お役立ちノート営業入門

人材紹介会社を伸ばすマネジメント―部下が自走する「守破離」の黄金律

人材紹介会社の組織拡大において、ボトルネックとなるのがマネジメントです。 優秀なプレイヤーがマネージャーに昇格したものの、部下の育成がうまくいかず、結局自分で数字を作ってしまう──。いわゆる「プレイングマネージャーのジレンマ」は、多くの企業が直面する課題ではないでしょうか。

「部下に仕事を任せたいが、失敗されるのが怖くて任せられない」
「マイクロマネジメントはしたくないが、どこまで管理すべきかの線引きが難しい」

こうした悩みを解決するには、感覚的な指導ではなく、明確な基準を持ったマネジメントが必要です。
今回は、株式会社リクルートで長年組織運営に携わり、現在は株式会社ブレイン・ラボで営業部長を務める弊社の小泉滋の知見をもとに、「部下が育つ『任せる』技術」について紐解いていきます。

育成のフェーズを定義する「守破離」の思想

人材育成において、まず理解すべき大原則は「守破離(シュハリ)」です。 武道や芸道で使われる言葉ですが、これはビジネス、特にコンサルタントの育成においても極めて有効なフレームワークです。部下の習熟度に応じて、上司が関与する比率をグラデーションのように徐々に変えましょう。

1. 守(シュ):教える9割・任せる1割

入社1年目や未経験者の段階です。ここでは「自主性」よりも「型」の習得を最優先します。 右も左もわからない状態で自由にやってみてと任せるのは、自主性の尊重ではなく単なる「放置」です。この段階では、マネージャーが9割関与し、徹底的に業務の型(基本動作)を教え込む必要があります。

2. 破(ハ):教える5割・任せる5割

入社3年目程度、あるいは一通りの業務をマスターした段階です。 基本の型が身についたら、徐々に「自分なりのやり方」を試させます。上司と部下の関わり合いはハーフ&ハーフとなり、伴走しながらも少しずつ手を離していく時期です。

3. 離(リ):教える1割・任せる9割

マネージャークラス、あるいは高い成果を安定して出せる段階です。 ここでは逆に、上司の関与を最小限にし、9割を任せます。独自の型を作り出し、組織に新しい価値をもたらすことが期待されます。

多くのマネジメント不全は、部下がまだ「守」の段階にいるのに「破」や「離」の対応をしてしまったり、逆に「離」の段階にいるのに「守」のように細かく管理してしまったりすることから生まれます。 まずは、目の前の部下がどのフェーズにいるのかを正しく見極めることが重要です。

加えて、この「守破離」の成長サイクルを加速させるためには、褒めることと叱ることのメリハリも欠かせません。 地道に「守」を継続していることや、現状を変えようとする「破」への挑戦や兆しが見えた時は、しっかりと褒める。一方で、やるべき型を守らない怠慢に対しては、毅然と叱る。 このようにマネージャーが価値基準を明確にすることで、メンバーは迷いなく動きやすくなり、組織全体にも健全な規律が生まれていきます。

ひとつひとつの段階を経てステップアップしていくイメージ

「理解している」で任せてはいけない。「浸透」を見極める4つのステップ

それでは、マネージャーが最も悩む「どのタイミングで仕事を任せるべきか(守から破への移行)」について、具体的な基準はあるのでしょうか。

ここで重要になるのが、「知る・理解する・行動する・浸透する」という4段階の成長ステップです。 実は、多くのマネージャーが「理解する」の段階で安心して任せてしまい、失敗するケースが後を絶ちません。

例えば、架電業務の指導を例に挙げてみましょう。

  • 知る: 「アポをとるためには100件電話しなければならない」と知っている。
  • 理解する:「アポ率が10%だから、10件のアポをとるためには、○○リストに100件の架電をし、このトークをする必要がある」というロジックを理解している。

