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野村真央の<深化する人材紹介論> 「現場」と「思考」を失った人材紹介会社が、静かに沈んでいく理由

株式会社AGENT SUCCESS代表・野村真央氏

DiSPA!編集部です。株式会社AGENT SUCCESS代表・野村真央氏によるコラムも第3回目となりました。今回は人材紹介ビジネスの業務が年々効率化していく一方で、現場のチームが少しずつ弱くなっていくという実感を、野村氏ならではの「肌感」で語っていただきました。10年超のキャリアと多数の立ち上げ支援から導かれた、読み応えのあるコラムです。ぜひ最後までご覧ください。

はじめに:現場の肌感覚と、自分で考える習慣

人材紹介の仕事を10年ほど続けてきて、ずっと引っかかっていることがあります。

なぜ商談数も面談数もこなせるようになったのに、結果が出にくくなったのか。効率化が叫ばれる中、なぜツールを入れるたびに、チームの足腰が弱っていくように見えるのか。なぜ、かつて成績トップだった人が、管理職になった途端に伸び悩むのか。

別々の悩みのように見えて、実は同じ根を持っていると、最近気づきました。「現場の肌感覚」と「自分の頭で考える習慣」の二つを、この業界はゆっくりと手放してきたのではないか。今の停滞は、その結果に見えます。

「会いに行く」が当たり前だった時代

2020年より前、人材紹介の現場はほぼ全て対面で動いていました。

企業訪問では、アポイントを取って先方のオフィスへ向かうのが基本でした。受付で名乗り、応接室や会議室へ案内され、人事担当者と向き合う。話が一区切りつくと「ついでにオフィスも見ていきますか」と社内を回らせてもらえることも多かった。開発チームが集まる執務フロア、役員フロアの雰囲気、社員食堂の混み具合。こうした空気を肌で吸い込んでおくと、後で候補者に企業の魅力を説明するときの言葉に、自然と厚みが出ました。

候補者との面談は、夜が主戦場でした。仕事を終えた候補者と、会議室や打ち合わせスペースで待ち合わせる。20時、21時という時間に、ネクタイを緩めた候補者が少し疲れた様子で現れることも珍しくなかった。「こんな時間になってしまいすみません」と謝られ、「お疲れのところ、ありがとうございます」と声をかけ、相手の表情の変化を見ながら話を聞く。その丁寧なやりとりの積み重ねが、信頼関係の土台になっていました。

面談を終えてオフィスに戻ると、先輩が必ず聞いてきます。「今日はどうだった?」そのまま二人で夜食をとりながら振り返りの時間を持つ。「あの場面の切り返しはもう少し踏み込めたはずだ」「その質問の後、もう一押しできた」当時は耳が痛いことも多かったけれど、振り返ってみるとあの時間にいちばん鍛えられていた気がします。業務時間を超えて本気で向き合ってもらえる、密度の高いやり取りでした。

商談や面談の本数自体は今の方が圧倒的に多いのに、得られている実感はあの頃に届いていない、と感じているのは自分だけではないはずです。

夜のオフィスで先輩から指導を受ける様子

1日の面談数は増えたのに、なぜ「手応え」が消えたのか

コロナ禍をきっかけに、業界全体が一気にオンライン中心の働き方へ切り替わりました。移動という制約がなくなった分、1日に詰め込める商談や面談の本数は跳ね上がりました。数字としての「稼働量」は、間違いなく増えています。

ただ、その代わりに、相手の「空気」を受け取る機会がどんどん減っていきました。

訪問先がどんな雰囲気の会社なのか、自分の目で確かめずに候補者へ提案する場面が増えました。候補者がどんな表情で、どんな状態で面談に臨んでいるかも、画面越しでは伝わりにくい。先輩からその場でもらえていた濃いフィードバックの機会も減り、指摘されたことが記憶に残りづらくなりました。一つひとつの接点が、薄く、軽くなっています。

