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野村真央の<深化する人材紹介論>進化する人材紹介会社の条件─ 経済学が示す業界の現在地と、生き残る会社の共通点

株式会社AGENT SUCCESS 野村 真央氏 野村真央の進化する人材紹介会社の条件─ 経済学が示す業界の現在地と、生き残る会社の共通点

有料職業紹介事業は免許取得のハードルが低く、誰でも参入できる業界です。しかしその手軽さの裏で、業界の構造は静かに変わり始めています。50社超の立ち上げ支援を手がけてきた株式会社AGENT SUCCESS代表・野村真央氏は、「普通の人材紹介会社でいることが、今もっともリスクの高い選択肢だ」と言い切ります。経済学の視点から市場を俯瞰し、現場の変化を肌で感じてきた野村氏に、今の業界地図と、生き残る会社の条件を伺いました。

人材紹介業界は今「統廃合=シェイクアウト期」にある

── まず、人材紹介業界を経済学的な視点で見たとき、今どういう状況にあると分析されていますか。

野村 真央氏(以下、野村氏):どんな産業にも、共通して見られるサイクルがあります。最初は、新しい市場に企業がどんどん参入してくる<参入期>です。次に、プレイヤーが増えすぎて競争が激しくなる<競争激化>という時期がきます。そのあとに、体力のない会社が閉業したり、大手に吸収されたりする時期がやってきます。これが<シェイクアウト>と呼ばれる局面です。そして最終的には、少数の大手だけが生き残り、市場が落ち着く。これを経済学では<寡占>と呼びます。 
この一連の流れは経済学で「産業ライフサイクル論」と呼ばれています。人材紹介業は今、まさにこの3番目、シェイクアウトの真っ只中にいます。
参入期には、利益が見える市場に資本と企業家が一気に集まってきます。アダム・スミスの言う「見えざる手」です(注:各人が自分の利益を追求するだけで、結果として市場全体が調整されていくという考え方です)。人材紹介の場合は、規制緩和で参入の門戸が開かれたことが前提にあり、そこから先の動きにこの自由競争原理が働いた、というのが正確な理解です。
競争が激しくなると、今度は規模の経済や経験の蓄積がものを言い始め、先行者や大手が有利になっていきます。コスト競争に耐えられない企業は脱落・吸収され、少数の勝者が市場を握る。これがシェイクアウトです。

── 人材紹介業がシェイクアウト期にあるという根拠は、具体的にどのあたりに感じますか。

野村氏:いくつもあります。まず免許取得の容易さです。厚生労働省の統計では、有料職業紹介事業所はすでに3万社を超えました。誰でも入れる市場構造が、そのまま乱立を招いた形です。
求人データベースの同質化(注:各社が扱う求人情報がほぼ同じになること)も進んでいます。Indeed・doda・リクナビなど求人を扱う媒体に気軽にアクセスできるようになり、情報の優位性は少なくなりました。そこにAIによるスクリーニングやマッチングの自動化が加わり、大手の寡占状態もさらに進んでいます。規模・データ・ブランドすべてで優位な大手を前に、同質化が進むほど紹介会社の拒絶の動きが強まり始めています。これらの動きが同時に重なっているのが、今の業界の姿です。

── 「普通の人材紹介会社でいることがリスク」という言葉が刺さります。

野村氏:シェイクアウト期でいちばん危ないのは、中途半端な立ち位置にいることです。大手と同じ土俵、つまり総合型・広域型で戦おうとすれば、規模でもデータでもブランドでも勝てません。
一度「勝者総取り(Winner-takes-all)」の構造ができると、それが固定されていきます。勝者にネットワーク効果が働き、勝者がさらに勝ち続ける。経済学でいう「収穫逓増」です(注:強い者がさらに強くなっていく状態のこと)。だからこそ、どこで戦うかを今すぐ決める必要があります。ニッチを独占するのか、事業モデルのレイヤーを移すのか、AIで生産性の差をつくるのか。どれかひとつに振り切らなければいけない時代に入っています。

2040年に向けて起きる「ニーズ増」と「人材枯渇」の同時進行

── 長期的な市場の見通しについても聞かせてください。2040年に向けてどんな変化が起きると見ていますか。

野村氏:日本の労働力推移を見ると、2040年には約1,100万人の労働供給不足が発生すると試算されています。一見「紹介ニーズが増えるだけ」に聞こえますが、実態はもっと複雑です。
採用ニーズは確かに増えます。ただ同時に、紹介できる候補者そのものの数が減っていく。この構造は2036年以降に本格化し、「探して紹介する」という今のモデルが立ち行かなくなっていきます。私が「2030~32年までが事業モデルを立て直せる最後のタイミング」と言っているのはこのためです。市場が拡大している今のうちに、次のモデルへの移行を考えておく必要があります。