ここまでは、座学や研修で到達できます。部下に「わかったか?」と聞けば「わかります」と答えるでしょう。しかし、実際に現場に出すと「50件しか電話をかけていない」という現象が起きます。 これは、頭で理解していても、体が動いていない、つまり「行動」の壁を超えられていない状態です。

マネージャーが手を離していいのは、「行動」が定着し、次の「浸透する」というフェーズに入ってからです。 言われなくても当たり前のように行動できる習慣化ができている状態になったら、ここで初めて「教える=ティーチング」を終了できます。
「理解した」という言葉を鵜呑みにせず、「行動が浸透しているか」という事実を確認する。これが「任せる」と「放任」を分ける決定的な境界線です。

その後のステージでは、複雑な状況に対応できるよう、自身で考えて答えを出すことが求められます。習慣化ができている部下が問題にぶつかった時には、上司は「教える(=ティーチング)」のではなく、「相手の中から答えを引き出す(=コーチング)」ように切り替えていきます。

市場価値を高めるための失敗と型破り

「守(型)」を習得し、「浸透」のフェーズに入ったメンバーに対して、マネージャーが次にすべきこと。それは「安全な失敗」を経験させることです。

リクルート社には「早く、たくさん失敗しろ」という文化がありますが、これは人材育成の本質を突いています。 教えられた通りのことを、教えられた通りにやり続けるだけでは、その人材は代わりの効くオペレーターにしかなりません。市場価値を高め、高い給与を得る人材になるためには、既存の型を破り、自分なりの工夫で成果を出す経験が不可欠です。

型を破ろうとすれば、当然失敗もします。しかし、その小さな失敗からPDCAを繰り返すことでしか、その人独自の勝ちパターンは生まれません。 マネージャーの役割は、部下が致命傷にならない範囲で挑戦できる環境を整え、失敗を許容し、そこからの学びを支援することです。

「自分で工夫して成果が出た」という経験は、部下の自己肯定感を高め、仕事に対する没入感(エンゲージメント)を飛躍的に向上させます。このサイクルに入れば、組織は自然と自走し始めます。

「自分で工夫して成果が出た」という経験は、部下の自己肯定感を高める(イメージ)

マネジメントの究極は「Will(意志)」への問いかけ

ここまで仕組みや基準の話をしてきましたが、小泉は最後に、マネジメントの根幹は「対人コミュニケーション」にあると語ります。 その中で、彼が最も大切にしている問いかけがあります。

「お前は、どうしたい?」

これは、相手の「Will(意志)」を問う言葉です。 上意下達で「こうしなさい」と答えを与えるのは簡単ですが、それでは部下は思考停止に陥ります。「あなたはどうしたい?」と問いかけ、部下自身の考えを引き出す。そして、その情熱に賭けて任せてみる。

もちろん、その考えが未熟であればティーチングに戻る必要がありますが、まずは「相手の意思を尊重する」という姿勢を示すことが、信頼関係構築の第一歩です。 「自分の考えを聞いてもらえた」「任せてもらえた」という実感こそが、部下が困難に直面した時の粘り強さを生み出します。

まとめ:観察し、問いかけ、信じて任せる

マネジメントに魔法の杖はありませんが、正しい手順は存在します。

  • 「守破離」のフェーズを見極め、関与の比率を変える。
  • 「理解」で止めず、「行動・浸透」まで伴走してから任せる。
  • 「あなたはどうしたい?」と問いかけ、主体性を引き出す。

AIが台頭し、業務の効率化が進む現代においても、人を動かし、育て、組織の熱量を高めるマネジメントの価値は変わりません。むしろ、変化の激しい時代だからこそ、自律的に考え行動できる人材を輩出できる組織が生き残ります。

最近、部下に任せきれていないなと感じた時は、ぜひ一度立ち止まって確認してみてください。 目の前の部下は今、どのフェーズにいるのか。そして、彼らの「行動」は「浸透」しているか。 その解像度を高めることが、組織を次なるステージへ導く鍵となるはずです。