候補者の側も変わりました。複数のエージェントを並行して使うことへの抵抗が、ほとんどなくなっています。気軽につながれる分、気軽に離れることもできる。信頼を築くまでにかかる時間はむしろ長くなっているのに、それにかけられる時間は短くなっている。これは構造的にすれ違っています。

効率化と引き換えに何を置いてきたのか、まだうまく言葉にできていません。ただ、夜の会議室に少し疲れた顔で現れた候補者の表情だけは、今でもはっきり覚えています。この仕事の手応えの源泉は、たぶんそういう記憶の中にあります。

なぜ、急成長期の人材紹介チームほど出社を選ぶのか

今の時代に、リモートワークの利便性や柔軟性を否定するつもりはありません。効率的なツールはスマートに使いこなすべきだと思っています。ただ、私がここで考えてみたいのは、働き方の形式そのものではなく、「プロとしての成長スピードを最大化する環境を、どう作るか」という点です。

これまで人材紹介事業の立ち上げを何社か支援させていただく中で、印象に残っていることがあります。立ち上げ期や急成長期にフルリモート中心の体制を敷いた組織が、そのまま安定成長まで一気に進んでいくケースを、自分が関わった範囲ではまだあまり見たことがない、という感覚です。

もちろん、事業のフェーズや組織の成熟度、メンバーの経験値によって、最適な働き方は変わってくるはずです。ただ少なくとも、立ち上げからの数年、チームの土台を作る段階においては、出社比率が高い組織の方が立ち上がりが早い傾向にある、というのが私自身の実感です。

そこには、いくつか理由があるように思います。

人材紹介の仕事は、駅伝に近いところがあると感じています。一人ひとりが自分の区間を全力で走ることはもちろん大切ですが、それだけではチームとしての強さには直結しにくい。タスキの受け渡し方、声をかけるタイミング、隣の走者の状態を見て自分のペースを調整する判断力。こうした感覚は、同じ場所で時間を共にすることで磨かれやすいのではないか、と思っています。

人材紹介の現場にも、似たところがあります。隣の席から聞こえてくる商談の様子、月末の追い込みで電話をかけ続ける誰かの声、その緊張感の中で自分も手を動かす感覚。こうした摩擦や空気の積み重ねが、チーム全体の地力を育てていく一因になっているように見えます。オフィスという場には、テキストやチャットのログには残りにくい情報がいくつも流れています。誰かの焦りが伝わってくること、表情や物音からチームの状態を察知できること、隣の電話から企業側の温度感を感じ取れること。こうした情報は、この仕事においては地味だけれど後々効いてくることが多い、と感じています。

もう一つ、この感覚を後押ししてしまう心理があるように思います。人材紹介会社に入社して1年ほど経ち、ひと通りの業務を覚えると、「型はもう掴んだから、場所にはあまり左右されないはずだ」と感じる時期が、誰にでも訪れるように思います。私自身にも、振り返るとそういう時期がありました。一定の型を覚えた段階で、自信が実力より少し先に進んでしまう。心理学でダニング・クルーガー効果と呼ばれる現象に近いものだと思っています。

ただ、その後何年も高い成果を出し続けている方たちを見ていると、不思議なことに、口を揃えてこう言います。「出社している方が、結果的に動きやすい」

リモートでも安定して成果を出せる力を育てていく上でも、まずはオフィスでチームの熱量やノウハウを十分に吸収しながら土台を作る時期を持つことには、それなりの意味があるのではないか――そんなふうに、私は考えています。

出社してチーム

なぜ優秀だった管理職ほど、止まっていくのか

最近、こんな相談を受けることが増えてきました。

かつて営業成績でトップを走り、リーダー、マネージャーへと昇格した。けれど業績がじわじわ下がっている。スカウトの返信率が落ち続け、打ち手を変えても数字が戻らない。若手や上司から「AIを使いましょう」「SNS発信を始めましょう」と提案される。とりあえずSNSのアカウントを作り、生成AIにスカウト文面を直してもらい、定型業務を自動化した。それでも変わらない。