── では生き残るためには、何から変えていく必要がありますか。

野村氏:新規参入者であれば、誰もが参入できる汎用的な市場で正面から戦わないことに尽きます。「生成AIエンジニア×シード期スタートアップ限定」のように、絞れば絞るほど候補者・企業双方の信頼が集まります。大手が入ってこないニッチな領域を先に押さえるのが鉄則です。SlackコミュニティやSNSを立ち上げ、「転職したいときに思い出される存在」になるコミュニティ型への転換も有効でしょう。紹介手数料モデルから、情報流通ハブモデルへのシフトです。
既存事業者であれば、M&Aで規模を取りに行く、RPOや人事コンサルへ事業を再定義する、AIを先行導入してCA一人の担当範囲を3〜5倍に広げる、といった選択肢があります。いずれにせよ、現状維持という選択肢はもうありません。

現場で見えてきた変化

── 経済構造の話はよくわかりました。現場レベルでは、ここ数年でどんな変化を感じていますか。

野村氏:ベテラン層から「今の若手はどうやって候補者を集めているのか」という相談が増えました。以前はスカウトサイトを極めるのが主流でしたが、今の20代は半年前に有効だった手法をもう「使えない」と判断し、InstagramやTikTokなど次の手法へどんどん移っていきます。
試行錯誤の回数が多いこと。これこそ、若手でも伸びている人材紹介者の最大の特徴だと思います。何が正解かはもう誰にもわかりません。だからこそ、既存の手法にとらわれず常に検証・実装している人が伸びています。

── 業界の裾野自体も広がっているとお聞きしました。

野村氏:そうですね。以前はコンサルティングファームへの転職支援が中心でしたが、今はドライバー・看護師・観光業・エッセンシャルワーカー領域への問い合わせが急増しています。業界未経験の経営者から「人材紹介を始めたいがどうすればいいか」という相談も日常的に届くようになりました。それだけ業界の裾野が大きく広がっているということだと思います。

伸びる会社・伸び悩む会社 ─ 分岐点はどこにあるか

── 支援先を多数見てきた中で、伸びている会社の共通点はどのあたりにありますか。

野村氏:まず、頑張る方向性を先に定めることです。レバレジーズ代表の岩槻氏が語っていた「努力する方向性を見定めて、そこが見つかったら他の人より一生懸命働く。それだけ」という言葉は、非常に本質的だと思います。闇雲に動くのではなく、どこで戦うかを明確にした上で集中投下している会社が伸びています。
カルチャーと対面コミュニケーションへの投資も欠かせません。人材紹介が提供するサービスは結局「人」です。働くメンバーにとっても「このチームだからやりたい」と思える文化づくりが、最後の差別化になります。フルリモート運営の組織では「相談できない」「成績が上がりにくい」という声が多く、対面の機会を意図的に設計している会社の方が定着率も生産性も明らかに高い傾向にあります。
もう一つは、SNS発信などを細かく制約せず、目標だけを示してメンバー自身に考えさせる「考えさせるマネジメント」です。この繰り返しが、組織の自走力を育てます。

── 逆に、伸び悩む会社に共通するパターンはありますか。

野村氏:大きく4つあります。既存手法への固執、求人開拓をしないこと、候補者集客ばかりに偏ること、そしてコンサルティングができないことです。
特に企業側の開拓力は見落とされがちですが、実際には企業開拓ができるエージェントの方が、最終的に多くの成果を出しています。何百社ものエージェントを使い分ける企業は、「あなたの会社はどんな人材が得意か」を必ず問います。エージェント選定の時代を迎えており、求人通りに動くだけでは生き残れません。

個人として勝ち残るために

── 会社の話だけでなく、個人としてのコンサルタントにはどんな能力が求められますか。

野村氏:一番は情報収集力の高さです。日々アンテナを張り続け、業界・企業・候補者の情報を常にインプットしている人は強みを持っています。そして、書類作成や候補者フォローといった、面倒に思える基本業務を徹底できるかどうか。「これくらいでいいか」で止めない人が、長期的に勝っています。
細やかなフォローと先回りのコミュニケーションも大切です。「○日までにご返答をお待ちしております」の一言があるだけで、印象はまったく変わります。そして企業側への提案力も欠かせません。採用要件を出す経営者が、必ずしも採用のプロとは限りません。だからこそ「こういう人を入れた方が活躍します」と言えるエージェントが、真のパートナーとして重宝されます。

── 最後に、これから人材紹介業に挑む方へメッセージをお願いします。

野村氏:私のクライアントに、50代の経営者がいらっしゃいます。若者のコミュニティに自ら飛び込み、集客手法をゼロから学ぼうとしている姿を見ていると、変化を厭わない行動力こそが、これからの業界で成長し続けるための本質だと感じます。年齢もキャリアも関係ありません。むしろ経験が長い人ほど、過去の成功体験を手放す決断は難しくなるものです。
シェイクアウト期には、勝者と敗者の分岐が急速に進みます。正解は誰も持っていません。だからこそ、今までのやり方を捨ててでも前に進める人が残っていく。これは脅しではなく、この業界に長く関わってきた者としての率直な実感です。私たちも一緒に試行錯誤しながら支援していきたいと思っています。


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