DiSPA!編集部です。株式会社AGENT SUCCESS代表の野村真央氏によるコラムの第2回目は、昨今状況が変わってきている「求人開拓の再定義」です。多くの人材紹介会社は求職者を集めることを重視していると思いますが、徐々に新しい求人が取れていない現実に気付いてきたのではないでしょうか?
この厳しい時代、人材紹介市場に生き残るためには、プラットフォームへの依存を脱却し、戦略的な営業手法で、企業から選ばれるエージェントになることが大切である、と野村氏は語ります。
緩やかで気づきにくい昨今の変化をわかりやすく言語化し、現在の課題や、今すぐ取りかかれる改善ポイントについて徹底解説します。ぜひ日々の営業活動にご活用ください。
はじめに:人材紹介営業の「前提」が崩壊した
かつての人材紹介営業は、企業にとって「完全成功報酬=ノーリスク」という強力な武器を持っていました。しかし、2018年以降の求人プラットフォームの普及と、2022年以降の採用競争の過熱を経て、企業の状況は一変しました。
現在、有力な採用企業の多くは転職エージェントの少数精鋭化へ舵を切っています。膨大な数の転職エージェントと契約しても運用負荷が膨らむばかりで、実際に決定に貢献できる「信頼性の高い10〜20社」へリソースを集中させる傾向が強まっているためです。
本記事では、従来の「求人票を預かる営業」から脱却し、一般的なB2Bソリューション営業と同様の価値提供型・課題解決型の法人開拓へシフトするためのマインドセットと手法を解説します。
なぜ、あなたの「求人開拓」は断られるのか?
2026年現在、採用企業が転職エージェントからの新規提案を拒絶する理由は、単なる忙しさだけではありません。その背景には、主に以下の3つの要因があります。
1.管理コストの増大(情報の洪水)
プラットフォーム経由で似たような推薦が乱発される中、人事担当者は本来のミッションである面接ではなく、事務的なスクリーニング業務に忙殺されています。実績が不透明な新規の転職エージェントに期待するよりも、運用の煩雑さを回避したいという心理の方が勝っています。
2.専門性の欠如に対する不信感
「あらゆる業種・職種に対応可能」は、今の時代「何も得意ではない」と同義です。企業の事業ドメインや技術スタックを理解しないままのアプローチは、プロとしての信頼を損ないます。
3.「スピード競争」が生んだミスマッチへの疲弊
プラットフォーム依存のエージェント同士のスピード競争に、企業側も疲れ果てています。企業が求めているのは「早さ」ではなく、自社の文化を理解し、長期的に定着し活躍する人材を見出す「精度の高いマッチング」です。
次世代エージェントに必要な「マインドシフト」
これからの法人開拓において転職エージェントは「採用のための人材の紹介者」から、「企業の事業成長を支援するパートナー」へと役割を再定義しなければなりません。具体的には、以下の2つのマインドシフトが求められます。
1.「求人票」ではなく「経営課題」を起点にする
「どんな人が欲しいですか?」という御用聞きスタイルの質問は、すでに企業のニーズが顕在化している場合にしか機能しません。「今、事業を成長させる上でボトルネックになっている組織課題は何ですか?」という問いから始めます。求人票の裏側にある「経営の痛み」にフォーカスすることで、代替不可能な価値を提供できるのです。
2.「お断り」を「パートナーへの条件」と捉え直す
新規開拓で「実績がなければ会わない」と言われた際、食い下がるのではなく「どのような実績があれば、御社のパートナーとして相応しいでしょうか」と踏み込み、それを数ヶ月かけてでもクリアしに行く執着心が、企業の信頼を勝ち取る近道です。
大手・中小企業別「突破」の具体的手法論
企業の規模やフェーズによって、抱えている痛みは異なります。画一的なアプローチは捨て、企業の意思決定ロジックに合わせた戦術を使い分けることが重要です。
エンタープライズ向けの攻略法:網羅性ではなく一点突破
組織として完成されている大手企業に対しては、「何でもできる」は「特徴がない」と受け取られやすいものです。特定の領域で「代わりがいない」存在であることが鍵となります。
1.「特定タレント」をフックにした候補者起点のアプローチ
求人票を受け取ってからから候補者を探すのではなく、御社のこの新プロジェクトに、これ以上ないほど合致する候補者が、今私の手元にいますという、候補者を起点とした指名営業へと切り替えます。
2.ドメイン特化で門前払いを打破
「SaaSのインサイドセールスなら、過去3ヶ月で10名の決定実績がある」といった、極めて狭い範囲でのNo.1実績を武器にします。同業他社の成功事例は、大手企業の高い警戒心を解き、興味を喚起する最良のコンテンツです。
中小・地方企業向けの攻略法:外部パートナーから伴走者へ
リソースが不足している中小企業に対しては、採用実務を支える採用代行(RPO)的な立ち位置を目指します。
1.「採用基準の策定支援」による独占ポジションの構築
そもそも言語化されていない求人要件を一緒に作成し、市場相場を伝える教育プロセスから深く関わります。上流工程から入り込むことで、競合エージェントが入り込めない強固な信頼関係を築きます。
2.「返報性」を活かした情報提供
「貴社の競合であるA社が、最近エンジニアの評価制度を変えて採用率を上げているようです」といった、現場でしか得られない一次情報を先に提供します。有益な情報の提供は、心理的な返報性を生み、相談の優先順位を引き上げます。
一般的なB2B営業プロセスへの昇華
人材紹介の営業を、「御用聞き」から「高度なソリューション営業」へと進化させるには、営業プロセスを以下の4つのステップの順で再構築する必要があります。
1. インサイト・アプローチ(徹底した事前調査と仮説構築)
