人手不足時代にあたり、人材派遣会社へのニーズが広がっています。人材派遣業は個人での開業も可能であり、参入障壁はそこまで高くありません。しかし、実際に開業するにあたって必要となる資格や手順については良くわからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、人材派遣業を開業する際に必要となる資格や許可について簡単に、抑えるべきポイントを絞って解説します。
人材派遣業の開業にご興味がある方は、ぜひ参考にしてください。
そもそも人材派遣業とは
人材派遣業とは、自社で雇用した社員を派遣先の企業へ派遣し、労働力の提供を行う事業を指します。
人材派遣に関する法律には労働者派遣法があります。労働者派遣法では、人材派遣を「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることを業として行うこと」と定義しています。
派遣事業の形式
派遣事業の形式は、下記の3つのタイプに分類されます。
- 一般派遣
- 特定派遣
- 紹介予定派遣
ただし、一般派遣と特定派遣についての法的な区分はH27年の派遣法改正により撤廃され、現在、すべての派遣が許可制となっています。(法改正前は特定派遣が届出制)
一般派遣
一般派遣とは、派遣の仕事を希望する人材を、まずは人材派遣会社に登録します。そして、希望や条件に合う派遣先企業との派遣契約が結ばれた際に、派遣社員として人材派遣会社と雇用契約を結ぶ雇用形式です。
特定派遣
特定派遣とは、派遣会社と派遣社員が正社員と同様(無期限)の雇用契約を結びます。
そして、必要に応じて派遣先企業に派遣されますが、派遣契約は終了しても派遣会社での業務が継続します。特定派遣は、特定の高度な技能を必要とする業種に多い雇用形式です。
紹介予定派遣
紹介予定派遣とは、派遣社員が派遣先企業と直接正社員契約か契約社員契約を結ぶことを前提として、一定期間(最長6ヶ月間)人材派遣を行う雇用形式です。
人材派遣の仕組み
人材派遣の仕組みを図で示すと、以下のような雇用関係となります。人材派遣では、派遣元となる人材派遣会社が人材を雇用し、派遣先で労働させることにより、派遣先の企業から派遣スタッフの給与と共に派遣の手数料を受け取ります。
人材派遣できる業種とできない業種
労働者派遣事業には、適用除外業務と呼ばれる労働者派遣できない業務があります。これは「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(通称「労働者派遣法」)及びその施行令等によって定められています。
適用除外業務は以下の業種です。
- 1.港湾における、船内荷役・はしけ運送・沿岸荷役やいかだ運送、船積貨物の鑑定・検量等の業務(港湾労働法第二条第二号に規定する港湾運送の業務)
- 2.土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの準備の作業に係る業務
- 3.事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等における、または運搬中の現金等に係る盗難等や、雑踏での負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務(警備業法第二条第一項各号に掲げる業務)
- 4.医師、歯科医師、薬剤師の調剤、保健婦、助産婦、看護師・准看護師、栄養士等の業務
尚、4.の業種については、以下の①~④場合に限り人材派遣が可能となります。
- ①紹介予定派遣の場合
- ② 病院・診療所等(介護老人保健施設や在宅医療を含む)以外の施設(社会福祉施設など)で行われる業務の場合
- ③ 産前産後休業・育児休業・介護休業中の労働者の代替業務の場合
- ④就業の場所がへき地・離島の病院、社会福祉施設等および地域医療を確保するたに都道府県の医療対策協議会が必要と認めた病院などの医師、看護師、准看護師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師の業務の場合
- 5.弁護士、外国法事務弁護士、司法書士、土地家屋調査士の業務や、建築士事務所の管理建築士の業務等(公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士等の業務では一部で労働者派遣は可能)
