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なぜ社員が増えると「1人あたりの売上」が下がる?人材紹介会社の10人の壁を突破する「経営OS」の考え方

なぜ社員が増えると「1人あたりの売上」が下がる?

人材紹介事業を運営する中で、社員数が増えていくのは本来とても喜ばしいことです。「いよいよ事業が拡大していくぞ!」という成長のサインでもあります。

ところが、いざ10人、20人と組織が大きくなってくると、現場では不思議な現象が起こり始めます。人数は増えたはずなのに、なぜか「一人あたりの売上」が以前より下がってしまったり、組織全体のスピード感が落ちてしまったり……。

こうした生産性の低下を、「最近の若手は……」といった個人のスキルのせいにしたり、「気合が足りない!」と根性論で片付けるのは、もったいないことかもしれません。
本当の原因は、景気でも、ましてや個人の能力でもなかったりします。組織のフェーズが一段上がったのに、「仕組み」の方が古いままですよ、というサイン。せっかくの増員を「ただのコスト増」で終わらせるのか、それとも確実な成長のバネにするのか。その分かれ目は、一体どこにあるのでしょうか?

本記事では、人材紹介会社が社員10人を超えたあたりから直面しやすい組織的な変化を整理したうえで、生産性が低下してしまう構造的な要因や、成果を左右している本当の分かれ目について掘り下げていきます。さらに、感覚や属人性に頼りすぎない組織づくりのヒントと、成長を支えるために必要な仕組みのあり方について解説します。

社員10人を超えたあたりから、組織で何が起きているのか

創業期は成立していた「阿吽(あうん)の呼吸」

人材紹介会社の創業期は、驚くほど意思決定が速く、成果も出やすいフェーズです。創業者や初期メンバーが、求人状況、求職者の温度感、選考の進捗をほぼ暗記しており、「今どこに力を入れるべきか」を直感的に判断できます。

「この企業は今週中に動かないと決まらない」
「この候補者は、別の選択肢が出てきたら揺れる」

こうした生きた情報が、わざわざ記録されなくても、隣同士の雑談やちょっとした一言で、阿吽(あうん)の呼吸として伝わってしまう。仕組みなんてなくても現場が回ってしまうのが、創業期ならではの強みであり、楽しさでもあります。

ただ、これが少し厄介なところです。 「仕組みがなくても回っている」がゆえに、本当は必要かもしれない変化に気づけず、「うちは今のままで大丈夫」と錯覚してしまいやすい、危険な時期でもあるわけです。

1人当たりの売上が下がり始める”10人の壁”の正体

しかし、社員数が10人を超えたあたりから、少しずつ様子が変わってきます。求人や候補者の数も一気に増え、パッと見て全体像を把握できる人が限られてくるからです。

会社全体の売上は右肩上がりなのに、計算してみると「1人あたりの生産性」が落ちている……なんてことも。

例えば、創業期は1人で年間売上3,000万円(月250万円ペース)も稼いでいたエースたちが揃っていたのに、いつの間にか年間平均1,500万円くらいで足踏みしてしまう。この「なぜか個人のパフォーマンスが半分近くまで下がったように見える現象」が、多くの会社がぶつかる「従業員10人の壁」の正体です。

ここで起きているのは、単に「みんなが忙しくなった」という話ではありません。判断するための情報が、みんなに同じ粒度で届かなくなっているのです。

生産性低下を「個人の問題」と捉えてしまう危うさ

このフェーズで、経営やマネジメントが陥りやすいのが、「原因を個人の能力に求めてしまうこと」です。

「最近の新人は、なかなか立ち上がりが遅いな」
「もっと営業としてのガツンとした気合が足りないんじゃないか」

このように、生産性が落ちた理由を個人のスキルやマインドのせいにし始めてしまう……。これは少し危険な兆候です。しかし、創業期と同じ人が、同じように動いているにもかかわらず成果が出にくくなっているのであれば、個人の問題ではありません。

