人材紹介におけるKPIマネジメントとは、売上や成約数といった結果を直接追い込むことではなく、自分自身がコントロールできる行動指標を通じて、個人と組織の成長を促すためのマネジメント手法です。しかし実際の現場では、KPIが「数字を詰められるもの」や「報告のためだけの集計作業」として捉えられてしまい、本来の役割を果たせていないケースも少なくありません。
本記事では、人材紹介事業で起こりがちなKPI設計の失敗とその背景を整理したうえで、成果と相関性の高いKPIの考え方や具体的な指標例、そして自走するチームを作るための実践的な運用方法について解説します。
※本記事は、株式会社ブレイン・ラボの社員が人材紹介事業の運営やKPI設計、マネジメント、クライアント支援の現場で得た実務知見をもとに構成しています。
KPIが「管理指標」になり下がっていないか?
「今月の目標、なんで未達なの?」
「すみません、面接で候補者のパフォーマンスが悪くて……」
「じゃあ次はどうするの?」
「……もっと気合を入れて面談します」
このようなやり取りが、日常的に現場で繰り返されていないでしょうか。KPIマネジメントがうまく機能していない組織でよく見られる、典型的な「あるある」の光景です。
KPI設計において最も陥りやすいのは、面接通過率のようにコントロールが難しい指標をKPIにしてしまうことです。マネージャー視点では重要な数字に見えますが、現場のメンバーにとっては、候補者の意思決定や企業側の事情といった外的要因に大きく左右される指標でもあります。つまり、自分たちの努力だけでは完全にコントロールできない数字なのです。
では、コントロールできない指標を追い続けると、現場では何が起こるのでしょうか。達成できなかった理由を求職者やクライアントなど外部環境のせいにしたり、未達の言い訳を考えることに時間を使うようになります。その結果、KPIは改善のための指標ではなく、単なる管理のための数字になってしまいます。これでは、本質的な改善やスキルアップは望めません。
- 言い訳の文化の蔓延:
目標数字が未達だった際に、「候補者の質が悪かった」「企業が採用を控えている」といった、自分の努力ではどうにもならない理由を外部要因に求めるメンバーが増えていく。 - 精神論に終始する:
具体的にどの行動を振り返り、何を変えるべきだったのかが整理されないため、「次はもっと気合を入れます」といった精神論で終わってしまう。

KPIは何のためにあるのか?──組織とメンバーの成長
そもそも、KPIは何のために使うべきものなのでしょうか。その答えは、「メンバーの成長を促し、自走できるチームを作るための仕組み」であるべき、という点にあります。
現場に「改善のきっかけ」を与え、スキルを伸ばす
KPIを正しく設定する目的は、現場が「どこでつまずいているのか」を具体的に把握し、次の行動を変えるきっかけを作ることにあります。
例えば、面接通過率そのものではなく、その手前で行われているメンバーの行動に目を向けることで、「面接が通らなかった」という曖昧な結果が、「提案準備が不足していた」「求人の職務内容理解が浅かった」といった具体的な課題に分解されます。このように課題を具体化し、向き合うプロセスこそが、メンバーのスキル成長に直結します。
メンバーが自ら動き、主体性が身につく
マネージャーが目指すべきは、細かな指示を出さなくても、メンバー自身が考えて動けるチームを作ることです。「自分たちの努力で変えられる指標」をKPIとして設定することで、メンバーは「自分の行動次第で結果が変わる」という実感を持てるようになります。
それを積み重ねていくと、「上司に言われたからやる」のではなく、KPIの進捗を見ながら「ここが足りないから、明日はこう動こう」と自ら課題を見つけ、行動に移せるようになります。
このようにKPIを活用することで、最終的にはマネージャーがマイクロマネジメントをしなくても、メンバー自身がPDCAを回し、成果を出す「自走する組織」が形づくられていきます。

