する疑問やお困りごとがあれば、いつでもお気軽にブレイン・ラボにご相談ください。