人材派遣会社は、派遣労働者を守るために制定された労働者派遣法を遵守しなければなりません。
特に人材派遣会社の管理職や経営者にとっては、企業のコンプライアンスの観点からも各種法律を理解し、守ることが重要です。
その中でも労働者派遣法については、法改正が頻繁に行われ、新しい条文が追加されています。常に新しい違反事項や罰則規定を確実に理解し、社内で共有することが重要です。
今回は、労働者派遣法の違反となる行為や罰則について詳しく解説します。
人材派遣会社の管理職や経営に携わる方は、ぜひ参考にしてください。
派遣法の違反
労働者派遣法の罰則には、大きく4段階に分けられます。
以下では、労働者派遣法の第58条から第62条に記載されている罰則規定について、各条に応じてまとめて参ります。(罰則を基準に記載)
58条:1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金
労働者派遣法の第58条(罰則)では「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者は、1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処する。」と規定されています。
公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務とは、風俗業などへの派遣が対象となります。
59条:1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
労働者派遣法の第59条では「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」と規定されています。
次の各号は、以下の通りです。
- 第4条第11項又は第15条の規定に違反した者
- 第5条第11項の許可を受けないで労働者派遣事業を行った者
- 偽りその他不正の行為により第5条第1項の許可又は第10条第2項の規定による許可の有効期間の更新を受けた者
- 第14条第2項又は第21条の規定による処分に違反した者
それでは以下で、各項にある規定について解説します。
1.第4条第1項又は第15条の規定に違反した者について
◎『第4条第1項:①港湾運送業務、②建設業務、③警備業法第2条第1項各号に掲げる業務その他その業務の実施の適正を確保するためには業として行う労働者派遣により派遣労働者に従事させることが適当でないと認められる業務として政令で定める業務』
この第4条第1項は、上記の①から③の港湾運送業務、建設業務、警備業について、労働者派遣事業を行つてはならないことを示しています。そのため、これらの適用除外業務に労働者を派遣すると、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
◎『第15条:派遣元事業主は、自己の名義をもつて、他人に労働者派遣事業を行わせる場合(名義貸し)』
第15条は、派遣元の事業主が、自己の名義を使い、他人に労働者派遣事業を行わせてはならないことを規定しています。
2.第5条第一項の許可を受けないで労働者派遣事業を行った者について
第5条第1項の許可を受けないで労働者派遣事業を行った者とは、労働者派遣事業を行う際に、厚生労働大臣の許可を受けていない場合に適用されます。
3.偽りその他不正の行為により第5条第1項の許可又は第10条第2項の規定による許可の有効期間の更新を受けた者
偽りその他不正の行為により第5条第1項の許可又は第10条第2項の規定による許可の有効期間の更新を受けた者とは、労働者派遣の許可や更新の際に、偽の書類や不正行為を働いた者に対する処罰となります。
4.第14条第2項の規定による処分に違反した者
第14条第2項の規定による処分に違反した者とは、労働者派遣法や職業安定法の規定、もしくはこれらの規定に基づく命令や処分に違反した者のことで、この対象となった場合に処罰されます。
上記の4つは、すべて「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科せられる可能性のある違反行為です。
60条:6月以下の懲役又は30万円以下の罰金
次に、労働者派遣法の第60条について解説します。
労働者派遣法の第60条では「次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」と規定されています。
第60条第1号
第49条第1項の「派遣労働者に係る雇用管理の方法の改善その他当該労働者派遣事業の運営を改善するために必要な措置を講ずべき旨の厚生労働大臣の命令(改善命令)に違反した者」
第60条第2号
第49条の3第2項の「法又はこれに基づく命令の規定に違反する事実がある場合において、派遣労働者がその事実を厚生労働大臣に申告したことを理由として、当該派遣労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをした者」
上記の対象者となった場合は「6月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に科せられる可能性があります。
61条:30万円以下の罰金
最後に61条について解説します。
労働者派遣法の第61条では「次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。」と規定されています。
第61条第1号
第5条第2項又 は 第3項(第10条第5項において準用する場合を 含む。)の「一般労働者派遣事業の許可又は許可の有効期間の更新の申請書、事業計画書等の書類に虚偽の記載をして提出した者」が対象となります。
第5条第2項
厚生労働大臣の許可を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を厚生労働大臣に提出しなければならない。
- (1) 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
- (2) 法人にあつては、その役員の氏名及び住所
- (3) 労働者派遣事業を行う事業所の名称及び所在地
- (4) 第36条の規定により選任する派遣元責任者の氏名及び住所
第5条第3項
第5条第2項の申請書には、労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る事業計画書その他厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない。
第61条第2号
第23条第4項の規定による届出をせず、若しくは虚偽の届出をし、又は第11条第1項に規定する書類に虚偽の記載をして提出した者が対象となります。
第11条第1項
「①一般労働者派遣事業の氏名等の変更の届出をせず、又は虚偽の届出をした者」
「②一般労働者派遣事業を行う事業所の新設に係る変更届出の際、事業計画書等の添付書類に虚偽の記載をして提出した者」
第13条第1項
「一般労働者派遣事業の廃止の届出をせず、又は虚偽の届出をした者」
第23条第1項
「海外派遣の届出をせず、又は虚偽の届出をした者」
第61条第1号
「第34条、第35条の2、第35条の3、第36条、第37条、第41条又は第42条の規定に違反した者」が対象となります。なお、第41条又は第42条の規定は派遣先を対象としています。
第34条
「労働者派遣をしようとする場合に、あらかじめ、当該派遣労働者に就業条件等の明示を行わなかった者」
第35条の2
「派遣元事業主は、派遣先が当該派遣元事業主から労働者派遣の役務の提供を受けたならば第40条の2第1項の規定に抵触することとなる場合には、当該抵触することとなる最初の日以降継続して労働者派遣を行つてはならない。」
第35条の3
「派遣元事業主は、派遣先の事業所その他派遣就業の場所における組織単位ごとの業務について、3年を超える期間継続して同一の派遣労働者に係る労働者派遣(第40条の2第1項各号のいずれかに該当するものを除く。)を行つてはならない。」
第36条
「派遣元責任者を選任しなかった者」
第37条
「派遣元管理台帳を作成若しくは記載せず、又はそれを3年間保存しなかった者」
第41条
「派遣先責任者を選任しなかった者」
第42条
「派遣先管理台帳を作成若しくは記載せず、それを3年間保存せず、又はその記載事項(派遣元事業主の氏名及び名称は除く。)を派遣元事業主に通知しなかった者」
第61条第4号
「第35条の規定による通知をせず、又は虚偽の通知をした者」が対象となります。
第35条
「厚生労働省令の規定による必要な報告をせず、又は虚偽の報告をした者」
第61条第5号
「第50条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者」が対象となります。
第50条
「厚生労働省令の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者」
第61条第6号
「第51条第1項の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の陳述をした者」が対象となります。
第51条第1項
「関係職員の立入検査に際し、立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の陳述をした者」
上記のすべてを対象とし、あてはまる場合は「30万円以下の罰金」を科せられる可能性があります。
62条:罰則の適用対象
上記のように、労働者派遣法で規定されたルールに反した場合は「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第58条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。」と定められた法により、罰則の適用対象となるため注意が必要です。
まとめ
このように、労働者派遣法の罰則規定には、違反に応じた各種罰則が規定されており、その種類は多岐にわたっています。また罰則とは別の枠組みで、欠格事由や派遣業許可基準に満たない場合には、許可を取り消される可能性もあります。そのため、罰則だけでなく、許可基準などが満たされているかを含め、日々の業務に当たることが望ましいと言えるでしょう。