「候補者のマッチングに時間がかかりすぎる」「属人化したノウハウから脱却できない」。これは、多くの人材紹介会社が抱える共通の課題です。
業務効率化のためにAIの導入を検討したくても、セキュリティの不安があったり、何をどうすれば良いのかといった、具体的なイメージがつかみにくい方も多いかもしれません。
今回は、人材紹介業界向けにAIソリューションを展開するの洞口氏にインタビュー。AI導入の実例から、現状で取り組むべき第一歩、そして今後の展望などについて、深く掘り下げて お話を伺いました。
数十社が語った、人材紹介の「時間」という壁
ー 本日はよろしくお願いします。まず、洞口さんの自己紹介をお願いします。
洞口氏: フリーランスエンジニアの洞口と申します。元々は機械学習やデータ分析を専門としており、2023年7月にブレイン・ラボにジョインしました。当初は「マイリク for マイページ」というアプリケーションの開発に深く関わっていました。2025年1月から、ノーコードAIツールの「Dify」などを活用した人材紹介会社様向けのアプリ開発プロジェクトを推進しています。ちなみに、趣味はサウナで、一番好きなのは池袋の「かるまる」です(笑)。
ー すでに多くの企業から相談を受けているそうですね。どのようなニーズが多いのでしょうか?
洞口氏: これまでセミナー経由で20~30社ほどの人材紹介会社様とお話しておりますが、どの企業様もAIにはかなりの期待をしていらっしゃいます。
特に強いニーズとして、「求人を探す手間を軽減したい」点と、「企業の採用要件にマッチした求職者をいかに早く見つけたい」という2点が挙げられます。特に、マッチングにかかる「時間」の短縮が、どの企業様からも求められています。
今までは対面でしかできなかった「模擬面接」などもAIに置き換えたい、という具体的な要望が寄せられており、AIが活用できる場面はとても増えてきたなと感じています。

AI導入でマッチング時間を半減。立ちはだかった「ハルシネーション」の克服法
ー 実際にAIを導入した企業では、どのような成果が出ていますか?
洞口氏: ある企業様の例では、求人と求職者のマッチングをアナログ作業で行っており、最適な提案をするまで時間がかかりすぎている点が大きな課題でした。
そこでこの企業様向けに、RAが入力した募集要項に基づき、AIが最適な求職者を推薦するチャットボットを開発しました。
AIチャットボットを導入した結果、これまで手作業で行っていたマッチング業務の時間が約半分に削減されたと聞いています。クライアント様との打ち合わせ中に、よりカジュアルかつ迅速に候補者を提案できるようになったのです。
ー そのAIの開発は順調でしたか?
洞口氏: いえ、大きな課題がありました。それは「ハルシネーション(誤情報)」です。AIがデータベースに存在しない「架空の求職者」を生成してしまう問題が多発しました。
これを解決するために、外部の専門家から技術的な助言をいただき、Difyのワークフローを改善しました。具体的には、AIの思考プロセスを段階的に、「1.まず答えを出す」、そして「2.その答えが本当に正しいかチェック・検証する」という2つのステップに分けました。この仕組みと、AIへの指示(プロンプト)の最適化によって、ハルシネーションを大幅に抑制することに成功しました。

個人情報を守るための徹底したセキュリティ対策とは
ー 人材紹介では個人情報を取り扱いますが、セキュリティに関する懸念はありませんでしたか?
洞口氏: まさにおっしゃる通りで、人材会社様が最も気にされる点がセキュリティ対策です。大きく分けて2つの観点からの対策が必要です。
1つ目はLLM(大規模言語モデル)の問題です。 OpenAIのGPTシリーズやGoogleのGeminiなど主要なAIツールに情報を入力すると、そのデータがAIの学習に使われてしまうリスクがあります。主要なLLM提供会社(OpenAIやGoogle)はAPI経由で送信されたデータは、原則としてモデルの学習に利用しないと明言しています。そのため、API経由であれば入力したデータが学習に利用されないようにすることができます。
2つ目はサーバーの問題です。AIツールを利用する際に、API経由のデータはAIの学習は防げても、外部のサーバーにデータが保存されると、外部からのサイバー攻撃や、サービス提供者の内部不正によって流出するリスクが残ります。これに対しては、自社で管理するサーバー上にAIツールを構築することで高い安全性を保てます。
安易に便利なツールを使うと、企業の機密情報や個人情報が漏洩する恐れがあります。人材紹介業界で20年の実績があるブレイン・ラボは、この点を最も重視し、安全な環境構築を提案しています。
面接対策から書類選考までAIが対応。未来を拓くAIの新たな可能性
ーマッチング以外では、どのようなAI活用が考えられますか?
洞口氏: 大きく分けて2つのニーズが寄せられています。
1つは「模擬面接AI」です。特に面接に不慣れな若手求職者向けの練習ツールとして期待されています。単なる会話AIではなく、企業の独自情報を読み込ませ、より実践的な面接官役をAIに担わせることも将来的には可能です。
もう1つは「履歴書のスクリーニング」です。履歴書をアップロードすると、AIが学歴や職歴といった基準を基にスコアリングします。自動で「通過」「見送り」を判定し、それぞれに応じたメール文面の下書きを自動で作成するといった活用法です。これにより、スクリーニング業務を劇的に効率化できます。

AI活用がもたらす最終的なゴールは「売上アップ」
ー AIの活用が進むと、人材紹介会社の未来はどのように変わると思われますか?
洞口氏: 最終的には企業の「売上アップ」に直結すると考えています。
マッチングや選考の時間が短縮されることで、一人のRA/CAが対応できる求職者様の数が増えます。RA/CA一人ひとりの生産性向上にも大きく貢献し、結果として成約数、ひいては売上の増加につながります。つまり、AIは事業成長を直接的に加速させるエンジンになり得ると考えています。
ー 最後に、AI導入を検討している企業へアドバイスをお願いします。
洞口氏: まずは、今お使いのビジネスツールに連携したAIから試すのが良いでしょう。Microsoft系ならCopilot、Google系ならGeminiといった親和性の高いツールでご検討いただくと、比較的導入のハードルが低いと思います。
そして、それらのツールで簡単なチャットボットを作り、日々の細かな作業を自動化してみる。社内で活用コンペを開くのも面白いかもしれません。まずは小さな一歩を踏み出し、AIに触れる文化を醸成していくことが、未来に向けた最も重要な取り組みだと考えています。
まとめ:AIは人材会社の問題解決に大きな力を発揮する
今回のインタビューでは、人材紹介業界が直面している課題に対し、AIがどれほど大きな力を発揮できるのかについて、具体的に聞くことができました。
多くの人材会社から効率化が求められているのは、「人に依存し、時間がかかるマッチング業務」です。この大きな壁に対し、AIチャットボットは業務時間を約半分に短縮できるという成果を出した事例がありました。
セキュリティの面でも、APIの活用や自社サーバーでの運用など、適切な仕組みを整えることで安心材料が増えることも確認できました。
人材紹介会社が今後さらに成長していくためには、「人とAIが協力し合うこと」が欠かせないという強いメッセージを伺うことができました。
プロフィール

洞口 拓也 氏
フリーランスエンジニア
フリーランスエンジニア
機械学習とデータ分析のバックグラウンドを持ち、2023年7月に株式会社ブレイン・ラボに入社。人材紹介会社向けアプリケーション「マイリク for マイページ」や生成AIチャットボットの開発を経て、フリーランスエンジニアに転向。現在は生成AIを活用した新規ソリューション開発の先駆者として、多くの企業の課題解決に取り組んでいる。