実際には、組織の中でこのような変化が起きているはずです。

情報のブラックボックス化: 「誰がどの企業と何を話したか」が、その人に聞かないと分からなくなった。

  • 判断基準のズレ
    何を優先して動くべきか、人によってバラバラになってしまった。
  • 「なんとなく」の配置
    適材適所ではなく、手が空いている人に感覚で仕事を振ってしまう。

この違和感を「個人の努力不足」と勘違いした状態で人を増やすと、数字が伸びる前に、現場のメンバーが疲弊してボロボロになってしまいます。

疲弊するメンバーのイメージ

「トッププレイヤーの成功体験」が組織のブレーキになる?

KKD(勘・経験・度胸)が通用しなくなるタイミング

人材紹介会社のマネージャーは、自身がトッププレイヤーとして活躍してきた方が多い業界です。長年の経験で磨かれた「見ればわかる」「話せばピンとくる」という感覚。いわゆる「KKD(勘・経験・度胸)」の精度がとても高いのです。

この素晴らしい感覚は、実はとても属人性が高いものです。 メンバーの数が増えてくると、その「熟練の技」を共有するのが難しくなります。マネージャー本人は当たり前に判断していても、周りのメンバーからすると「なぜそうしたのだろう?」と、判断の理由が見えないのです。この小さなズレが、実は組織全体のスピードをじわじわと奪っていく原因になります。

感覚的な指導がブラックボックスを生む構造

マネージャーが感覚で動いていると、指導も感覚的になります。

「この案件、今は深追いしなくていいよ」
「とりあえず、もう少し数を当たってみようか」

なぜそう判断したのか?という理由や判断材料が言語化されないまま、指示だけが伝わると、メンバー側は「何を変えればいいのか」が分からない状態になります。結果として、「次は何をすればいいですか?」という指示待ちの空気が生まれ、自走できる人がなかなか育たない悪循環が生まれます。

「売れている理由」「売れない理由」が説明できない組織になる

その結果、組織の中でこのような問いに答えられる人がいなくなります。

「なぜ、この人は成約できたんだろう?」
「どうして、この案件はダメだったんだろう?」

Excel、メール、個人メモに情報が散在し、成功も失敗も組織の知見として貯まらない。教育も「横で見て学んで」とOJT任せになり、いつまで経っても「誰でも成果が出せる仕組み」、つまり再現性が生まれません。

それは「人が足りない」のではなく、「仕組みを作る決断」を少しだけ先送りしている状態かもしれません。トップの素晴らしい成功体験が、無意識のうちにチームの成長に蓋をしてしまうのは、とてももったいないことです。

成果を分けているのは能力ではなく「配置」だった?

面談数・求人保有数だけでは本当のことは見えてこない

成果が出ない理由を本人のスキル不足と悩む前に、少し視点を変えてみませんか?実は、個人の能力差よりも、パズルの組み合わせ、つまり人の配置がズレているだけというケースが意外と多いのです。面談数が多いCA、魅力的な求人を多く持つRAがいて、一見、数字上は問題がなさそうでも、成約に結びつかない状況、身に覚えがないでしょうか?

CA×RA、得意領域×案件属性の「ちぐはぐ」

例えば、現場では以下のような「ミスマッチ」が起きていたりします。

  • 面接数は多いが、成約までの打率が低いCA
  • 求人は沢山開拓しているが、応募が来ないRA

この二人がうまく連携できていないのに「連携できている」と思いこんでいたり、CAの得意領域とRAが持ってきた案件の属性に微妙なズレがあるとしたら…。忙しい現場であればあるほど、こうした小さなボタンのかけ違いは見逃されてしまいがちです。

成約数では測れない、本当の貢献度の違い

評価のポイントにも、実は落とし穴があります。とにかく成約数が多いAさん、成約数は少ないが単価が非常に高いBさん。成約数だけを見るとAさんが優秀に見えますが、工数、利益率、継続取引を含めると、Bさんの方が会社への貢献度が高いケースはよくある話です。