こうした相談を受けるたびに、問題の本質は質問とは別の場所にあると感じます。

かつてトップだった人が管理職になってから成長が止まる理由は、二つあると思っています。一つは、現場から離れたこと。自分でスカウトを打たなくなり、面談にも入らなくなる。ただ、もう一つの理由の方が根深いと考えています。考えることを、いつの間にかやめてしまったことです。

現場にいた頃は、毎日結果が返ってきます。結果が直接戻ってくるからこそ、「なぜこうなったのか」を考えざるを得ません。ところが管理職になると、自分の行動と結果の間にメンバーという層が挟まります。そのうち、考え抜くことより「何かをやっている雰囲気」を出す方が、楽になっていきます。

会議でAIが作ったレポートを共有する。「SNSをもっと強化しよう」と号令をかける。新しいツールを導入する。チームを動かしている実感はある。けれど実際には、一つの問いも立てていません。こうして、現場感も思考も止まった「化石」が出来上がっていきます。

問題はここで終わりません。管理職が考えることをやめると、その姿勢はチームに伝わります。みんな忙しそうに何かをやっています。でも「なぜこれをやるのか」「なぜ結果が出ないのか」を問う人が誰もいなくなる。AIは代わりに考えてはくれません。管理職がその判断を引き受けなければ、メンバーも判断する力を失っていきます。組織全体が思考を手放した結果が、今の停滞に表れています。

現場の記憶と、自分の頭で考える習慣

ある老舗の料理人から聞いた話があります。師匠から受け継いだレシピ帳には、印刷された手順の横に、びっしりと手書きのメモが書き込まれていました。「この季節はここを変える」「この産地の素材のときは火を弱める」。レシピ通りに作れば及第点は取れます。けれど、手書きのメモ通りに作ると、他の誰も出せない味になる。

そのメモは、実際に作ってみて、失敗して、試行錯誤を重ねた一次情報です。現場の経験と、「なぜこうなるのか」という思考が合わさって、はじめて秘伝の書き込みになる。どちらが欠けても、ただの走り書きにしかなりません。

スカウトの返信率が落ちているのは、多くの人が同じことをしているからです。同じAIに同じような問いを投げて、似た文面を量産しているからです。そこから抜け出す手段は「もっと優れたAIを使う」ことではありません。「自分にしか拾えていない情報は何か」を、問い続けることです。

現場に戻ること。週に一度でも、自分の手でスカウト文面を考えて送る。月に一度でも、候補者と直接向き合う。そうすることで、現場の温度感が自分の中に戻ってきます。そして、ただ現場を観察するだけでなく、「なぜこの結果になっているのか」を自分の頭で突き詰める。AIに答えを求める前に、まず自分なりの仮説を立ててみる。

この二つが揺るぎなく揃ったとき、組織は再び動き出すはずです。

【思考を止めないために、管理職が今週からできること】

  • 週に一度、ツールに頼らず、自分の手だけでスカウト文面を一通作ってみる
  • 月に一度、メンバーのオンライン面談に画面オフで同席し、声のトーンや空気感を観察する
  • メンバーから相談を受けたとき、すぐに答えやツールを示さず、「あなたはなぜそう思う?」と5分間問い返してみる
  • 四半期に一度、自分自身が一件、候補者面談かスカウト送信を担当し、現場の手応えを取り戻す

最後に

人材紹介という仕事の構造自体は、驚くほどシンプルです。だからこそ、基本に忠実であるかどうかが、最後に効いてきます。

夜の会議室に疲れた顔で現れてくれた候補者がいました。先輩から本気で向き合ってもらい、耳の痛いフィードバックをもらった夜がありました。月末、フロア全体が同じ緊張感を共有していた景色がありました。あの頃の手応えは、効率という言葉だけでは説明がつきません。

現場の肌感覚と、自分の頭で考える習慣。両方を手放さずに持ち続けること。それがこの仕事の根幹であることは、今も変わっていないはずです。


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