KPIをどのように使うのか?──「面接通過率」を上げたいときの例
ここからは、具体的なKPIの使い方について考えてみましょう。人材紹介会社でよく聞く課題の一つに、「面接通過率を上げたい」というものがあります。
失敗例:面接通過率そのものをKPIにする
「面接通過率が低いから、通過率○%を目指そう」と設定し、面接対策講座などを実施するケースがあります。しかし、これだけでは思うように改善しないことが多いのが実情です。なぜなら、面接の合否は最終的に候補者本人の志向や熱意、企業との相性などに左右される部分が大きく、メンバー自身ではどうにもならない要素が多いためです。表面的な対策を行っても、通過率の改善につながらないケースは少なくありません。
成功例:コントロール可能な「先行指標」に置き換える
面接通過率を左右する本質は「マッチングの質」にあります。ただし、「質」という定性的な要素は、そのままでは数値化が難しいものです。
そこで、マッチングの質が高ければ結果的に伸びるはずの指標、例えば「一次面接設定数」などをKPIとして設定します。
【課題からKPIを設定する考え方の一例】
- 課題: 面接通過率が低い
- 原因の仮説: 面接対策の不足ではなく、求人と候補者の「マッチングの質」に課題があるのではないか?
- 社内数値のファクト確認: 「マッチングの質が高い」とはどのような状態か。企業と候補者の双方が「会いたい」と感じている状態ではないか?「一次面接設定数」が多い人ほど、結果的に成約数も多い傾向はないか?
- KPI設定案: 面接通過率そのものではなく、自分たちの行動で積み上げられる「一次面接設定数」を追うことで、間接的にマッチング精度を高める。
このように、課題となっている指標に外部要因が多く含まれる場合は、それを直接追うのではなく、成果と相関のあるプロセス指標を分析したうえで、課題の手前にある「自分たちの行動」をKPIとして設定することが、マネージャーの重要な役割です。
KPIベースでのフィードバック方法とは?
KPIを設定しても、振り返りの質が低ければ意味がありません。メンバーの自律性を育てるためには、フィードバックのやり方にも工夫が必要です。
仮説を持って臨み、まずは相手に語らせる
数字が未達だったとき、マネージャーがいきなり「原因はこれだ」と答えを示してしまうのは避けたいところです。まずはマネージャー自身が、「なぜこの数字になったのか」という仮説を事前に用意します。
ただし、その仮説はいったん脇に置き、最初にメンバー本人へ「なぜだと思う?」と問いかけ、振り返りを促します。
思考の答え合わせをする
メンバーから出てきた事実や自己分析と、マネージャーが用意していた仮説を照らし合わせます。
「なるほど、君はそう考えたんだね。僕はここがボトルネックだと思っていたけれど、どう思う?」
このように対話を重ねることで、メンバーは一方的に詰められた感覚を持つことなく、「自分の思考のどこが足りなかったのか」に気づくことができます。
- 仮説準備: マネージャー自身が「なぜこの数字になったのか」という仮説を持つ。
- 本人に問う: まずメンバーに「なぜだと思う?」と振り返りを求め、思考を引き出す。
- 答え合わせ: メンバーの分析と自分の仮説を照らし合わせ、「僕はこう見ていたけれど、どう思う?」と対話する。
マネージャーは正解を与える存在ではなく、考え方の選択肢や気づきを提供する役割に徹することが重要です。このプロセスを繰り返すことで、メンバーは「次はこう考えてみよう」という思考の型を身につけ、自律性が少しずつ育っていきます。

まとめ:KPIマネジメントの要とは?
人材紹介事業におけるKPIマネジメントは、以下の3点を意識して設計・運用することで、成果を出し続けられるチームを作ることができます。
- コントロール可能な指標を追う:
クライアントや求職者の都合といった外的要因ではなく、自分たちの努力で変えられる指標をKPIに設定し、行動の改善につなげる。
具体的なKPI指標例:求人応募数、一次面接設定数 など - 成長のための共通言語にする:
日々更新されるKPIの数字は、マネージャーがメンバーを詰めるためのものではなく、メンバー自身が考え、行動するための材料です。適切なKPIマネジメントによって、メンバーは手応えや成長を感じながら成果を目指せるようになります。 - 自走できるチームを作る:
適切なKPI設定とマネージャーからのフィードバックがあれば、メンバーは自らPDCAを回せるようになります。最終的に、細かな管理をしなくても成果が出る状態を作ることが、理想的なチームの姿です。
数字を追うだけの苦しいマネジメントから脱却し、KPIを「チームを強くする武器」として活用していきましょう。
【Q&A】よくある質問と回答
Q. なぜ成約数などを個人のKPIにしてはいけないのですか?
A. 成約数は、候補者や企業の意思決定といった外的要因に左右されるため、個人の努力だけで完全にコントロールできないからです。これをKPIにすると、何を改善すべきかが見えにくくなり、精神論や言い訳に陥りやすくなります。行動を変えるためには、プロセス指標をKPIに設定する必要があります。
Q. KPIマネジメントの目指すべきゴールは何ですか?
A. マネージャーが細かく指示を出さなくても、メンバー自身がKPIを見て考え、行動を修正できる「自走する組織」を作ることです。
Q. 面接通過率を上げるために最適なKPIは何ですか?
A. 通過率そのものではなく、「一次面接設定数」や「求人応募獲得数」など、自分たちの行動でコントロール可能な指標を設定することをおすすめします。データ上、面接設定数が多い案件はマッチングの質が高く、結果として成約につながりやすい傾向があります。
Q. KPI未達の部下に対して、どのようにフィードバックすれば良いですか?
A. いきなり指摘や正解を示すのではなく、まず本人に振り返りをさせ、その後にマネージャーが用意していた仮説と照らし合わせる対話を行ってください。これにより、部下は自分で考える力を養うことができます。
Q. 人材紹介におけるKPIマネジメントの成功の秘訣は?
A. 「結果」や「外的要因が強く影響する指標」ではなく、「行動で変えられる指標」にKPIを置くことです。メンバーが自分でコントロールできる指標を通じて思考と改善を重ねることで、「自走するチーム」が育っていきます。