データが分断されることで起きる判断ミス

こうした配置や判断を「なんとなく」の感覚で続けてしまうと、間違った評価・配置が定着してしまい、メンバーのモチベーションを下げてしまうかもしれません。

特に、スカウト、面談、選考、請求…といった情報が別々のツールやExcel等で管理されていると、全体を通した横断的な分析ができません。本来なら改善できたはずの機会損失が、誰にも気づかれないまま静かに積み上がってしまうのです。

「必死に回す」だけの紹介から、積み重なる紹介へ

「フロー型」 から「ストック型」へ、頭を切り替えよう

多くの人材紹介会社は、新しい求人や新しい求職者を常に追い続ける「フロー型」で成長してきました。しかし、組織が大きくなるほど、このやり方だけでは息切れしてしまいます。

毎月の数字に追われ、過去に出会った素晴らしい候補者との接点が埋もれてしまう。これは一生懸命バケツに水を注ぎ続けているのに、底から少しずつ漏れてしまっているような、もったいない状態です。その結果、社員の人数が増えるほど非効率になります。

過去のデータこそ、積み重なる「ストック資産」

本来、一番の宝は過去に接点を持った求職者・企業のデータです。数千人分の面談履歴、当時の希望条件、転職タイミング、企業担当者からの様々なコメント…。そして「そろそろ次のキャリアを考える頃かも?」というタイミングがわかれば、多額の広告費をかけずにアプローチができるようになります。 これらが「誰でも、すぐに、正しく」使える状態で管理されていれば、それは最強の武器になります。

マネージャーは「応援」より、データを活かした「戦略」を

検索できない、更新されないデータは資産ではありません。一方、活きたデータは、次のマッチングを生みます。違いを分けるのは、活用を前提に設計されているかどうかです。

そしてこれからのマネージャーの役割も、少しずつ変わっていきます。「もっと電話して!」と発破をかけるだけではこれからの時代は難しくなります。
「データを見ると、君はこの層への決定率が高いから、ここを重点的に攻めてみよう」と、ファクト(事実)をもとにメンバーを勝たせる設計ができるマネージャーは、チームを強くし、成長に導くことができます。

沢山の情報が一つのシステムにまとまるイメージ

まとめ:管理システムが「経営のOS」になると景色が変わる

Excel管理は10人を超えたら限界を迎える

社員数が10人を超えると、Excelやスプレッドシートでの管理は現実的に限界を迎えます。ファイルが重くて開かない、動作が重くなる、といったトラブルはもちろん、「誰かが関数を壊してしまった」「誰がいつ更新したか分からない」「過去の履歴が検索できない」といった不備が起きやすくなります。
またトラブル対応だけでなく、入力や集計作業そのものに時間をとられ、本来一番大切な候補者と向き合う時間が削られるのは、本末転倒です。

KPIの可視化で「どこが詰まっているか」即わかる

人材紹介業界特有のKPI(例:面談設定率、書類通過率、内定承諾率)がリアルタイムで見えるようになると、経営者やマネージャーはどこに課題があるか一目で特定できるようになります。どこで止まっているか分かればすぐに手を打てるため、PDCAのサイクルが劇的に速くなります。

ただ、ここで気をつけたいのが、「数字を出すこと自体」が目的になってしまうこと。 現実は、数字を出すための入力や、データの抽出・加工に膨大な時間がかかっていたり、入力漏れのチェックに追われていたりと、別の「名もなき工数」に振り回されがちです。

これでは、売上を上げるためではなく、「管理されるため」に無理して入力する……という、メンバーにとっても苦しい運用になってしまいます。 理想は、「みんなが普通に仕事をしていたら、いつの間にか活きたデータが溜まっている」という状態です。

システムが「監視のツール」ではなく、みんながスムーズに動くための「OS(基盤)」になったとき、組織は「10人の壁」の問題を越えて、次の成長ステージへ進めるはずです。