企業の決算資料、採用広報記事、代表のSNS、さらにはその企業の「不採用になった元候補者の口コミ」まで多角的に調査します。「御社は今、◯◯の技術負債を解消するために、これほどのスキルセットを持つエンジニアを求めていますよね?」という精度の高い仮説を持って接触することで、第一印象が変わります。
2. ナーチャリング(関係構築と第一想起)
一度断られた企業を営業リストから消してはいけません。未来の決定に向けて、長期的な関係性を構築する必要があります。
- 市場レポートの定期送付
担当者が社内会議で使えるようなマーケットデータを提供します。 - ターゲット層に刺さる他社事例の共有
「いざという時に、真っ先に顔が浮かぶ専門家」として覚えてもらうために、最低3〜6ヶ月のスパンで関係を温めます。
3.意思決定プロセスの深掘りと合意形成
法人営業におけるフレームワークのBANT(予算(Budget)、決裁権(Authority)、必要性(Need)、導入時期(Timeline))を確認するだけでなく、「今、その人を採用できない場合の機会損失はいくらか」という踏み込んだ議論を行い、企業と課題意識を共有します。この採用すべき理由の合意ができていると、選考プロセスでの迷いや、不合理な見送りを防ぐことができます。
4. カスタマーサクセス視点
入社がゴールではなく「スタート」と定義します。入社後の定着率や活躍状況をフィードバックとして回収し、それを次の営業資料に盛り込みます。「弊社の紹介者は、1年以内の離職率が5%以下です」という客観的なデータは、どんな営業トークよりも説得力を持ちます。
イベント起点のリード獲得戦略
「売り込み」を「情報交換」に変換する仕掛け
優秀な人事担当者やDX推進担当者は、常に「他社の成功事例」や「最新の労働市場トレンド」を求めています。この欲求を逆手に取り、イベントを入り口にする手法が、従来のテレアポに代わるメインストリームとなっています。
1. 共催ウェビナーによる「権威性」の活用
自社単独ではなく、ターゲット企業が信頼している「周辺サービス(例:勤怠管理システム、適性検査ツール、組織改善サーベイ等)」を運営する企業と共催イベントを行います。
- メリット: 相手企業の既存顧客リストにアプローチできるため、初対面でも信頼性が担保された状態で接点を持てます。
- 手法: 「20XX年度 採用戦略のトレンド予測」といった、広めのテーマで集客し、アンケート回答者に対して「御社の状況に合わせた個別相談」として後日アプローチします。
※相手企業の個人情報取り扱いの規約内容や、顧客情報の共有に関する契約内容は、リーガルチェックを行うことと、顧客体験を悪化させない内容であることを確認してください。
2. 「限定コミュニティ・座談会」への招待
大手企業の部長クラスや役員層は、オープンなセミナーよりも「同規模・同業種の他社がどうしているか」を本音で話せるクローズドな場を好みます。
- 手法: 「SaaS業界 人事責任者のための情報交換会」と称し、5〜10名程度の少人数ラウンドテーブルを企画します。
- ポイント: 主催者はあえて「自社の紹介」は一切せず、徹底して「場作りのプロ」に徹します。会が終わる頃には「有益な会を主催してくれた信頼できる転職エージェント」として、個別の相談が舞い込む関係性が構築されています。
3. カンファレンス・展示会でのリバース・アプローチ
自社が出展するのではなく、ターゲット企業が出展している展示会に足を運びます。
- 手法: ターゲット企業のブースでサービス説明を熱心に聞き、その事業への理解を深めた上で、「実は私、◯◯領域の採用支援をしておりまして、貴社の現在の事業展開を拝見して、まさに力になれる人材が思い浮かんだのでご挨拶に伺いました」と名刺交換をします。
- 効果: 相手は「自社の事業に興味を持ってくれた相手」として認識するため、後日のメール返信率が劇的に高まります。
4. イベント後の「インサイドセールス」の徹底
イベントは開催して終わりではありません。参加者のログ(視聴時間、質問内容、アンケート結果)を分析し、24時間以内に「その人が今、何に最も関心があるか」パーソナライズされたフォローアップメールを送ります。
- 「先日の座談会で言及されていた『若手エンジニアの定着率』に関する資料を別途作成しました。ぜひご活用ください。」
これらのイベント戦略の根底にあるのは、『先に価値を与え、後で機会をいただく』というギブの精神です。
※注:実行上の留意点 この手法は「営業」ではなく、あくまで「事業理解と共感」を起点とした接点構築です。ルールやマナーを無視した強引な営業は、かえって決裁権者へのアプローチを閉ざす結果となります。出展者以外の営業活動を禁じている展示会もあるので、必ず事前に確認してください。出展社の本来の営業活動を妨げないよう、時間帯や状況への配慮を徹底してください 。
まとめ:AI時代に生き残るエージェントの姿
プラットフォームに依存し、「流れてくる求人に、流れてくる機械的にマッチングするだけ」の転職エージェントは、近々AIや自動マッチングシステムに取って代わられるでしょう。
これからの勝者は、「自ら市場(求人)を創出し、企業と候補者の間に独自の介在価値(ナラティブ)を生み出せる」転職エージェントです。
「成功報酬なので、採用できなければコストはかかりません」というリスクの低さだけを強調する営業はもう終わりにしましょう。
「御社の事業を次なるステージに引き上げるために、私をパートナーに選んでください」と胸を張って提案できるだけの圧倒的な準備とマインドセットを持つこと。それが、真の法人開拓のスタートラインです。
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