この弁護士などの各業務に関しては、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」第四条、及び「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令」第二条で定められています。
人材派遣事業に必要な資格や許可

人材派遣事業の開業には、特定の資格と許可が必要です。以下では、派遣事業を開業するために必要な資格や許可、準備の手順を解説します。
必要な資格は「派遣元責任者」
派遣事業を始めるにあたり、派遣元責任者講習を受講して「派遣元責任者」になる必要があります。人材派遣業を開業するために必要な資格はこの1つだけですが、実際に派遣元責任者として職務を行う場合には3年以上の雇用管理経験が必要です。
管理経験を積む方法には、企業で人事や労務の担当者を3年以上経験するか、職業安定行政や労働基準行政で3年以上業務に従事するといった経験が必要となります。また、これらの経験は20歳を迎えた時点から起算されるため、実務を20歳未満から始めた場合には、20歳までの経験はカウントされません。
参考:派遣元責任者の詳細は「人材派遣会社の派遣元責任者とは?その目的や派遣元責任者講習を詳しく解説!」をご参照ください
必要な許可は「労働者派遣事業許可」
人材派遣の開業には、派遣元責任者の資格だけではなく「労働者派遣事業許可」という厚生労働省の許可が必要となります。
労働者派遣事業許可に必要な要件

以下では、労働者派遣事業許可の取得要件と手順を解説します。
人材派遣業は許可制となっているため、事業をはじめるにあたっては、厚生労働省の許可が必要となります。厚生労働省の許可を得るためには、以下の労働者派遣事業の許可要件を満たさなければなりません。
資産に関する要件
人材派遣事業を開業する際は、以下のような多額の資金が必要となるため、資金調達については早めの準備をお勧めします。
- 貸借対照表上での基準資産額が2,000万円以上あること
- 資産から負債を除いた額が負債の7分の1よりも多いこと
- 資産のうち1,500万円以上が現金・預金であること
派遣元責任者に関する要件
派遣元責任者の管理要件として以下の12項目を満たさなければなりません。
- 未成年者ではないこと
- 欠格事由に該当していないこと
- 健康状態が良好であること
- 生活根拠が安定していること
- 法令に従って派遣元責任者が選任されていること
- 許可申請前の3年以内に派遣元責任者講習を受講しているここと
- 派遣元責任者が名義貸しでないこと
- 成年に達してから3年以上の雇用管理の経験を有すること
- 不当に他人の精神、身体および自由を拘束するおそれがないこと
- 外国人の場合は在留資格を有していること
- 派遣元責任者が日帰りで往復できる地域に派遣を行うこと
- 派遣元責任者が不在の場合、臨時の職務代行者があらかじめ選任されていること
なお、派遣元責任者講習は、派遣元事業所の雇用管理及び事業運営の適正化を図るためのもので、厚生労働省により定められた講習機関が実施しています。
事業所の広さや立地に関する要件
事務所の要件として、風営法で規制する風俗営業が密集するなど事業運営に好ましくない位置にないこと、事務所面積を含めた事務所の条件として、事務所の面積が最低20平米以上あることが条件です。その他にも事業戦略に基づいたオフィスを選ぶことが求められ、研修や教育ができるスペース等の確保が問われます。
公正な事業を運営するのための要件
派遣元事業主の管理要件として以下の9項目を満たさなければなりません。
- 労働保険や社会保険の適用など、派遣社員の福祉の増進が見込まれること
- 生活根拠が安定していること
- 不当に他人の精神、身体および自由を拘束するおそれがないこと
- 公衆衛生、公衆道徳上有害な業務に就かせるおそれがないこと
- 派遣元事業主が名義貸しでないこと
- 外国人の場合は一定の要件の在留資格を有すること
- 派遣社員の教育訓練に関する計画が適切に策定されていること
- 教育訓練の施設、設備が整備され、実施責任者の配置等、能力開発体制の整備がされていること
- 教育訓練にあたって派遣社員から費用を徴収しないこと
個人情報の管理に関する要件
人材派遣業においては、派遣スタッフの個人情報を適切に管理する体制が問われます。
そこで、以下の6つの点に注意しなければなりません。
- 個人情報を正確かつ最新のものに保つための措置が講じられているかどうか
- 個人情報の紛失、破壊および改ざんを防止するための措置が講じられているかどうか
- 個人情報への不正アクセスを防止するための措置が講じられているかどうか
- 保管する必要がなくなった個人情報を破棄または削除するための措置が講じられているかどうか
- 派遣社員から求められたときは、個人情報に関する適切な措置の内容を説明しなければなりません
- 派遣社員等の秘密に該当する個人情報を知り得た場合は、特に厳重な管理を行なわなければなりません
認可取得までの流れと必要書類について

ここでは、人材派遣業に必要な許可の取得と、必要書類作成の流れについて解説します。
派遣元責任者講習を受ける
まずは、人材派遣業を開業する際に必要となる派遣元責任者講習を受講しましょう。派遣元責任者として職務を行う場合には、原則として3年以上の雇用管理経験が必要となるため、注意が必要です。
欠格事由・許可基準の確認・自己評価
許可申請を進めるにあたり、上記の欠格事由と許可基準を満たしているかどうかを確認しましょう。労働者派遣法に規定された許可要件をクリアしているかが重要となるため、確実にチェックを進めて下さい。
添付書類の準備
添付書類の準備として、申請書に添付するための各種書類等をできるだけ早い時期に整えておきましょう。
法人の場合の添付書類には、以下のようなものがあります。
- 定款
- 履歴事項全部証明書(登記事項現在証明書)
- 取締役、監査役の住民票の写し、及び履歴書
- 貸借対照表と損益計算書、株主資本等変動計算書
- 法人税納税申告書(別表1および4)の写し
- 法人税納税証明書(その2 所得金額)
- 賃貸借契約書等(事業所の使用権を証明するための書類)
- 派遣元責任者の住民票の写し、及び履歴書
- 個人情報適正管理規程 など
また、個人の場合の添付書類には、以下のようなものがあります。
- 住民票の写し、及び履歴書
- 所得税納税申告書の写し
- 所得税納税証明書(その2所得金額)
- 預金残高証明書
- 不動産登記簿謄本の写し
- 固定資産税評価額証明書(資産)
- 賃貸借契約書等(事業所の使用権を証するための書類)
- 事業所のレイアウト(図面)
- 派遣元責任者の住民票の写し、及び履歴書
- 派遣元責任者講習受講証明書 など
上記には、税理士や役所からの書類の手続きが発生するものもあります。スケジュールにそって、計画的に揃えましょう。
申請書・事業計画書作成
申請書・事業計画書作成では、労働者派遣事業許可申請書と事業計画書を作成します。
特に事業計画書は、派遣社員の雇用や派遣の計画、教育訓練の内容などについて記します。
事業計画書に記載された内容は、審査や実地調査で確認されるだけでなく、派遣業務を行っていく上での指針となる重要な計画です。あくまでも現実的な計画を立てることが重要となります。
労働局への提出
労働者派遣事業許可申請書は、各都道府県労働局に提出します。各支店等の申請においても、基本的には本社のある労働局に提出するのが一般的です。
ただし、労働者派遣事業許可申請書の提出の際は、あらかじめ各労働局に確認しておくと良いでしょう。
許可審査
許可審査は、厚生労働省の審査と労働政策審議会の意見聴取の2つをクリアしなければなりません。この期間として、おおよそ2ヶ月程かかります。
許可証の公布
許可が認められれば、厚生労働大臣名で許可証が交付されます。以降、人材派遣事業を開始することができます。
人材派遣業に必要な資格や許可のまとめ
このように、人材派遣業を開業するにあたっては「派遣元責任者」の資格と「労働者派遣事業許可」が必要となります。
派遣元責任者においては、3年以上の実務経験が必要です。また労働者派遣事業許可に関する要件として、多額の資産を準備しなければならない決まりがあります。
人材派遣業をこれから開業される場合は、上記を踏まえ、できるだけ早めの準備を心がけるようにしましょう。
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